@toasdm
「あーーー……」
寝起きのぼんやりした頭がやけにすっきり働いたのは、今想楽の隣でぐっすりと眠っている彼女の、彼女らしいお茶目というか、なんというか。
「何か勘違いしてるのかなー……」
眠る彼女の頬を撫でながら、想楽は苦笑するしかなかった。
打診はあった。
食べ物の好みに関しては一緒に暮らしていく中でそこそこ互いの好きなものはわかってきてはいたが、ことチョコレートとなると話は別らしく、彼女はそれこそ、何週間も前から、ことあるごとに想楽に尋ねていた。
「甘いもの、って好きですか?」
「そうだなぁー、落雁は好きだよー」
「それは、知ってますけど……」
そういうのではなく、もっと洋風の、ともじもじする彼女の意図するところは、想楽にはうっすらとわかっていた。バレンタインだよねー、とつっこまなかったのは、想楽なりの気遣いのつもりだった。
「洋風かぁー」
絶対にもらえるとわかっていても、やはりちらつかせられると嬉しいものだ。基本的になんでもおいしくいただきますー、と曖昧に答え、想楽は彼女の自主性に任せることにした。
なんだろうねー。ケーキかなー、トリュフかもー?ふふふ、楽しみだなー。
そんな風にわくわくする想楽とは正反対に、彼女は悩んでいた。バレンタインの催事コーナーを覗いたり、レシピサイトを眺めて唸ってみたり、ハートの赤とチョコレートの茶色に埋もれて思い悩む彼女の様子は、想楽の心を上手に満たしてくすぐっていた。
なんでもおいしくいただく、というのは、もちろん想楽の本心だった。しかしそれは、バレンタインのチョコレート菓子のみを指しているわけでもなかったのだ。
プロデューサーさんがそうやって、僕のことばっかり考えててくれるのが見て取れると、僕はとってもおいしいんだよねー。
想楽の本心は、そこにもあった。バレンタイン当日まで、想楽は彼女の唸りを聞きながら、やっぱり僕はこの人が好きだなー、とにんまり笑うことが多かった。
そして、バレンタイン当日の朝。
いつも(冬場は特にしっかりと)抱きしめて眠る彼女の香りに、甘く香ばしいチョコレートの香りを感じたのは、もしかしたら彼女が、手作りの何かを自分が寝ている間にこっそり用意してくれていたのかもしれない、と、まどろみの縁から抜け出して想楽はぼんやり考えた。
開いた瞼は光の強さを迷惑そうに少し下りる。確か一緒に寝たはずなんだけどなー、と昨夜の記憶を手繰り寄せながら、想楽はもう一度、瞼を開けた。
朝、目を覚まして、一番最初に大好きな人の顔があることの幸せには。もう随分と前から慣れ親しんだものだと思っていたが、毎朝想楽はそれを噛み締める。可愛いなあ、と緩む頬を愛おしげにすりよせて、想楽はゆっくりゆっくり、目を開ける。
光に慣れ始めた瞳はまだ映していなかったが、のびをしようとした手が、違和感に止まる。え、と寝返りを打って枕元を見ると、そこには、可愛らしくラッピングされた、その――。
「あーーー……チョコレート……だよねー……?」
彼女から漂ってきているものだとばかり思っていたその香りは、想楽の枕元に、まるでクリスマスプレゼントのようにそっと置かれていたものから漂ってきていた。何か別なイベントと勘違いしてるんじゃないのー?と思わず笑った想楽の隣で、彼女はまだぐっすりと眠っている。
「慌てんぼうさんなのか、遅刻してきたのか、知らないけどさー……」
まだ眠る彼女の頬を優しく撫でて、想楽は耳元にありがとうと囁いてまた笑う。
「僕のサンタさんは、二月にもお仕事するみたいだねー……」
メリーバレンタイン、とくすくす笑って、想楽はもう一度布団にもぐりこみ、彼女をぎゅっと抱きしめる。
もう、中身なんてどうでもよくなる程度には、想楽は彼女が愛おしくてたまらなかった。