@toasdm
好き嫌いしちゃダメだろ?と毎日のように言われていたが、彼女の好き嫌いはあまり改善される様子がなかった。
例えば、オムライスの中に入っているグリーンピースだとか、シチューに入っている人参だとか、鍋料理の中に入っている長ねぎだとか。
言ってしまえばそれらは、どちらかというと子供じみた印象の好き嫌いで、輝はそんな彼女を可愛らしいと思う気持ちと、好き嫌いはダメだ、としっかり教育しなければいけないという気持ちの間で時折ぐらぐらと揺れていた。彼女がしっかりと食べられるように努力をするのが好きだった、とも言うが。
「ほら」
「うーーーー……輝さんのいじわるー……」
その拗ね方も子供っぽくて可愛いよな、と思う気持ちを料理の中にうまく隠して、輝はシチューを並べる。
「料理は愛情だろ?」
俺の愛情ちゃんと食ってくれよ、と笑う輝に促がされて、本当は見たくもない、大嫌いな人参が入ったシチューを、彼女は顔を上げて見た。
「……え」
「愛情を可視化してみたんだけどさ」
ちゃんと見えるよな?と悪戯そうに笑う輝の顔とシチューの人参とを、彼女は何往復か視線を移動させて見比べる。
温かそうな湯気が立ち上る皿の上、ハートの形にくり抜かれた人参は、そのまま輝の愛情だ。輝の言葉を借りるならそれは、まさに、愛情を可視化したものだった。
「可愛い……」
「あっはは、だろ?」
自慢げな顔をして、輝は今度はその脇に、ケーキの皿を一つ並べる。
「!!」
「苦手な人参、全部ちゃんと食えたらご褒美な」
「た、食べる!」
慌ててスプーンを持って、見える愛情を掬って、彼女は目を瞑って、えいっ、と口に放り込む。これじゃ先は長くなりそうだな、と溜め息をつきながら、向かいで格闘する彼女を見つめながら、温かい気持ちを抱きしめて輝もシチューを食べた。
「ぜ、全部、ぅ、食べた……」
「おおっ、すごいな、偉いぜ!」
やったな!と喜ぶ輝の手が、シチューの皿を空にした彼女の頭に伸びる。偉い偉いとわしわし撫でてやりながら、輝はにまにまと笑いそうになる自分の頬を、いつもより強めに意識して引き締めた。作戦はバレちゃだめだよな、と気合を入れた輝は皿を片付け、彼女の前にケーキを滑らせてフォークを手渡す。
「頑張ったからほら、ご褒美」
「うわぁーーーん! 嬉しい!!」
オレンジ色のシンプルなケーキにフォークをつきたてて、彼女はニコニコ顔でご褒美にありつく。
「人参、おいしくないですけど、んっ、ご褒美あると、頑張れちゃうんですよね」
はむはむと、甘いご褒美を堪能する彼女にいつネタバラシをしようか考えて、輝は頬杖をつく。なんですか?とそんな輝をきょとんと見つめる彼女に、くすくすと笑いながら輝はとうとう、漏らしてしまった。
「人参」
「?」
「それ、人参ケーキなんだぜ」
「え……?」
「あんたの嫌いな人参で作ったケーキなんだって、それ」
うそだぁ、と思わず席を立つ彼女を、子供じゃないんだから座って食えよと嗜めて、輝は笑いながらネタバラシをした。
「全然、気付かなかった……」
「だろ? しかもうまいって食ってたもんな」
「うん……もしかして人参っておいしい……?」
「かもな」
だってこれまた食べたい、と名残惜しそうに最後の一口を飲み込んだ彼女の頭をまたわしわしと撫でつけて、輝は笑った。
「ちゃんと好き嫌いなくなったら、また作ってやるからさ」
「うん……頑張ります……」
ごちそうさまでした、と手を合わせながら、彼女はぼんやりと、思うのだ。
たとえハートの形をしていなくても、このケーキには輝の愛情が可視化されていたような気がしたな、と。
おいしい愛情の後片付けをしながら、夜はのんびりと更けていった。