@takonsm
シオン•ブレッド=ラガードと呼ばれる緑剣6年生の女子生徒は、ぼんやりと寮の廊下を横断していた。
理由は特になく、意味もなく、ただ歩けば何か閃くのではという意味もない期待に少しだけ胸を膨らませていた。
ただそれだけの無為な行為であれど、彼女にとっては今行える唯一の暇潰しでもあった。
そんな無為な暇潰しであっても無価値ではないこともある。
黄杯寮の女子生徒、同じく6年のフィアベンド•フレイ•ラガードはバインダーとペンを持って緑剣寮の廊下を彷徨っていた。
「フィアベンドさん?」
シオンは後ろからフィアベンドの顔を覗き込むようにその表情を伺った。
「っ……シオン!!」
フィアベンドは無意識に距離を取る。
憎しみを隠すことなくシオンを意識する。
「そんなに警戒しないでくださいよ。それにここは皆さんの手前です。……話すなら、私の部屋にしませんか?」
優しい笑みを浮かべながら問いかける。
「行かない」
「行きましょう」
シオンはフィアベンドのその手をつかんで、強引に引きずるように直ぐ側の自室へと連れ込んだ。
質素な部屋の中の自分のベッドに彼女を押し倒す。
「いって……!? ……!?」
フィアベンドは気が付いた。シオンの手にしている銃……といってもただの玩具だが。それがこちらに向けられている。
「お前はこういうのが好きなんだよなぁ。同じ氏族だからな、知ってるぞ?」
シオンはフィアベンドがかつて死に際に撃たれたコメカミに銃を押しつける。
「やめろって……」
「知ってんだよこっちは。お前はある一定のストレスを抱えると体調不良を起こす。第一に鏡の空想の展開。第二に銃だ」
「やめろって、言って!!」
「お前は玩具だ。つまらない不死だ。死によって継承権を失ったクズだ。だから、遊ぶ」
机から筒状の万華鏡をフィアベンドの目に押し付ける。平行してコメカミに銃を押し付ける力も増す。
フィアベンドは魔法を行使してシオンを妥当としようとし、集中させる。
「やめとけよ。ここは学園の中だ。そんなことしたらよぉ。お前の評価は地に堕ちるぜ」
「お前……」
フィアベンドは冷たい目で相対する人を睨んだ。その様子を見てシオンはくすりと笑みを浮かべた。
「なぁ、元継承者殿。お前はさっさとくたばりな。後は私が上手くやる」
「断る」
「はァ?」
シオンは首を傾げる。くだらなさを感じたつまらない表情。
対してフィアベンドの方が熱くなっていた。怒りを吐き出すことを望んでいた。
「僕は、お前なんか嫌いだ。心から大っ嫌いだ!久しぶりにこんなことされたけど!僕はやっぱりお前は嫌いだよ!」
「嫌いしか言ってねぇなお前。私もお前嫌いだよ」
「今回は黙ってやる。何もなかったことにしてやる。でも、でも!」
「僕は成長してもうこれじゃぁ屈しないってか?」
「そうだ。僕は死んでるけど、だからこそ色んなことを培ってきた。だから、僕は!」
はぁ……と深いため息を吐き出すシオン。
もはや熱は冷めていた。同時にフィアベンドが足掻きだしたことに面白くなさを感じていた。
「もう黙ってろ。帰れ」
「……?」
「友情とか成長した私かっこいい話はつまんねぇんだ。ほら、萎えた。帰れ帰れ」
「……」
「初めて学園でこういうことをしたが、どうやらお前にやっても面白くねぇな。もう二度と私の前に出てくるなよ。失せろ」
「こっちからそうさせてもらうよ」
フィアベンドは怒りのままにこの部屋から退出していく。
残されたシオンは一人思う。
「友情と、成長なぁ……くだらねえの」
シオンの悦と憎しみは、フィアベンドの心が強くなってしまったばかりに冷め切ってしまった。
人知れずに行われた学園内では初めての家族喧嘩は、もう二度と起きることはなかった。