@toasdm
それは、ほんの少しの出来心というか、好奇心というか、とにかくなにか、そういった軽い気持ちのものだった。深い意図はなかった、とも言う。
「はあ」
「いえ、あの……」
嫌なら別に、と彼女はすぐさまその提案を引っ込めようとしたが、荘一郎はいやいや、と彼女の意見を引き止める。
「急やったもので」
「すみません……」
だから彼女は、引き止められたことに驚いたのだ。荘一郎は顎先に手を持っていき、少し考えるような素振りを見せる。
「学生時代以来ですわ」
「あ、それは私も、です……」
営業先からの帰路、たまたま目に付いた写真シールプリント機、いわゆる「プリクラ」の機械の並ぶゲームセンターの少し手前、二人は立ち止まり考える。
東雲さん、プリクラ撮りませんか?
彼女の方からそんな風に持ちかけられて、荘一郎もまた驚いたのだ。思わず間の抜けた、はあ、という曖昧な返事をしてしまってから、これでは断っていると思われても仕方がないかと気がついて、即座にフォローをする。別に嫌ではなかったが、彼女の意図がうまく飲み込めなかったせいだ。
「仕事の関係は大丈夫なんです?」
「あ、ええと」
荘一郎の言わんとしている事は彼女にもすぐに理解できた。アイドルなどという仕事をしている以上、彼らのルックス、つまりは肖像権は事務所に帰属する。プライベートで撮る分には問題はないはずです、と彼女に言われて、荘一郎はたおやかに、くすくすと笑った。
「プロデューサーさんは、私とプライベートでツーショットをお望みなんです?」
「え、は!?」
そういわれてしまうと、そういうことになってしまう。むしろ荘一郎が、彼女の意図をそう決めてしまったことになる。
「冗談の通じないお人ですね」
「……あ」
からかわれた、と耳まで真っ赤にした彼女は、なんでもないです、とゲームセンターの前から移動しようと歩き出す。
「待ってください」
「ぅあ!?」
「気になるんでしたら、ええですよ」
歩き出した彼女の手首を掴む荘一郎の手は、彼の普段纏っている印象からはかけ離れた力強い手だった。ぐっ、と引き寄せられてバランスを崩しかけた彼女を、おっと、と胸板で受け止めて、荘一郎は悪戯そうに笑って彼女の耳元で囁いた。
「お望みなら、お見せしましょ」
「な……なに、を……」
ニコニコと笑う荘一郎からぱっと身を離して、彼女はバクバクとうるさい心臓を知らずぎゅっと上から押さえる。
「気になるんでしょう? 私の目が、プリクラの加工でどうなるのか」
「なん……っ!?」
なんでわかったの、と思わず本音を漏らした彼女の手を引いて、荘一郎はゲームセンターへと入っていく。普段の荘一郎のあの目は、プリクラのデカ目加工でどうなるんだろうか、というきっかけについては、彼女は一言も話していなかったはずなのに。
「でもプロデューサーさん、気をつけてくださいね」
何をですか、と機械のカーテンを捲る彼女の後ろから、荘一郎はまた近付いて耳元で囁いた。
「完全密室やないにしても、男と二人で物陰隠れて、これから密着するんや、って……忘れんといてください」
カーテンを捲りあげたまま固まる彼女の脇をすり抜けて、荘一郎は財布の中から小銭を取り出す。プロデューサーさん、と荘一郎にせかされても、彼女はなかなか動くことが出来なかった。
先ほどのように冗談で、からかっているだけだったとしても。彼女の好奇心が招いた結果は簡単に、彼女の自由を殺してしまった。