@toasdm
「うわぁ、可愛い!」
お前さんもこういうのは好きかい?と少女らしさをからかいながら、雨彦は袋に入った色とりどりのラムネ菓子を彼女のデスクに置く。懐かしいです、とパステルカラーの丸いラムネ菓子を眺める彼女に、味もいいんだぜ、と雨彦は袋を開け、一粒取り出し口に含んだ。
「ああ……懐かしいな」
「んーー♪」
私も、と彼女も一粒つまみあげ、雨彦に倣って口に放り込む。口の中いっぱいに広がるほんのりとした酸味を混ぜた桃のような風味に、二人は目を細めた。カリッとしっかり硬いが、口の中でほどけるように溶けていく食感もあり、普段みかけるような普通のラムネ菓子とは少し違うような気がして彼女は訪ねた。
「これ、どこで売ってるんですか?」
「ん? こいつかい?」
もうひとつ、と彼女の後ろから手を伸ばし、雨彦は青いラムネ菓子をカリカリとかじる。
「俺の地元さ」
「へぇ……奈良ってラムネが有名だったんだ……」
遠くて買いにいけそうにないなぁ、と少し残念そうにしながら彼女も、薄桃色のラムネを口に含んだ。
「近くにあったとしても、買えるかどうかはわからないぜ?」
「そうなんですか?」
ころころと、口の中でラムネを転がして、彼女は振り返り雨彦を見上げる。ニヤリと笑った雨彦がスマートフォンを操作して、彼女に見せたのは「幻のラムネ」の文字だった。
「テレビかなんかで取り上げられてからは倍率が跳ね上がってるらしい」
「え……行列、抽選……?!」
住宅街にある小さな製菓会社が細々とやっていたものが、今では幻の人気商品になっているらしく、ころんと丸い少し大きな一粒が、とんでもない値段でネットオークションにかけられていることも珍しくはないとのことだった。
「俺が子供の頃には普通に食ってたもんだがね」
「へぇぇ~……え?」
「ん?」
はた、と彼女は伸ばしかけていた手を止める。食わねぇのかい?と彼女の隣に腰掛けた雨彦をじっと見つめて、彼女は何事か考えているようだった。
「あの、葛之葉さん」
「なんだい?」
かしこまった様子の彼女につられるようにして、雨彦も両手をひざの上に乗せてじっと話を聞く。
「……これ、どうやって買ってきたんですか?」
「普通に並んで買ってきたが」
「なにやってるんですか!!」
思わず立ち上がった彼女に少し驚いて、雨彦は少し仰け反る。立ち上がった勢いそのままに彼女はまくし立てるように言った。
「わざわざ地元に戻ってお菓子買うために朝から行列に並んできたってことですか!?」
「まあ、そうだな」
なにやってるんですか、ともう一度同じことを繰り返す彼女を落ち着けよと嗜めて、たいしたことはしてないさ、と雨彦はこともなげにラムネ菓子を口に放り込む。
「なつかしの味が恋しくなってね」
うまい、とラムネ菓子を噛み砕き、雨彦はにんまりと笑う。あなたアイドルなんですよ、なにやってるんですか、と未だ息巻く彼女もとりあえず座りなおし、ラムネ菓子を摘まんで食べる。
「あとはそうさな……」
後をひく独特の風味を噛み締めて、雨彦は彼女を意味深に見つめて言った。
「お前さんに、俺のなつかしの味ってやつを知ってもらいたかった――なんてな」
またそうやってからかって、と憤慨する彼女にアイドルなんですからと窘められて、雨彦は眉尻を下げる。目立ちすぎないようにするさと言えば、その身長じゃ絶対バレます、とすぐさまぴしゃりといい伏せられる。
知ってもらいたかったのは本当だぜ、の言葉と一緒に懐かしい味を飲み込んで、雨彦はころころとラムネ菓子を転がす彼女をしばらく眺めていた。