@toasdm
ないものねだりをしたところで、制限はどうしても取り払うことができない。想楽は歯がゆい思いでふらつく彼女の腰を支えた。
「大丈夫ー?」
「らい、りょーぶ、れっしゅ!」
「うーんダメだねー」
くすくすと苦笑して、想楽はへべれけになった彼女を支えて歩いた。目的地は彼女の家だ。何度か家の前まで送ったことはあるが、上がった事はなかった。上がりこんでしまうと、なんとなく、自制できる気がしなかったからだ。
のらりくらりと交わしてきた今日までの日々を、想楽は担当アイドルとして、片思いに身を焦がす男子大学生として、彼氏という絶対的なアドバンテージをもつ存在として彼女を家まで送り届けてきた。今日は担当アイドル兼彼氏だ。
「飲みすぎだよー」
「わぁぁ~ってますってぇ! あっは! あっははは!」
絡み酒と笑い上戸が合わさるとこうなるのか、と想楽は千鳥足を真っ直ぐ歩かせながら思う。
十九歳は二十歳以上ではないから、飲酒が法律で禁止されている。だから今日のような、打ち上げなどの酒の席では彼女と同じように酒を飲んで酔っ払うことはできないのだ。盛り上がる大人たちをうらやましいと思わない、といったら嘘になってしまうが……。
「もーー……」
泥酔して、けらけらと笑いながら全然歩いてくれない彼女を見ていると、大変そうだなぁと思わずにはいられなかった。
「歩けないー?」
「あーるけるぅー」
「うんうん、そういうのは立ってから言ってねー」
とうとうその場に座り込んだ彼女の前で、想楽はしゃがんで視線を下げる。ぱんつ見えちゃうよ、とスカートの裾を引っ張ってから、想楽はそのまま彼女に背を向けた。
「北村タクシーだよー」
「あっははははははははははは!」
初乗り三百十五円です、とおどけて振り返る想楽の背中に、彼女は躊躇なくしがみついて体を預ける。
「重……っ」
「どーーーーぉせ、おーもーいーでーすよーー」
「うっ、暴れないで、ほんと、重たい……」
あとおっぱい当たってる、の言葉だけはなんとか飲み込んで、想楽は彼女を背負ったまま歩き出した。先の角を曲がれば見えるくらいの位置だからと彼女をおぶったのはいいが、正直に言うと、結構、重たかった。
踏み出す一歩がずしりと重い。夏場の緩んだアスファルトなら足跡がつくかもしれない、と思ったのは大げさだったかもしれないが、これを落としてはならないという責任もプラスするとちょうどよくつりあっているようにも思えた。後数百メートルをこんなに長く感じたことはない、と息を切らせながらも、想楽は彼女を家まで送り届けることになんとか成功した。
「うぁーーーー……はい、到着ー……」
「……想楽さん」
彼女の酔いが少し醒めてしまうほど時間がかかったのだろう、少しだけ冷静な声を背中で聞いて、想楽はなぁに、と振り返る。
「私、やせますね」
「……っふふ」
なにそれー、と肩を震わせて笑う想楽の背中で、彼女は酒ではない色で頬を染めていた。
「だって……」
「重かったけど大丈夫だよー?」
重いって言わないで、とばしばし背中を叩いてくる彼女を地面に下ろそうとしたのだが、彼女はぎゅっとしがみついたままだ。
「降りないのー?」
「うぅ…………」
か細い声でぼそぼそと、彼女は想楽の耳元で何事か呟いてから、笑わないでくださいと前置きをして言った。
「……おんぶ、気持ちよかったので…………」
「………………」
またしてください、の声はあまりにも小さかったが。
「あの、下ろして」
「ふふ、ダメでーす」
おぶったままの想楽の耳には、フルボリュームの囁きに聞こえた。