@Dazzle00H
「ジョジョ、ちょっといいですか?明日の予定なんですが…」
「ジョルノ!新しく出来たジェラート屋にはもう行ったか?俺まだなんだけどよぉ〜、仕事終わったらさ、あとで一緒に行こうぜ!」
「なあジョルノ、この前お前が言ってたあのリストランテなんだけどよお、もう一回詳しく教えてくれねぇ?」
我らがボス、ジョルノ・ジョバァーナの名前が引っ切り無しに呼ばれるなんてのは日常茶飯事で、彼が書類を机の上に置き一息つこうとした時には誰かしろ直ぐに近寄り彼の名を呼んでは話し掛けている。そのやり取りは知らぬ者が見れば彼らが上司と部下だなんて関係性には到底思えぬ光景だ。
組織のボスに位置する彼、ジョルノだが、元は自分達のチームに入った年下の新入りであり、数年経つ今でもそんな意識が抜け切れないという事と、ジョルノ自身も自分を取り囲む彼らを部下として見てはおらず、多くの死線や修羅場を潜り抜けてきた仲間とし接しているからであろう。今も楽しげにジョルノを中心とし、ミスタが広げた雑誌を眺めナランチャとフーゴを交えワイワイと雑談を交わしている。
そんな微笑ましい光景を自身に振り分けられている書類を片付けるべく机と向き合いながらもブチャラティは時折視線を向け眺めていた。
ブチャラティにとってジョルノは仲間であり、上司であり、何よりも二人だけの秘密を共有した共犯者であり、そして…愛する恋人である。そんな恋人が誰からも信頼を寄せられ愛されている姿はブチャラティにとって至極幸せな事であった。
誰からも愛される彼が…ジョルノが愛しているのは恋人である自分だという優越感にも似た感情と関係があるからこそ、ブチャラティはニコニコとした表情でその光景を穏やかに見ていることが出来るのだ。
…ただ、一人の人物とのやり取りを抜かして、だ。
「…アバッキオ、おかえりなさい。」
「…アァ。」
任務を任されフィレンツェまで出張していた人物、レオーネ・アバッキオが執務室の扉を開ければそれまで雑誌に目を落としていた彼らがそちらへと視線を向けると口々にお疲れ、お帰りと手を振り迎え入れる。
それはジョルノも同様で、腰掛けていたソファーから立ち上がり彼の傍まで近寄れば任務の報告をと二人は向き合い会話を交わす。アバッキオが取り出した報告書に目を落とし頷きながら耳を傾けるジョルノとアバッキオの距離は妙に近い。それは一枚の紙を二人で見るから当たり前ではあるのだが、…だが、それにしては近くないかとブチャラティは紙の上を走らせていたペンの動きをピタリと止めた。
…近いといってもミスタやナランチャがジョルノと話をする時の方が近いというか体をピタリと寄せ合い触れ合っており、最早距離なんてものが存在しない光景を良く目にするのだが、ブチャラティはその光景に対して然程気にした事はない。
「…そうですか、…ご苦労様でした。今日はもう帰ってゆっくり休んで下さい」
「アァ、言われなくてもそうするぜ。……オイ、ほらよ。」
「…え?…これ…フィレンツェで有名なチョコラテリアの…!!…いいんですか?」
「いらねーなら他の奴にくれりゃいい。テメェの好きにしろ。」
「そんな、まさか!大事に頂きますね…グラッツェ、アバッキオ。」
フィレンツェで最も有名なチョコラテリアの紙袋を受け取ったジョルノは花が咲いたかのような笑みを咲き誇らせ礼を言い、礼を告げられた本人はフンと鼻を鳴らしそんなもんで喜ぶなんてガキだなと悪態を吐きながらも口元が微かにだが緩んでるのをブチャラティは見逃さなかった。
「えー!ジョルノだけズリィ!俺らにはないのかよ、アバッキオー!」
ジョルノが受け取った紙袋の中身がチョコレートだとわかったナランチャがブーブーと頬を膨らませ文句を垂れていれば、アバッキオがうるせぇなと舌打ちをする。
「荷物になるんだ、そう何個も買ってこねぇ。…そんなに欲しけりゃ分けて貰えばいいだろうがよ。」
「あ、そうだな!なあ!ジョルノ、分けてくれよ〜」
アバッキオの提案にそうかと目を輝かせたナランチャはお願いと両の掌を合わせ懇願し、え!じゃあ俺もと話に乗っかってはナランチャ同様に掌を合わせたミスタへと視線を向けたジョルノはニッコリと口元に笑みを浮かべ、ダメですと一蹴した。
「これはアバッキオが僕にくれたものですから、あげません。全部僕が頂きます。」
「………。」
ええーっ、ヒデェ!と声を上げるナランチャとミスタを無視してジョルノは大切そうに、愛しげに紙袋を一撫でする。普段滅多に見せぬ彼の年相応な姿を見てアバッキオが口元を抑える光景に、ブチャラティはもう黙ってはいられなかった。
「ああ、羨ましいな。俺にもそのチョコレート、分けてくれないか?ジョルノ。」
その一言に、ピシリとジョルノとアバッキオが固まった。まさかの人物からのお願いに、二人は数度瞬きを繰り返しては聞き間違いかとお互い顔を見合わせるのも気に入らなかった。
ガタリと音を立て椅子から立ち上がったブチャラティが笑顔を貼り付けて二人の傍まで歩み寄る。そして、ジョルノが手に持つ紙袋を指差しては再度ニコリと笑みを浮かべ口を開いた。
「なあ、ジョルノ、アバッキオ。俺にもこのチョコレート…くれないか?」
ダメか?と、首を傾げるブチャラティのお願いに対してジョルノは怯む。アバッキオに関してはブチャラティの瞳の奥に燃え盛る嫉妬の炎を見出してしまったものだから、スッと視線を逸らし冷や汗を垂らしていた。
「…なあ、いいだろ?」
ジョルノ、と、笑みを口元に浮かべ距離を詰めてくるブチャラティから自然と距離を取るように後ろへと後退れば壁際まで追い詰められてしまった。これは…と、紙袋を胸に抱くようにし目を逸らすジョルノの顔の横へとダンッと音立て壁に手を着き覗き込んでくるブチャラティの目は据わっている。
「ジョルノ」
地を這うような声で名を呼ばれビクリと肩を跳ねさせ顔をあげたジョルノは、ブチャラティと瞳を合わせ下唇をキュッと噛み締めた後に情けなく眉尻を垂らせばコクリと首を縦に振り弱々しく頷いた。
「…わ、わかりましたよ…分けてあげます…」
渋々といった様子ながらもジョルノからの了承を得ればコロリと表情を変えたブチャラティはよしよしとジョルノの頭を撫でながら満足気な笑みを浮かべ額に口付けた。
「一緒に食べような、ジョルノ。あぁ、そうだ……グラッツェ、アバッキオ。」
チョコレートをジョルノに贈った相手、アバッキオへと細めた双眸を向け唇に弧を描き礼を告げるブチャラティのその冷たい瞳に、その場に居た全員が身を凍らせる。
チョコレートを独り占めする事が出来なかった事と、恋人の嫉妬心からくる仲間への振る舞いにジョルノは深い溜息を一つ吐き出した。
おしまい。