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特に誕生日ネタではないけど黒崎さんの話

全体公開 2 895文字
2014-09-29 23:12:19
Posted by @ushimimilk

 蘭丸がはじめて買って貰ったベースはフォデラのオートクチュールだった。世界で一つしかない楽器である。資産家だった両親は、息子が興味を示したエレキベースという楽器に決して素晴らしく良い顔はしなかったけれども、それでも中途半端な楽器を弾くくらいならきちんとしたものを弾きなさいと、誕生日に楽器と音響道具をひと揃え、ぽんと蘭丸に贈ってくれた。
 大喜びで、それこそ抱きかかえて眠るほど気に入っていた楽器が、トンデモ価格の親馬鹿楽器だったことは、後に家が倒産して貧乏になってから知った。馬鹿みたいな買い取り査定額を聞いて、一度は売り払おうとも考えたが、母にも妹にも挙って止められたので、彼女は今も実家の、小さな蘭丸の部屋で主人の帰りを待っている。今は年に一度、帰省の時に触れる以上のことはない。
 彼女を愛していないという訳ではなくて、今の蘭丸は彼女を抱くのに見合う男ではないからだった。そもそも蘭丸のボロアパートにどんと置いておくのは防犯上いくら何でも問題だ。彼女はもっと、オートロックの何重にもかかった高層マンションで、温湿度を常に管理された部屋で、鎮座しているべき女神である。
 それに、実家に残した母と妹に、困ったときにはいつでも売り払って現金に変えられるものを残しておきたくもあった。保険というか、お守りというか、覚悟というか、それはそういった類のものだ。売られてしまったら、もう二度と彼女をこの腕に抱けなくなってしまったら、きっと生涯泣き暮らすだろうが、それでも蘭丸にはそれだけの覚悟があった。そもそも、家族すら守れぬ男が彼女を抱くことなど許されないだろう。
 彼女のことを、蘭丸は心から愛していた。彼女のためなら何でもできる気がした。彼女には全てが詰め込まれている。例えばそれは音楽への尽きることのない愛情だ。かつて蘭丸にベースを教えてくれた男への敬愛だ。両親から貰った親愛だ。
 彼女を抱き、ピックアップに指を乗せ、弦を弾き、フレットを押さえるためなら、黒崎蘭丸はきっと何にでもなれる。何だってできる。


2014.9.29
Happy birthday to 黒崎蘭丸さん



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