.

広告表示切替

【LETTER(ネタバレ注意)】本当の家族を得た日

@yudukikiri
Publish to anyone
2019-03-14 21:19:12

ホワイトデーに関係なくなってきた後日談を削除した後に何気なく書いてみたら長くなりました。ぶっちゃけて言うと直樹の闇が深く、いきなりシリアス突入しますのでお気をつけください。 LETTERのTRUE END後の設定(アフターストーリーの後くらい)で作成していますので、各種ネタバレにご注意ください。

 ホワイトデーの翌日に泉大山市に帰るとき、僕は「次は花見のタイミングに行く」と言って、言葉通りに4月頭に愛海豊町に行ったり、5月のGWに「俺達も連れて行け!」と喚く愁と藤堂さんを乗せて愛海豊町に遊びに行ったりしていた。そうしている内に誕生日が来て僕は25歳になっていた。
 その後も「明日香さんと翔太さんが結婚するからお祝いに行く」とか(祝いたいのは嘘じゃない)、何かと理由をつけて月イチくらいで沙織ちゃんに会いに行っていたら……。

「直樹さん。いい加減、沙織を嫁にもらったら?」
 呆れ半分微笑ましさ半分といった顔で海野さんに言われてしまった。

 僕が家族を持つ。そのことは嫌じゃない。でも、僕が沙織ちゃんを貰うというのは想像がつかなかった。
 遠藤家は僕で終わり。残したい気持ちは全くないというわけじゃないけど、なくなったところで未練はないし、僕の方から既に絶縁を宣言して両親も納得しているからなぁ……。

 両親の「今までごめんなさい」という言葉は流石にこたえたなぁ。血の繋がりでしかない赤の他人って感じがしていたから平気だとは思っていたけど、つい「今更謝っても遅いだろ」って言いかけたし。そう。何もかも遅かったんだよ。僕も両親も。もっと早く僕が訴えていれば違ったかもしれないんだ。会えなくても電話やメール、手紙だって……。

「直樹さん?」
「あ。すみません。ちょっと考えごとをしてしまって……。僕は沙織ちゃんと結婚したい気持ちはありますが、婿に入りたいです」
 言ってから気づいた僕の気持ち。家族は欲しいけど、今の暖かい『海野家』という場所で沙織ちゃんと生きていたい。『遠藤』という苗字は僕に過去を思い起こさせるし、沙織ちゃんが『遠藤 沙織』になるよりは僕が『海野 直樹』として生きていく方が嬉しい。
「え? 私は直樹さんが来てくれると嬉しいけれど……無理していない? どうしてそう思ったの?」
 海野さんが僕を見て心配そうに声をかけてくれる。事情を話していないからなぁ。
「直樹くん、三月に佐々木くんとの電話で言っていた『両親に頼れない』って、今の話と何か関係があるの?」
 どう話そうか悩んでいたら沙織ちゃんが聞いてきた。どちらにしても、沙織ちゃんと結婚するなら話しておかなきゃいけないことだから、ありのまま全部話しておこう。

 腹をくくった僕は、沙織ちゃんと海野さんに全てを話した。

 前に沙織ちゃんや藤堂さんにも話していた生い立ちを含めて少し長い話になったけど、沙織ちゃんも海野さんも嫌な顔をしないで黙って聞いていてくれた。

「そう……。辛かったわね……って、沙織。沙織が泣いてどうするのよ」
「だって……っ。直樹くん、の方が、ずっと…っ、辛い思い、をしていたのにっ、私は、いつも、直樹くんに、助けてもらって、ばっかりで……っ!」
「仕方ないわね……沙織、泣いてもいいから、少し落ち着いてから、ね?」
 優しく声をかける海野さんと頷く沙織ちゃんを見ながら、知らぬ『母の優しさ』を知ったような気がした。

「ごめんね、直樹くん」
「気にしなくていいよ。沙織ちゃんは何も悪くないよ」
「でも……「沙織ちゃんに話さなかったんだから、何も知らなかった沙織ちゃんが気に病むことはないし、こうして沙織ちゃんが元気にお母さんと生きてくれていることが、僕にとっての救いなんだから」
 まだ気にしている沙織ちゃんに食い気味で否定する。そうだ。僕と同じ思いをしていた沙織ちゃんがお母さんと過ごせるようになって、僕は心底嬉しくて羨ましくて。僕も同じように過ごせるかなっていう希望や話をしてみようという勇気ももらったんだ。
 でも、泉大山市に帰ってきた時、僕と沙織ちゃんの状況は違うってすぐに気づいた。
 沙織ちゃんのお母さんである海野さんは沙織ちゃんのことを大切に想っていて。一緒に過ごしたいって思っていたけど、僕の両親は、愛こそあるのかもしれないけど、一度も僕に言ってくれたことはない。そうだ。彼らにとって、僕という存在は『産んだから育てなきゃいけない』という『義務の対象』でしかなかったんだ。

そこまで考えていたら。両サイドから温もりを感じた。

「え?」
「大丈夫。これからは、私達が直樹くんの家族だよ」
「今までこうされたことは少なかったと思うけれど、これからは私が、私じゃ気まずかったら沙織でもいいわ。遠慮しないでちゃんと甘えなさい」
「っ!」
 涙が止められない。止めようとする気持ちはあるけれど、『少なくとも今は止めようとしなくても良いのだ』という気持ちの方が強くて涙が止まってくれない。沙織ちゃんも海野さんも僕が落ち着くまでずっと抱きしめてくれていてそっとしてくれた。

 僕は生まれて初めて『本当の家族の温もり』を知った。

「落ち着きました。ありがとうございます」
 少しスッキリしたような気がする。
「そう? それなら良かったわ。飲み物いる?」
「はい」
「お母さん、私もー」
「はいはい」
 海野さんは、すぐに麦茶を入れたコップを三つ持ってきて僕達に渡してくれた。
「僕、来月頭に引っ越すことに決めました。部屋探しをするので、今日のところはこれで帰ります」
「あら。それなら家に来なさいな。部屋なら沢山余ってるし。結婚はまだにしても、先に一緒に暮らすのは悪くないでしょう。家族なんだし。それにしても、急ね。大丈夫?」
「元々こっちに引っ越すつもりだったので。その分のお金も貯金していますので問題ないです」
 いくつか掛け持ちしているバイトも短期ばかりで、つい先週に契約が終わって、長く続けているバイトそろそろ契約更新の時期だから、ちょうどいいだろ。問題は今ある家電の処分だよなぁ。リサイクルショップに持って行くにも僕と愁だけだとちょっと心配だ。
 前回の僕の引っ越しの時を思い出す。二人共慣れない引っ越しに戸惑って時間がかかっちゃったんだよなぁ。新規で買うものだけだからって引越し屋に頼まなかったのも悪いけど。
「そう。それでも、人手が必要よね……」
「私、手伝いに行くっ! 細かいものとか荷造りとか任せて! あ。コレクションも!」
「沙織ちゃん、ありがとう。でも、コレクションのことはいいから」
「コレクション?」
「そうそう。お母さん、あのね。バレンタインデーの日に直樹くんの家に行ったら列車の模型がいっぱい「沙織ちゃん、わざわざ言わなくてもいいでしょ!」
「あら。じゃあ、直樹さんの趣味部屋も用意しないと」
「だよね! お母さんもそう思うよね!」
 この母娘、理解が早すぎる……っ!
「でも、男手もあった方がいいわよね?」
「一応、愁に手伝ってもらうつもりで。今回はリサイクルショップに売りに行くだけだから引越し屋に頼むのも……」
「あ。そうだ!」
「沙織ちゃん?」
「ちょっと電話するねー……あ。明日香さん? あのね、来月頭って、明日香さんと翔太さんってお仕事お休みな日、あるー? え? えー!? そうなの? おめでとう! あ。それじゃあ、直樹くんの引越しの手伝いをお願いしようと思ったけどやめるね。え? そう? わかった。それなら、明日香さんは家に来るといいよ! お母さんいるし! うん。わかった。またねー!」
「明日香さんに電話してたの?」
「そうそう。あのね、明日香さんに赤ちゃんができたんだって!」
「本当!?」
「うん。『既に翔太がうるさい』だって」
 でも、きっと明日香さん嬉しいんだろうなぁ。
「多分、後でみんなにメールするんじゃないかな? あ。それでね、翔太さん達に手伝いに来てもらおうとしたんだけど、明日香さんに赤ちゃんができたからやめようとしたんだ。でも、明日香さんが『翔太だけ放り込むよ。静かになるし、ちょうどいいでしょ』って言ってたの。その時に翔太さんの『ひどいっ!』って声も聞こえてきてね」
 容易に想像がつくなぁ。
「あ。でも、翔太さんが『俺、手伝いに行くよー』って言ってくれたよ!」
「それは正直助かるなぁ。後でお礼言っておこう」
「後でお休みの日をメールで教えてくれるって。引っ越しの日を決めたらメールで教えてあげてね!」
「わかった。ありがとう、沙織ちゃん」
「いえいえー! これで直樹くんも一緒に暮らせるぞー!」
 僕、まだ返事してないんだけど……まぁ、いいか。遅いか早いかの違いなんだろうし。
「うん。これからよろしくお願いします」
「うん! こちらこそ、よろしくね! 直樹くん」
「私からもよろしくお願いします。それにしても、お祝いが続くと嬉しいわね」
「本当だねー」

 僕が『海野 直樹』になるまで、あと一年。


You have to sign in to post a comment or to favorites.

Sign in with Twitter


Send Message

@yudukikiri
弓月キリ【月夜のよろず屋】@春通販イベント開催予定
Share this page

Theme change : 夜間モード
© 2020 Privatter All Rights Reserved.