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どちらも僕の

全体公開 4946文字
2019-03-28 23:14:48

南吉と啄木との出会いとそのあとのこととかいつもの日常話

Posted by @akirenge

【どちらも僕の】

そこにあったのは、森だった。
周囲は木々が生えていて、空は、恐らくはとても眩しいのだろう。見上げることはないけれど、光が差しているから、分かる。
ふわふわと意識や体が浮かんでいるような状態だ。

「発見っ。新しい文豪じゃねーか。アイツが喜んで手当とか倍増してくれねーかな」

声がした。元気な声だ。
目の前には明るくて快活そうな青年が居た。黄色い髪の毛の中に赤い色が入っている。

「君は?」

「俺様は石川啄木だ。お前は、誰だ」

石川啄木、何処かで聞いたことがある。彼は名乗ることにした。

「ぼくは新美南吉。こっちは小狐のごんだよ」

「新美南吉か。お前の本なら読んだぜ! 分館にあるからな。行くか。外に出ねえとな」

「外?」

啄木は軽く地面を靴のつま先で蹴っていた。おーし、飛べる飛べると何かを確認しているようだ。

「こっからお前を連れて、外に出るんだよ。侵蝕者については知ってるな。文学を消そうとする分けのわからん奴、俺様達はそいつらと戦って、
金貰って、遊んで、飯食って寝たりするんだ」

侵蝕者と聞いて南吉は思い当たることがあった。謎の敵、訳の分からない何か、南吉の作ったモノを壊そうとしている何かだ。
南吉がモノ、それは、

「ごんも一緒で良いの」

「良いって言うか。ごんはお前の大事なもんだろ。お前の話、読んだぜ。ごんぎつね。どっちも好きだ」

「どっちも……

聴いたら彼は笑顔で返した。ごんぎつねは新美南吉が書いた作品だ。どっちも、と反すうする。

「二つあるだろ。鈴木三重吉が編集した方と、そうじゃない方。三重吉の方が本が沢山あったけど、興味があったから全集探したらあったし、
読んだんだよ。俺様はどっちも好きだ」

ごんぎつねは南吉の書いた作品だ。茂平とごんの物語である。ごんぎつねは、二種類ある。鈴木三重吉が手を加えた方とそうではない方だ。
啄木の言葉はとても嬉しいものだったけれど、その分、訳の分からないところがある。

「全集……

「そっか。お前も俺様みたいなもんなんだな。とりあえず、出るか。外は面白いぜ」

何かに納得しながらも、啄木が手を差しだしてきた。南吉は、啄木の手を掴む。
啄木は軽く地面を蹴り飛ばした。
浮き上がる。
南吉も浮いていた。ぎゅ、とごんを片手で抱きしめてもう片方の手で、啄木の手をしっかりと、掴んだ。



「どうぞ。貴方の読みたかった本よ」

「ありがとう。本館の司書さん。ぼくでも取ってこられたのに」

「前のことがあるから、皆が警戒しているの」

あれから、二年以上の月日が経過した。南吉は本館の司書に取ってきて貰った本を受け取る。帝国図書館は閲覧専門の図書館だ。
蔵書の数は沢山あるが、貯めていただけで把握が出来ていないところもあった。それを人海戦術……と文豪達も使い本を把握していったのだ。
本館の司書は十代後半から二十代に見える女性だ。メガネをかけているが仕事用である。
場所さえ分かれば閉架図書……大体は地下……から取ってこられるのだが、南吉は止められていた。それと言うのも、以前に閉架図書の本を取っていた
特務司書の少女の真似をしたら本棚が崩れて危うく怪我をしかけたのだ。特務司書の少女は踏み台がないからと高いところにある本を
本棚をよじ登ってとっていたので、真似をしたのだ。

「南吉、焼きプリンが出来たから食おうぜー、司書が作ったんだよ」

「啄木さん! 食べる!!」

本を受け取っていると啄木が南吉を呼びに来た。パンプティングは特務司書の少女が作っていたものだ。突然、作りたくなったとかで、
大きな焼きプリンを作っていたのだ。

「図書当番だけど、変わったことは覚えている? 高村さんが彫刻に集中したいって言うの」

「知ってるぜ。俺様は金が出るなら頑張るぜ!」

「頑張って。それとこれ、特務司書に」

啄木は遊んだりもしているが賃金次第で働く。賃金はしっかりと出すのがこの帝国図書館だ。本館の司書と別れる。閲覧専門の図書館とは言え、
文豪達が住んでいるのは帝国図書館の居住区だ。館内閲覧用以外はこうして貸してくれることもある。分館でも良かったかも知れないが、
本館の方にした。啄木は本館の司書から書類を受け取っている。

「ぼくもお手伝いしてるところはしてるのに。地下は危ないって」

「俺様が発見して受け止めなかったら危なかったしな。司書が怒られてたけど」

南吉を助けてくれたのは啄木だった。落ちそうになったのを受け止めて庇ってくれたが、本棚が古かったのもあり、本棚も崩れて本も巻き込まれた。
特務司書の少女の真似をしたと言えば彼女が怒られていた。以後は踏み台が置かれるようにもなったが、南吉は地下書庫に入るのは止められている。
帝国図書館分館の前に行くと白いプラスティック製の丸テーブルや椅子が出されていた。

「借金苦と南吉君。おかえり。焼きプリンが出来てるよ」

「司書じゃねえか。外で食うのか」

「ノリでそうなったの。武者さんと蘆花さんがベビーリーフを収穫してさ。ピザにして焼いてる」

特務司書の少女は焼きプリンを丸テーブルの上に乗せていた。焼きプリンは軽く見積もっても五人分以上はある。とは言え、文豪達は五十八人、
これだけでは足りない。足りないため他にも追加しているのだろう。

「皿とフォークを持ってきたが」

「介山さん、そっちに置いて下さい」

彼女の本日の助手である中里介山が、丸皿と上に置かれたフォークとナイフを持ってきた。中里は最近転生してきたばかりの文豪だ。
怖い人だと南吉は想っていたが、何日か観察してみると真面目で何処か面白い人だった。

「ベビーリーフのピザか。草のピザだよな」

……若芽と言おうね。借金苦。海の方じゃなくて若い方。クアトロフォルマッジとか作ってるから」

「なんだそれ」

「四種類のチーズのピザ。他にもオーブンで焼きまくってるんだよね。イチゴのドルチェピザとか」

「美味そうなのが食えるな。そうだ。――司書、これ、本館から」

啄木が本館の司書から受け取った紙を特務司書の少女に渡す。啄木は受け取るだけ受け取って内容は読んでいないようだった。

「読み聞かせ会、今度のテーマは春、内容は来てからのお楽し……決めてないね。これ」

「決めてないだろうな」

受け取った紙に書いてあるのは読み聞かせ会のことだ。読み聞かせ会は子供向けにやられている会であり、月に二回、特定の日に読み聞かせを行う。
図書館の利用者を増やそうと、文豪達にも参加して貰って行い続けている会だ。

「時間配分を考えてー、南吉君、春の話し書いてたっけ」

「書いてるよ」

「それなら、賢治君と未明君と南吉君のからチョイスしよう。……ご飯を食べてから。どの文豪に手伝って貰おうかな」

「そういうこともしているのか」

これまで黙っていた介山が話しかけてきた。介山は新参だ。南吉はつまり先輩である。特務司書の少女は紙を折りたたんで服のポケットに入れてから、
適当に焼きプリンをどこからか取り出したナイフで、切り分けていた。

「中里さんも持ち回りが来ると想うよ」

言っておく。読み聞かせ会にしろ、何にせよ、文豪は一回はやることにはなる。コミュニケーションは大事なのだ。

「早めにしておきます? その声で……春の何かを読めばきっと人気者」

「人気などはいいが、……本を選ぶというならば手伝おう。君はどうも、飽きたら脱走する癖があるようだ」

「お前、逃げたのかよ」

……書類に飽きて窓から出ようとしたら、あの人がドアを開けてまして……

特務司書の少女は書類仕事やデスクワークはやることにはやるが、好きではない。やる気が無いときは書類を貯めるに貯めて怒られていたりする。
想像をしてみるが司書室の窓から逃げようとしている特務司書の少女と中里、中里のあの顔で睨まれたりすると怖い。

「馬鹿だなー。お前が本気出したら、がちで追いつける奴が居ないんだから本気出せば」

「啄木さん、言うところが違うと想うよ」

「読み聞かせ会ではどんな本を読んでいたんだ?」

「りゅーさんの奇術とか、犀星さんの動物詩集とか未明君の野ばらとか、……南吉君のごんぎつねの読み比べもしたよ」

特務司書の少女の運動神経はかなりのものだ。介山の問いに特務司書の少女が答える。芥川龍之介の『奇術』や室生犀星の『動物詩集』や
未明の『野ばら』なども読み聞かせ会では読まれていた。本人達が読むとかもあった。
南吉のごん狐は二種類ある。『ごんぎつね』と言われて有名なのは国語の教科書にも載っている方で鈴木三重吉が手直ししたものだ。
もう一つの『ごんぎつね』は『権狐』とも書く。手直しのされていない『ごんぎつね』だ。

「読み聞かせたら、こういうのもあったのかとか、好評だったよな」

「嬉しかった。ぼくの書いたお話、いっぱい読まれていたもの」

読み聞かせをどうしようかとなって、『ごんぎつね』の読み比べをすることになった。手直しされていた方の『ごんぎつね』はいくつも絵本があったが、
『権狐』の方は無かったので紙芝居を手作りすることになり、帝国図書館に引きこもっている絵描きに頼んで絵を描いて貰ったりして完成した。
紙芝居形式で二つ続けて特務司書の少女が読んで南吉は啄木とその様子を見守っていたが、好評で良かった。

「連れてこられて作ったもんが今も広まってるって知られたことは喜ぶべきことなんだろうがな」

啄木も南吉も生前はそこまで有名ではなかった。死んでからだ。死んでから彼等の作った文学を広めようとしてくれた人達のお陰で、読者のお陰で今がある。
複雑そうにしている啄木だが、生前苦労していたこともあるからだろう。

「だからこそ、侵蝕者は倒さなければならないか」

「介山さんも気が向いたら大まほ……大菩薩峠の続きを書いて欲しいです。楽しみにしている人達が居るので」

「君は、何故、私の大菩薩峠の言い方を間違えるのか……

(司書さんはそれで覚えちゃってるから)

中里が言い、特務司書の少女が笑顔を浮かべて中里と話した。『大菩薩峠』は中里の書いた未完の長編小説だ。中里が転成するかもしれないと言う話を聞いて
続きを読みたいと言っていた文豪達が何人も居たのだ。特務司書の少女は無言で笑いながら切り分けた焼きプリンを中里に差しだしていた。
特務司書の少女は大魔法峠で覚えてしまっている。これは漫画でアニメで、特務司書の少女以上にパワフルな女の子が暴れ回る話だ。

「ピザが焼けたよ! 南吉や啄木さんもいるんだ」

「賢ちゃん!」

「食べてから、仕事なんだ、よ!」

ベビーリーフが載ったピザを宮沢賢治が持ってくる。賢治がピザを持ってきたときに転けてしまう。飛びそうになるピザを特務司書の少女が皿ごと受け取った。
中里が転けそうになった賢治を支えている。

「危なかったな」

「ピザも賢治も無事か。……草ばっかりだな」

「お肉がくるまで耐えて。ベジタリアンに合わせるの。大事よ」

ベビーリーフはハーブの若芽をかき集めたもので、図書館の畑で育てている。特務司書の少女はピザをテーブルの上に乗せていた。

「ありがとう」

「怪我がなくて良かった」

特務司書の少女がお盆に切り分けた焼きプリンを四つ載せる。南吉は丸盆を持っていく。

「中里さんと、賢ちゃんに」

「わあい」

「感謝する」

啄木に連れてこられて、図書館で過ごして季節は巡って、これからも巡るだろう。南吉はごんと共に焼きプリンを頬張った。
『ごんぎつね』も『権狐』も今も伝わっていて、誰かが読んでくれている。それが、とても嬉しい。
啄木が焼きプリンを手にとって、お盆を手際よくテーブルに戻す。

「プリン、焼いてるのもいいよな」

「良いよね」

ベビーリーフのピザだってあるが、まずはプリンだ。スプーンをくわえながら話す啄木の横で、南吉は焼きプリンを食べた。


【Fin】


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