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[雨P♀]嘘かほんとか

全体公開 1 2150文字
2019-04-01 12:54:27

「最近の吸血鬼ってのは、血を吸わなくてもいいんだぜ?」

エイプリルフールにPさんをからかう雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 そう身構えるなよ、と葛之葉さんはニヤニヤしながら近付いてくる。そうは言っても、この、よく言えばお茶目でユーモラスな、悪く言えば人を食ったような、いつも私をからかって遊んでいる人が、今日のこの日を、エイプリルフールなんていう絶好の機会を、逃すわけなんてないんだ。朝から何を言われても驚かないぞ、と身構えていた私に近付く葛之葉さんは、案の定、悪戯を思いついた子供みたいな顔をしている。
 三十路のクセに!三十路のクセに!!
「ところでプロデューサー」
「エイプリルフールですよね?」
 くつくつと笑う声がする後ろは振り向かずに、私は一心不乱に仕事を片付ける。私の先制攻撃?先制防御?はさしたる効果はなかったみたいで、葛之葉さんは私の肩にぽんと手を置いて耳元で囁く。
「今まで黙ってたんだが、実は俺は吸血鬼でな……
「はいはい、エイプリルフールエイプリルフール」
 こんな見え透いた嘘でからかえるなんて、私も随分と見くびられたものだと思う。本気でからかってくると思ってたのに、葛之葉さんの口から飛び出てきた嘘は、明らかに嘘とわかるジョークだった。
「最近の吸血鬼ってのは、血を吸わなくてもいいんだぜ?」
「ハイテクですねー」
「っははは、だからそう警戒しなさんな」
 なにがハイテクなのかわからないけど、なんか言い返しておかないとこのまま流されてしまうような気がして私は軽く流した。
「もう、気は済みました、かっ……?!」
 ふざけてないで、私仕事しますから、と適当にあしらったつもりの私の手を、葛之葉さんはいきなり掴んで引っ張った。
「だが、たまに無性に欲しくなることがある……
「な、んっ……
 私の手首に唇を近付けて、葛之葉さんはニヤリと笑う。あーん、と開けた口、ちょうど牙のように見える犬歯が、今日はやけに目に付く気がする。
 そんな、まさか。葛之葉さんは元からあんな歯をしてたはずだし。……いや、そうかな?
「性欲みたいなもんさ」
「せっ……!?」
「なぁ――……
 どんどん混乱してくる頭は、目の前の出来事を処理しきれなくなってくる。そんな、まさか、ありえないでしょ。私は私の中にある、吸血鬼に関するあらゆる知識を総動員して考えてみる。
「きゅっ、吸血鬼は、明るいところでは」
「紫外線には弱いんだが、最近は日焼け止めも発達してきてな」
「十字架とかだめだったり」
「なら、このブレスレットも駄目ってことにならないかい?」
「宗派が違う!」
「っははは、大丈夫さ、現代に特化した吸血鬼は皆こんなもんだぜ?」
 じりじりと距離を詰めるのは、体だけじゃない。心理的距離もぐいぐいと近付いてきて、葛之葉さんは確実に、私の退路を絶っていく。
「そろそろお前さんの血を啜らせてくれよ……もう限界なんだ」
「う、う……あ」
 そういえば、吸血鬼は、確か――
「わ、私昨日にんにくたっぷりの餃子食べたのでダメです!!」
…………っくくくくくくく」」
 私の手首を掴んだまま、妖艶に迫っていたはずの葛之葉さんがぷるぷると震えて……その……
「わ、笑って……からかいましたね!?」
「っははははは! あー、すまない、もう限界だ、っくく……なんだお前さん、本気にしたのかい?」
 騙しておいて、からかっておいて、嘘ついておいてそんなひどい!!という気持ちと、あんなに真剣に、真顔で嘘をつかれたら誰だって信じちゃうんじゃないかな、っていう気持ちと、あとはただただ、恥ずかしい気持ち。ぐっちゃぐちゃの私の手首にちゅっと軽く唇を押し当てて、葛之葉さんは何食わぬ顔で私を解放した。にやりと笑う顔は、まだ何か企んでいるようで、私は警戒態勢を維持したまま、じとっ、と葛之葉さんを睨む。そんなのは気にならない、といわんばかりに、葛之葉さんは私をじっと見つめて手を伸ばしてきた。
「にんにくの匂いが気になるなら、こっちはまた今度にしておいてやるさ」
 そういって、葛之葉さんの人差し指が、私の唇をそっとなぞる。ぶわっと一瞬で全身が熱くなるような気がして、恥ずかしさに私は思わず目を閉じた。
「そいつは、何を待ってる顔なんだい?」
「え、や、違――っ」

 また今度にしといてやる、ってさっき、いったじゃ、ないですか!

 私の文句は、残念ながら口から出てこなかった。ふさがれているんじゃ仕方がない。
……においは気にならなかったぜ?」
「ふ…………
 こっちはそれどころじゃないんですけど、と目線で訴えてみたけれど、からかいにしては酷すぎる。この人ほんとになに考えてるんだろう、とぐちゃぐちゃの頭で考えてみたけど、何も浮かばない、何もわからない。
「そういや、嘘をついていいのは午前中だけだったかい?」
……
 ぽんぽん、と私の頭を撫でつけて、葛之葉さんは事務所から出て行く。去り際に一度振り返って、にやりと笑った表情は、嘘かほんとかわからないけど。
「順番が逆になっちまうが、お前さんの唇を奪った理由は、嘘をついちゃいけない午後になったら教えてやるさ」
 少し耳が赤かったあの人の、本当ってのは、何を意味しているのか……知るのが怖いけど、このままでいるよりはずっと心臓によさそうだと、思うしかなかった。


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