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ヨンホ先輩の秘密パート4

全体公開 NCT 10 10 9752文字
2019-04-11 01:09:46

今回のヨンホ先輩はこれまで以上にしょっぱいです(殴)

名前変換

ヨンホ視点

だいたいどこの国でも同じだろうけれど、親というのは娘には可愛い人形やぬいぐるみや魔法のステッキ、息子にはヒーロー人形やミニカーやおもちゃの剣を買い与える。女の子は可愛いもの、男の子はかっこいいものに憧れると思われているからだ

だが俺はサーベルやヒーローのベルトのおもちゃには興味を示さなかった。子供用の小さなピアノに一日中向かい合い、おもちゃ屋に行けば欲しがるのはいつもゲームよりぬいぐるみだった。ふわふわと柔らかく可愛いぬいぐるみをかわるがわる抱き締めているだけで楽しかった

母はたぶん悩んだと思う。初めてできた息子が女の子みたいな趣味をしていたから。父は俺をラグビーやサッカーの試合に連れ出し、小学校に上がると野球チームに入れた。スポーツは好きだったから別によかったが、ぬいぐるみ好きは変わらなかった



13歳の誕生日が近付いたある日、母はぬいぐるみを全て捨てたと言った。もう大きくなったからいらないだろうと言って、パソコンを買ってあげると言ってきた

俺は生まれて初めて母親を怒鳴りつけた。パソコンなんていらない、ぬいぐるみを返せと言って暴れた。結局その日ゴミの日ではなかったおかげで、ぬいぐるみたちは袋に入れられてガレージに隠してあった。俺はまたそれを部屋に綺麗に並べ、パソコンはまだいらないから部屋に鍵をつけてくれと言った

母は泣いていたと思う



何が問題なのかわからなかった。普通に女の子が好きだったし、スポーツだってするし、友達も皆男だ。ただぬいぐるみが好きというだけで、それ以外はむしろ男っぽい方だったはずだ

だがそのうち、母が心配しているのは執着の仕方だということに気が付いた。普通13にもなってぬいぐるみを捨てられたからといって激怒はしない。パソコンのほうに興味を移す。男とか女とか関係なく(あったのかもしれないが)、俺が普通じゃないと思ったらしい



ぬいぐるみは3日に一度はブラシをかけ、部屋をきれいに掃除してほこりなどがつかないようにした。ひとつひとつに名前はついていたが、別に話しかけたりはしない。そういうままごとがしたかったわけではなく、ただあたたかくて柔らかいものが欲しかっただけだ。何かを“大事にしている”という感覚を楽しんでいたのかもしれない

「名前、今何聴いてる?」

CDショップでヘッドホンをつけたまま体を揺らす彼女に声をかけると、ヘッドホンをずらしてこちらを見上げた。彼女は小柄で、俺は大柄なので、自然と上目遣いになる

「アップルトン?って人です」
「いい?」
「ハスキーでいい声です。聴いてみる?」
……いい曲だね、タイトルはSeeing stars」
「ネイティブ

気に入ったらしい。ファーストアルバムを手に取って、買うつもりらしい

「ヨンホさんは何買うの?」
「クイーン。映画見たらやっぱり欲しくなって」
「お兄ちゃんが好きで昔聞いてたけど、私はストーンズの方が好きだな~」
「意外とロック聴くよね名前ちゃん」
「お兄ちゃんの仲良しの先輩がね、昔ロックバンド組んでたんです。その人に色々教えてもらったんですよ」

ミノさんと衝撃の出会い(締め上げられたりドン引きされたり)を果たしてから、彼とはこまごま連絡を取るようになった。というか、ミノさんから名前の近況報告を求められるのだ。直接聞くとうざがられるかららしい
ミノさんの交友関係が昔から豪華だということも聞いている

「その人、かっこいい?」
「そうですね、背はそんなに高くないけど体格いいし、顔もかっこいいです。ていうか少女漫画みたいなモテ方してました」
……そう」
「ふふ、その人ね、歌声を聞けば五つ子を孕むとまで言われてたんですよ」
ッけほ」

物凄いパワーワードにむせてしまった

………名前は子供の頃からその声に触れてきたわけか」
「はい、だから免疫ついちゃって。それにその人、私にちょっかい出せばお兄ちゃんに背骨おられるってわかってたから」
「背骨折られるんだね。俺大丈夫かなぁ」
「お兄ちゃんああ見えてヨンホさんを気に入ってますよ。大丈夫」

インターンの頃からなんとなく思っていたが、名前は異性の容姿にあんまり関心がないように思えた。というより、容姿に感心することはあっても、それにきゃーきゃー言ったりしない。むしろジェヒョンやジョンウに対する態度を見る限り、いわゆるイケメンに含まれる人種を好まないように見えた
始めて会った時ふと顔を近付けると物凄く仰け反られ、自信喪失したのを覚えている

「俺ってかっこいい?」
「鏡の中に答えがあると思いますけど
「名前から見て」
「そりゃーもう、クリント・イーストウッドにも負けません」
「例えが渋いよ……でもイケメンは好きじゃないんでしょ?」
「いえ別に」

あれっ

「兄と同じ人種とは関わりたくないだけです。何でも持ってるような人。巻き込まれたくない」
「俺が持ってないのは何かな」
「ヨンホさんは全部持ってますよ。かっこいいし、仕事出来るし、友達多いし。ただだいぶ変態なのでそれら全部ぶっ壊されちゃって、だから怖くないんです」

喜んでいいのかそれ

「私はかっこよくないヨンホさんも好きですよ」
「ありがとう名前ちゃん。ただ困ったな」
「何が?」
「名前ちゃんに可愛くない時なんてないから、どう返せばいいかわからない」

いちご大福みたいに真っ赤になった彼女にぽかぽかと叩かれ、レジの方へ逃げられてしまった。あぁ楽しい、可愛い、満たされる。ぬいぐるみなんかよりずっと好きだ

俺が求めていたのはこれだ。執着したかったのは、大事にしたかったのは、彼女だ
















「何か食べようか……何がいい?」
「ヨンホさんいっつも私に聞くたまにはヨンホさんが食べたいものにしてください」
「俺はどうせランチそっちのけで名前を見てるから」
「やめて
「はは、せっかく収まったのにまた赤くなっちゃったね」

指で頬を撫でると、ふわ、と柔らかい。とがらせた唇には赤いリップが乗っていて、これもまた柔らかそうだ
と、彼女がある一点をじっと見つめた。全国展開のファミレスの旗だ。「春の筍フェア」と書かれている

「筍かぁ……おいしそうだね」
「また私の希望……それにデートでファミレスって高校生みたい」
「いいじゃん、筍好きだよ俺。たまには高校生みたいなデートもいいでしょ。お互いの高校時代を知らないわけだしさ」
「私あんまり変わってないですよ。相変わらず食い気ばっかりで、今より
「今より?ぽっちゃり?よし、その頃に戻そう」

背中をポコポコ叩かれながらファミレスに入った

日曜だからかファミレスは混んでいて、家族連れも多かった。名前はメニューを開き、唸っている。店に入る前は食べたいものが決まっていても、メニューを開くと必ず迷ってしまうそうだ。彼女は迷うのも楽しいというし、俺はそんな彼女を見ているのが楽しい

俺とんかつ定食にする」
「ッとんかつ」
「迷ってるんでしょ?ひとくち交換しよう。で、同じく迷ってる唐揚げを単品で頼めばいい」
「うわーんヨンホさんが私をダメ人間にするー」
「サラダも頼んじゃうよ~」

店員を呼ぼうとベルに手を伸ばしたところで、窓をこんこんと叩く音がした。見ると初老の夫婦が立っていて、名前を指している


嫌な予感


「名前、窓の外」
「え~?……!!?」

彼女が驚愕の表情になると、二人は一旦その場を離れた

……名前ちゃん、大丈夫?」
「うそ

戸惑ったような、逃げたいような顔をしている。ちょっと首を傾げた。ミノさんに対する態度とは違う。すぐに先程の夫婦がテーブルまでやってきた

「名前、こんなところで会うとは思わなかったわ」
「ママパパも」
「お父さんがお休みだからお買い物でもして、ちょうどあんたの家に行こうと思ってたのよ。お休みだしダラダラしてるんじゃないかと思って」
「どうするのここで会えなかったら。家にいなかったよ」
「そんなこと考えもしなかったわ。彼氏がいることも聞いてないんですからね」

ミノさんは話していなかったらしい。俺は立ち上がって手を差し出した

「初めまして、ソ・ヨンホといいます。彼女の会社の同僚で、お付き合いさせていただいてます」
「まぁー名前ったらこんな素敵な方と付き合っておきながら親に紹介もしないなんて。娘がお世話になっております」
「こちらこそ。実は先日ミノさんとはお会いしたんです。よくしていただいて
「あら、あの子こないだ来た時そんな話しなかったわよ。まったく名前ったら昔っからお兄ちゃんに甘えっぱなしで……ミノもミノよ、自分だけ知っておくなんて」

夫人はよくしゃべるが、ご主人は何も言わずただ立っている。名前は居心地悪そうな顔をしていたが、溜息をついて言った

「混んでるし、座ったら。ヨンホさんがよければ」
「あら、いいかしら」
「もちろん。俺たちもちょうど頼むところだったので」

俺はサッと立ち上がって名前の隣に移った。夫妻が座っている隙に耳打ちする

「よかったの?」
……何がですか?」
「わからないけど、俺はご両親に気に入られることよりも名前の味方であることを選ぶからね。それがまずいなら早々にお開きにしちゃった方がいい」

そういって笑ってみせると、彼女もようやく笑ってくれた
















「そう、じゃぁ上司の方だったのね」
「はい。同僚たちも多くは交際を知っています。あ、サラダわけましょうか」
「あらいいのよ私が……ヨンホさん本当に気の利く方ね。名前も食べてばかりいないで見習いなさい。女の子なんだから」

名前が気まずそうに筍ごはんを食べている。あぁ、やっぱり緊張しているからか、いつもの幸せそうなふっくらほっぺが見られない

「でもよくお受けしてくれたわね、うちの子」
「え?」
「ヨンホさんくらいの人なら選り取り見取りでしょうに。名前、絶対に逃がしちゃ駄目よ」
「違いますよ。それは俺のセリフです」

夫人は驚いたような顔をしている

「彼女がインターンで来た時から好きで、入社してしばらくしてから食事に誘いました。でもこの子ちっとも俺の気持ちに気付いてくれなくて、でもそこが可愛かったんです。でも俺は上司だし年上だから、圧をかけたくなかったんです。だからあの手この手で気を引いて、告白も引き出しました」

それはもう、あの手この手で

「もちろん仕事に私情は挟みません。でも同僚としても彼女は信頼できます。ミスも少ないし、仕事も早い。同僚の信頼も厚いです」
「まぁーそんなふうに言っていただけるなんて、なんだか感動ね。この子昔からそそっかしくて、ぼんやりしたところがあるから不安だったんですよ。兄の後ろにくっついて回るような子で」

ミノさんは自分が引っ張りまわし、名前は抵抗を諦め持ち歩かれていたと言っていた。まぁ人から見ると違うように映るものだ

「お父さん、お父さんも何か聞きたいことはないの?」
「ママやめて、会ったその日に質問攻めなんて」
「あんたがちゃんと報告しないからでしょう。ヨンホさん、ご両親はどちらにいらっしゃるの。ぜひご挨拶を
「ママ!!」

20代も半ばを過ぎると(俺はだいぶ前に過ぎたけど)親はどこもうるさくなるものだ。俺は名前の手を握って落ち着け、と目で合図した

「実は……先程ソ・ヨンホと名乗りましたが、それは韓国名なんです。本名はジョン・スーといって、アメリカ国籍です。両親はシカゴにいるので、すぐにはちょっと
「あらじゃぁ名前といずれシカゴに?」
「具体的なことは考えてませんよ。彼女はまだ急ぐ歳ではないし、もうしばらく二人で恋人として過ごしたいんです」

夫人が頬を赤らめ、名前が膝をぺしぺし叩いて来た

「そう、でも若いうちに結婚した方が
「俺の方は焦る気持ちもありますけどね。名前さんに見限られないように頑張りますよ」
「うちの子が見限るなんて、逆ならまだしも」

いや、逆はないんですよ
娘さんに愛想尽かされかねない爆弾がひとつあるんですよ、でかいのが

俺はさりげなく自分のとんかつの端っこを名前の皿に乗せ、筍のてんぷらの一番小さいのをひとつ貰った。彼女は端っこが好きだ

「複雑なんですよ、これでも。実家から焦らされるいい歳にはなりましたけど、名前さんを焦らせるようなことはしたくない。彼女は同僚に慕われてるから俺としても不安で」

暗にそっとしておいてくれと伝えたつもりだったが、伝わったかどうかは正直微妙だ。ご両親に気に入られたい気持ちはもちろんあるが、そこはやっぱりアメリカ方式でいかせてもらう

韓国での結婚は家と家、アメリカでの結婚は個人と個人だ

ファミレスを出た後、夫人はどうしても名前の家に行くと言った。名前はかなり渋ったが結局俺、4人でスーパーに寄ってから家に向かった。と、そこで大事なことに気が付いた。夫人がだ

「あら随分いいとこに借りたのね。それもヨンホさん、合鍵までもってるのね」

名前と顔を見合わせた。すっかり忘れていた

「一緒に住んでるのよ。もともとはヨンホさんが一人で住んでた部屋」
「なっ……同棲してるなんて聞いてないわよ!!どうしてそういう大事なことを言わないのあんたは!!」

ばしばし叩かれて名前は苦笑いしている。ご主人も驚いたような顔だ

「すみません、俺も忘れてました。同棲に関してもね、俺から口説き落としたんですよ」
「まぁお上手。お台所借りていいかしら。せっかくだから4人で晩ご飯食べましょうよ」

買い物袋を持って夫人は奥へ行ってしまった。ご主人も後に続く。名前が今日何度目かわからない溜息をついて言った

「信じてませんよ」
「何を?」
「母はお兄ちゃんをずっと見てきたから」
……?」
「特別な人には特別な人ってね」
「名前が特別じゃないっていうの?そういう考え方はあんまり好きじゃない」

名前が眉を下げてしまった








シカゴでは友達が多い方ではなかった。アジア人だし、韓国では長身の俺もアメリカではそれほどでもなく、今ほど陽気な性格でもなかった。明るく振る舞うのは、ぬいぐるみばかり構う俺を心配する母に安心してもらいたかったからだ

韓国に来て、周りの評価が一変した。俺より背の高い人の方が珍しいし、アメリカ育ちだというだけで珍しがられたし、女の子にもモテた。嬉しく思う半面、ぬいぐるみで埋め尽くされたあの部屋が恋しく思った。安心出来ない

俺は特別なんかじゃない。そんな評価は重い。俺を特別に思っていいのは、俺が特別に思う人だけだ。だけどその彼女は、自分がどれだけ特別な存在かをわかっていない

母の心配はある意味的外れではなかった。俺は自分が大切にしたいと思うものだけを部屋に閉じ込めて、自分だけの世界を作りたかったのだ。そしてその世界を壊されると、相手が誰でも噛みついてしまう








「名前、冷蔵庫のおかずってあなたが作ったの?料理教室でも通ったの?」
「あぁ、それヨンホさんだよ」
「あんたねぇちゃんと自分のこと見つめ直しなさい。あんな素敵な人とお付き合いしてるんだから料理くらい習いなさいよ。家事までさせて情けないったら」
「掃除とか、出来ることはしてるよ。それに一応正社で働いてるんだから料理教室なんて通う暇ない」

名前はここから見てもイライラしているように思える。親が子供に口うるさくしたくなるのもわかるが、それに反抗したくなる気持ちもわかってほしいところだ。と、これまで無言を貫いていたご主人がボソッと呟いた

「すまんなぁ」
「えっ」
「あれはどうも口うるさくて気が強くてね。息子で大成功したものだから、それを基準に考えてしまっている。名前はいい子だしよくできた子だ。だがあれに対しては委縮してしまうようでね」

どう答えたらいいものか。するとご主人はこちらを見ずに言った

「あれには言ってないんだがね、君のことはミノから聞いていたんだ。メールでな」
「え!?」
「いうなよ、荒れるから。君のことをちょっと変わってるが、大事な名前をやるなら君くらいじゃないと駄目だと言っていた。気に入られたな」

あって2秒で肩ねじ取られそうになったんですけど

「娘を頼んだぞ。あれのことはまぁ、心配するな」
……いいんですね」

俺は立ち上がり、今だ小言の続く夫人から名前を引き剥がした

「帰ってください」
え?」
「料理は俺が好きでやってるんだ。名前のことを甘やかすのは俺がそうしたいから。それをまるで彼女が怠けているかのように言うのならこれ以上話すつもりはない。出て行ってください」
「ヨンホさん」

名前はびっくりして目がこぼれ落ちそうになっている。夫人もまったく同じ顔だ

「俺が好きなのは可愛くて優しくて頑張り屋で、ご飯を幸せそうに食べる名前だ。でも今日の昼はちっとも楽しそうじゃなかった。彼女はその時の緊張がすぐ出るんです」
「ヨンホさんストップ、ブレーキブレーキ」
「ダメ、アクセル。俺が料理をするのは自分が作ったご飯を食べてほしいからです。そもそも最初食事に誘ったのだって彼女が食べている姿を少しでも近くで見たいという自分の欲望に負けたからであって」
「ブレ―――キ!!」

俺は手を伸ばして戸棚からミニドーナツを取り出し、それを名前の口に押し込んで黙らせた

「だいたい俺達のことを知っている同僚がなんて言ってるか知ってますか?俺みたいなのに目をつけられて名前が可哀想だって、そういうんですよ。母に韓国で彼女を見つけたと話したら心配されましたよ“ちゃんと人間だろうな”って」

―――お前はぬいぐるみを彼女とか言いかねない
―――いうわけないだろ!!俺を何だと思ってる!!
―――頼むから、まともな嫁を貰ってちょうだい。気に入ったからって閉じ込めたり、過ぎた独占欲でドン引きされたりしないようにね

「この関係はひとえに名前の寛大さで持ってるんです。ミノさんなんて俺の本性知った途端手錠ちらつかせましたからね。ご両親を始めてみた時“娘に近付くな”ってぶっ飛ばされる覚悟すらしましたよ。離しませんけど」
……あなた一体娘に何したの」
「それが普通の反応なんですよ何で俺ばっか褒めて名前を叱るんですか。毎日仕事頑張って嫌な上司にも耐えて文句も言わずに俺の趣味に付き合ってくれるのに」
「娘に何をさせてるの!!」
「ヨンホさんそれ語弊がある!!ママ違うからね作ったご飯食べてるってだけだからね!!ヨンホさんの趣味って料理だからね!!」

名前が安心した顔をしてくれないと、俺も安心できない。俺が彼女を甘やかして守るのはそのためだ
何が紳士だ、知ったことか

「名前は俺の大事な人だ!!本人の前で息子や恋人と比べるようなことを言って悲しませるな!!」

ッパアアアァァン!!

実にいい音とともに、名前が俺の頭をスリッパで引っ叩いた

「そこまで!!やめ!!」
痛いよ名前」
「お兄ちゃん来た時もその前の飲み会でもユタ先輩やテヨン先輩に趣味を語るときもそうだけど、ヨンホさん熱くなると暴走する!!よくない!!ステイ!!」
……わん」

見た目じゃ全然わからないけれど、名前は怒ると迫力が出る。ついでに言うと、結構な確率で躾けられているのは俺だ

「だいたいね、私を庇ってくれるのは嬉しいけど、目の前で愛を語られてどれだけ気まずかったか。小言言われるよりきっついですよ。小言なんて母親なら誰でもいうもんだし正直慣れてるんですから聞き流せばいいんですよ、どうせ数時間だし」
「名前あんたやっぱり聞いちゃいなかったのね。子供の頃から」
「だって長いんだもん。ママはお兄ちゃんみたいに完璧な娘が欲しいのかもしれないけど、お兄ちゃんちっとも完璧じゃないからね。ママの前でいい子する反動で私の前じゃ結構酷かったからね」
「名前そればらしちゃっていいのか」

これ庇う必要あったのか。ちらっとご主人を見ると、肩を震わせそっぽを向いている。笑ってる場合ですか

「だいたいね、完璧な人間なんてろくなもんじゃないよ。お兄ちゃん見てごらんよ、ママの前で完璧な息子演じたもんだから気持ち悪いくらいシスコンだし、友達に疑われるくらい男の先輩にべったりだし、高校の時だってほも説流れてたし、あんまり暑苦しいから実は女より男にモテてたし、こないだなんて“日曜日の夕方に酒飲みながら泣きそうになることってないか”なんて濡れ落ち葉みたいなことメールしてきたしね」

ミノさん散々な言われようだな。この流れていくと次は俺か

「ヨンホさんなんてそりゃぁハンサムだし仕事出来るし慕われてるしおモテになるし社内じゃ欠点皆無の完璧男みたいに思われてるけどね、私も8割がたそれが事実で間違いないとは思うけどね、到底見過ごせない残り2割が壮絶なんだから!!」
「な、何なの、2割って
「言えるわけないでしょ壮絶すぎてママ心臓発作起こしちゃうよ!!」
「そ、そんなにひどいか俺」
「ヨンホさんは黙ってなさい!!私まだ怒ってる!!」

瞬殺
名前ちゃん強い。お母さんに全然負けてなかった。お父さんもうテーブルに突っ伏しちゃってるし。名前の反撃がまた続いたので俺はそーっと離れてテーブルに戻った

「可愛い娘に手出した野郎に対する嫌がらせってことでいいですね」
「はっはっは……すまんな、ミノに“あいつむかつくから会ったらいじめてやって”と言われてたもんでね。はぁー面白かった」

もうやだ怖いこの人

「あれも結婚当時姑と揉めてな……長男ということもあって子育てにケチつけられて、まぁ売り言葉に買い言葉だな」

―――この子は私が完璧に育てて見せます!!

「子供が親の期待通りに育つなんてあるわけないんだけどな、まぁミノが上手くやり過ぎたもんだからしわ寄せが名前にいっちゃってね。だが名前もうちの子だ、ああ見えて弱くはないんだよ」
「何が委縮ですか、ため込んでため込んで最後手榴弾ドカンじゃないですか。俺殴られましたよ」
「あの子と結婚するつもりなら覚悟しなさい。うちの家系はね、女が強いんだ。それとミノと比べる云々も、あの子はとっくに割り切ってるよ」
「姑と舅の洗礼をいっぺんに受けたわけですね俺」
「可愛い娘を攫ってくんだ、ミノと会ったのならだいたい想像つくだろう」

そりゃそうだ。あの過保護な強火兄がいて、お父さんが何も言わず娘を俺にくれるわけがなかった

……物凄く飲みたい気分なんですけど、一緒にどうですか」
「いいね、シカゴ産のいい肴もあるし」
「勘弁してください、いじめるのは」








俺が名前を好きなのは、安心出来るからだ。だけどそれはただ可愛くて守ってあげたい存在だからじゃない。簡単には守らせてくれない、簡単には俺の腕の中に納まってくれない子だからだ
やっぱり俺は名前にはかなわない


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