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[硲P♀]大人の為のお子様ランチ

全体公開 1 1917文字
2019-04-12 12:49:50

「君は休みの日に夫を放り出してまで仕事をするのか」
……その言い方ってひどくないですか?」

夫婦喧嘩したはざませんせとPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 苛立ちをこめて閉めた冷蔵庫のドアはなかなかに派手な音を立て、貼り付けていたメモを止めていたマグネットを少しずらした。ずり落ちたメモには目もくれず、彼女は出した食材を放り投げるように調理台の上に置いて、ばたばたと昼食の準備を始めた。
 彼女の怒りの火種は、今ソファで腕を組んだまま、むすっとしている道夫の言動だ。道夫さんのわからずや!と夫への文句を頭の中で繰り返しながら、彼女はちょっとした復讐作業を開始する。

 事の発端は、二人の休日が重なった今朝の電話にある。仕事柄常に電話対応はできるようにしている彼女の生真面目な姿勢は、道夫にとって自慢の仕事仲間であり、自慢の妻でもあったはずだが、今朝ばかりは勝手が違った。せっかくの休日なのだから君とどこかに出かけたい、と事前に言っておかなかった自分も悪いのだろうが、という引け目もあったが、自分から彼女と過ごす時間を奪う仕事の電話を不服に思わないほど、道夫は彼女をどうでもいいとは思っていなかった。
「やっと終わったのか」
 少し棘のあるその物言いに、彼女は少しだけ残念そうな顔をして、すみません、と流した。普段なら、休日にまで仕事を考えるのはよくない、などと優しい声をかけてくれる道夫の態度が少し違ったことに驚きはしたものの、彼女はそれどころではなかったのだ。電話の内容を確認してスケジュールを詰めて、彼女はふぅ、と溜め息をつく。
「君は休みの日に夫を放り出してまで仕事をするのか」
……その言い方ってひどくないですか?」
 その後は水の掛け合いになった。私はやれることをやってるだけです、休みの日に休むことも社会人として重要な仕事ではないのか、道夫さんはもっと大人で理解のある人だと思ってました、君からは愛が感じられない――。お互いに、言ってはならないことを言ってしまったという自覚はあったが、一度始まった夫婦喧嘩というものは収拾をつけるのが難しい。元々ウマがあう二人はそもそもがここまで衝突することがなかったため、喧嘩慣れしていないともいえたし、それは当然、仲直り慣れもしていないということだ。すっかり見失ってしまった解決の糸口を、探すでもなく探さないでもなく、二人は無言で、物理的距離を置いてじっとしていた。

「そろそろ昼時だが」
「あっそ」
 ランチタイムにどこかへ誘って機嫌をとろうという道夫の目論見は、彼女の一言であっという間に立ち消えた。君がそこまで強情だとは、と苛立って、道夫は、勝手にしたまえ、とソファで腕を組んだまま目を閉じるしかなかった。
 本当は、彼女の方も仲直りをしたいと思っていたのだが、道夫からはまだ、謝罪の一言を聞いていない。それがなければ許すことはできない、と頑なな態度で、彼女は昼食を復讐の手段にするという暴挙に出た。
 好き嫌いがあるわけではないから、嫌いなものをわざと出して嫌味を言うという手段は真っ先に封じられてしまったが、子供のようなへその曲げ方をする道夫への復讐としてちょうどいいと閃いたそれを、彼女は丁寧に丁寧に調理していく。小道具まで用意して皿の上に盛り付けたそれを、ダン、と乱暴にテーブルに並べた瞬間、道夫は面食らった顔でそれを見て、それから彼女の顔色を伺った。
……これは」
「子供みたいな拗ね方するお子様な道夫さんにはぴったりなんじゃないですか!」
 小さなハンバーグ、フライドポテトが添えられたオムライスにはご丁寧に、道夫の所属するユニットロゴが手書きで描かれたつまようじの旗まで立てられていて、仕切られた皿の上、りんごはウサギの形に飾り切りされている。それはまさに、あなたは子供ですね、という彼女からの無言の圧力を体現した、大人の為のお子様ランチだった。
……ッフ」
 笑いをかみ殺しきれなくなった道夫は、とうとう腹を抱えて笑い始めてしまった。
「っははははははは!」
「ふふっ……そんな、笑わないでくださいよ」
 彼女も釣られて笑い出し、二人は食卓につく。目の前に並んだお子様ランチは、彼女らしく器用で繊細で、愛情がたっぷりこめられているのが見ただけでわかるような、幸せな色をしていた。
「すまなかった」
「ううん、いいの」
「本当は君と出かけたかった」
……午後からでもいいですか?」
 それまで玩具で遊んでいてくださいね、と自分のオムライスに刺さっていたつまようじの旗を道夫のオムライスに移植して、彼女はまた道夫をからかった。
 ごめんなさいの儀式が一通り済めば、後は楽しいランチタイムが待っているばかりになる。いただきます、と手を合わせて食べ始める頃には、二人はすっかり仲直りを済ませることが出来ていた。


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