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[道流P♀]掴むのではなく

全体公開 2 1708文字
2019-04-15 12:48:54

師匠、あんた自分の彼女ッスよね?

局の人と仲良ししてたPさんに嫉妬した彼氏道流さんのお話です。

Posted by @toasdm

 もう一分一秒でも待ってやれる気はしなかった。道流さん、と困惑した様子で引きずられるままの彼女について、道流は言いたいことがたっぷりと堆積してしまっていた。お疲れ様でした、の挨拶だけはきっちりさせてやっただけまだ優しい方だろう、とあさっての方向の勘違いをしたまま、道流は彼女を、局のエレベーターに引きずり込んだ。
「んんっ……!」
 荒っぽい口付けは、そのまま道流の怒りだった。怒りというよりも、嫉妬や憤りの方が近かったかもしれない。二人きりのエレベーターで壁に押し付けられて、彼女は道流の激しさに思わず胸を叩いた。
「っぷは、はぁっ、はぁ……はぁっ……
「師匠」
 真剣に見下ろす道流の視線に、彼女は身じろぎ一つもできなくなる。どうして、と言葉が零れる前に、その唇は再び塞がれる。
「ん、んぅっ……
「ふ、んっ」
 滑り込んでくる舌先は熱く、彼女の口蓋を舐め擽って口中を這い回る。掴んだ手首は壁に押しつけ、片手間にパネルを操作したエレベーターはゆっくりと、地下駐車場へと降りていく。
「師匠」
 もう一度、強い口調で名前を呼ばれて、彼女は潤んだ目で道流を見上げた。何をそんなに怒っているのか、皆目見当もつかない彼女は怯え半分、困惑半分といった様子で、その表情は道流を煽るのに十分すぎるほどだった。
「なんであんなに楽しそうだったんスか」
「楽し、そう……って」
 まるで話が掴めない、とさらに困惑の色を強めた彼女は、先ほど無自覚に、道流を傷つけてしまったことに気がついていない様子だった。

 収録を終えて楽屋で彼女を待っていた道流は、彼女がなかなか来ないことに痺れを切らして収録スタジオへと戻った。楽しそうな談笑の声にチリチリと胸を妬かれながら開けた防音ドアの向こう、彼女はディレクターと親しげに話しこんでいたようだった。
「っふふふ、そうですね、次は是非っ!」
 あんな風にはつらつと笑う彼女を、道流は見たことがなかった。それは仕事でもプライベートでもそうで、だからそんな彼女の表情を引き出した相手を、道流は瞬時に、ねじ伏せてやりたくなるような衝動に駆られて拳をぎゅっと握り締めていた。

 師匠、あんた自分の彼女ッスよね?

 どす黒い感情が自身の中で渦巻いて、あっという間に形をなしていく。今はプライベートではなく仕事だから表立っては言えなかった嫉妬は、キラキラと、アイドルよりもアイドルらしい笑顔を振りまく彼女の眩しさに照らされて、より一層真っ黒に、コールタールのように道流の足をその場に縫いとめていた。
 ……今、そっちに行ったら、自分は自分でなくなっちまう気がするッス。

 視線を逸らしても耳に飛び込んでくる浮ついた彼女の声が気に入らない。
 恐る恐る視線をやった先で、男性ディレクターのスーツの襟を正している手は自分に触れるためだけにあってほしい手だ。
 自分のものに気安く触れないでほしい、あんたにとっちゃただのプロデューサーかもしれないッスけど、自分にとってはかけがえのない、人生の光みたいなもんなんスよ!

 次から次へと湧いてくる感情が、嫉妬であることはわかっていた。こんなことでここまで心を乱されるなんて思ってもみなかった。円城寺さん、と、仕事とはいえ他人行儀に呼ばれたのも気に食わなかったし、だからこそ、道流は駆け寄る彼女の手首を掴んで、そのままスタジオを後にしたのだ。

「師匠」
 間もなく駐車場へと到着するエレベーターに、誰も乗ってこなかったのは幸いだった。相変わらず涙目で道流を見上げる彼女のポケットから社用車のキーをするりと抜き出すと、道流はぼそっと、しかし力強く言い放った。
「帰り、自分が運転していいッスよね」
 どこへ連れて行かれるのだろう、と怯える彼女の頭に、道流の優しい手がぽんと乗せられる。
「泣いても喚いても、誰も気付かないとこッスから」
 安心してください、と言われたところで、安心できる要素は皆無だ。それでも彼女が頷いたのは、道流からは嫉妬の他に、確かな愛情が感じ取れたからだった。
 手はもう既に、掴むのではなく優しく繋がれていたのがその証拠だった。


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