@toasdm
あまり人のことを言えた義理ではないが、それにしたって、あまりにも、あまりではないかと雨彦は頭を抱えた。すみません、と申し訳なさそうにする彼女は、彼女の部屋で居心地悪そうに、しょんぼりと項垂れていた。
似合っているか似合っていないかで言えば、絶望的に似合っていなかった。言葉を選ばず端的に説明すると、センスがないというよりはセンスがおばさんじみていた。普段はスーツ姿しか見ていなかったし、こうして付き合うようになってデートをする時でも、彼女はいつも似たようなアイテムを組み合わせた、あまり印象に残らない格好をしていたのだ。
先ほど説明を受けたが、雨彦とデートをするときの彼女の服装は、事前に友人たちから手ほどきを受けた「極めて一般的に見える外に出て恥ずかしくない最低ライン」の服ばかりで、その手ほどきが間に合わないとなると、しかたなく前々回くらいに着たものをそっくりそのまま着まわしていたのだという。アイドルなどという仕事をしている関係で、あまり表立って彼女とどこかへ出かけることがなかったから気付かなかったのだが、まぁつまり、彼女は。
「お前さん、服のセンスが変わってるな」
ギリギリ失礼に当たらない言い方をするとそうなったが、つまり彼女は服のセンスがなかった。その柄の服はどこから見つけてきたんだい、だとか、お前さん丈感って知ってるかい、だとか、言いたいことは雨彦の中に、次から次へと生まれてきたのだが、それよりもなによりも、シュン、と項垂れた彼女があまりにも可愛らしすぎて、雨彦は思わず手を伸ばし、腕にぎゅっと抱きしめていた。
「だ、だから……すごく、あの……」
勇気が要ったんです、と恥ずかしそうに縮こまる彼女のブラウスは、妙な柄、以外の言葉が見つからないくらい妙な柄で、スタイルや顔、メイクや髪型とまるであっていないシルエットのスカートは、やけに少女じみていた。しかしそれをそのまま指摘するのは大変に気が引けたし、普段はスーツだから楽でいい、と開き直る彼女の気持ちはわからないでもなかったが、雨彦は素直に、思ったことを口に出した。
「もったいないな」
「もったいない……?」
自分の腕の中できょとんと見上げる彼女の額に優しく口付けを落として、雨彦はにっこりと微笑んだ。
「ああ。素材の持ち味を完全に殺しちまってる」
「そ、素材だって、そんな」
私可愛くないですし、としょげる彼女をぎゅっと抱きしめて、そんなことがあるかい、と雨彦は笑う。
「お前さんは可愛いよ」
普段自分たちをより魅力的に演出してくれる彼女が、絶望的に服のセンスがないというのもおかしな話だ、と雨彦は思考を巡らせる。
「お前さん、もしかして服を買う時に点で買ってねぇかい?」
「点?」
「ああ。このシャツはこれと合わせたらこんな雰囲気になるな、だとか、そういう頭じゃなしに、あ、これ面白い、買ってみよう、みたいな感じで買ってねぇかい?」
「う……」
なるほど図星か、と彼女とクローゼットとを見比べて雨彦は溜め息をつく。統一感のまるでない柄達は、クローゼットの中で奇抜な存在感を放ちながら出番を待っている。
「生憎俺にはこいつらをうまいこと調理する自信はないが」
その中から、とにかくシンプルであわせやすそうなものを数点選び出して、雨彦は吊るしたハンガーにそれらを組み立てる。無難も無難、オシャレという印象は皆無だったが無難なコーディネートが組み上がり、彼女は思わず、おお、と感嘆を漏らした。
「お前さんに似合う服を見つける自信なら、まあ、多少は、な」
俺と違ってお前さんには、着られる服があるだろう、とウィンクをして、雨彦は着替えを促がした。
「買い物に行こう。お前さんに合うコーディネートを一週間分、全部俺が買うから」
そ、そんな、と気後れする彼女の意見などおかまいなしに、雨彦は部屋を出て、早く着替えな、とリビングで待つ。
「俺好みの女に見立ててやる、って言ってるのさ」
そんな風に言われてしまっては黙るしかなく、彼女は大人しく着替え始める。急遽スタイリストの真似事をすることになったが、悪い気はしなかった。
いいもんだな、俺好みに仕上げるってのも。
リビングのソファで雨彦は、スマートフォンのファッション情報サイトを片っ端から頭に叩き込みながらしばらくにやけていた。