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二章終幕

全体公開 4240文字
2019-04-17 03:28:16

 誕生日の歌を歌おう。
 誰もいない、誰もしらない、あたしだけの誕生日。
 17歳の誕生日おめでとう、あたし。
 プレゼントは世界に一つだけのアイデアと、とっておきのホットココア。ココアは兄さんが淹れてくれるやつが一番なんだけど、家族とはきっともう、二度と会えない気がする。
 やっぱりあたしは、無限に沸いてくるアイデアの海に、身を投げるしかないのかな。
 何処までも冷たくて深い、底無しの真っ暗闇の中へ。
 
 なんてことを考えていたら、せっかくのココアが冷めてしまうね。いけないいけない。あたしは皆を幸せな結末に導くための、太陽にならなくちゃいけないのに。
 『選ばれた主人公』という名前の太陽と、『この世界を司る書き手』という名前の太陽。あたしが彼女と、手を取り合って皆を幸せにしなくちゃ。
 そうじゃないと、あの子が報われない。
 
 「誕生日おめでとう。今年もひとりぼっちだけど、あたしには“皆”がいるから」
 
 小さな体を奮い立たせ、あたしは目をつむる。
 
 そして、また目をあける。
 
 鏡を見つめて身だしなみを整えると、客室の扉を開けた。
 
 「さーて、愛しの主人公ちゃんこと、希更ちゃんにあいにいこーっと♪」
 
 


 【イェーリア駅 ホーム】
 ブーケエクスプレスの汽笛を聞きつけ、搭乗人物達はそろそろ列車に戻ろうかと支度を始めた。
 いち早く列車の近くまでやってきたのは、鵠間希更である。
 「いやー楽しかったなー!足湯とかトルコアイス屋さんとか!みんなもう戻ってきてるかな……もしかしてあたしちゃんが一番乗りだったりして!」
 満喫したのか、貰った薔薇とピンク色のランタンを手にして、上機嫌で列車に乗り込もうとする。
 すると突然、可愛らしい鳴き声が聞こえた。
 「きゅっ!!」
 「え?なになに?」
 足元を見下ろすと、そこには一匹の白いハムスターがいた。
 「きゅっ!!」
 「わー!!かわいい!!どこから来たの……?」
 ハムスターは希更を見るなり、鼻をひくひくさせて足元でぐるぐると走り回った。
 「おお……?どうしたの??」
 ハムスターがてけてけと走り回っていると、三両面の窓からリズットの姿が見えた。ハムスターはそれに気づくと、ピクッと身動きを止めた。そして。
 
 「た、大変だ!!リズットくんにバレちゃう!!」
 
 何処からともなく、聞きなれない少女の声が聞こえた。
 「えっ、何……?」
 ハムスターは大急ぎで希更の足をよじ登り、彼女の肩に乗る。ハムスターはイェーリア駅の女子トイレを、ビシッと指差した。「そこに行け」といわんばかりに。
 「わ、わかった……
 希更がそういって女子トイレに向かおうとする。ハムスターはちらっと列車をみては、たまに「しーっ!!」という仕草をする。
 
 「しーっ!!リズットくんには、ぜっっったい内緒にして!!」
 
 というか、普通に喋っていた。
 「喋った!?!?」
 「しっ、しーーっ!!!!」
 「内緒にすればいいの……?わかった!」
 指示されるがまま、希更はハムスターを肩に乗せて女子トイレに駆け込む。後ろには誰もついてきていないらしい。
 「ごめんね!」という言葉と共に飛び降りると、ハムスターは姿を消す。
 


 その代わり、唐突に見知らぬ後ろ姿が希更の目の前に現れた。
 とてつもなく長い白髪を持つ、赤い帽子をかぶった、一人の少女である。
 「心臓が止まるかと思った……
 白髪の少女は、心臓をおさえながらそう呟いた。
 「えっ?ご、ごめんね……?」
 「全然気にしなくていいよ!ごめんね希更ちゃん、いきなりこんなとこ連れてきて。ちょーっとリズットくんには内緒で遊びに来たんだけど、うっかりリズットくんの仕事の邪魔しちゃって
 「そっ、そっか……えっと、君は……?」
 「そっか!希更ちゃんとも初めましてだもんね!ごめんごめん!えっとあたしはー
 少女が何か言おうとした時である。
 
 「貴女のその『こそこそする癖』は、一体いつになれば治るんですか」
 
 姿は見えないが、女子トイレの入り口付近からリズットの声がした。
 「はわっリズットくんにバレてしまった。バレてしまったから、リズットくんの中途半端に語彙力があれな罵倒タイムが始まってしまう
 あわあわしながら、少女が希更の背中に隠れる。
 「えっと……リズット君?あんまり怒らなくても……
 「な、なんかごめんね?リズットくんはほんとは、めちゃくちゃに優しい子なんだよ?ほんとだよ?クリア●サヒ並みに冷えてる脳筋社畜って属性は、全部後付けなんだよ?信じてあげて?」
 なんやかんや言っているが、リズットが中に入ろうとする気配は微塵も感じられない。
 少女がフォローを台無しにする発言をしていると、ブーケエクスプレスがまた汽笛を鳴らした。
 「何でも構いませんが、置き去りにされたくなければ、早急に列車にお戻りください。それと、くだらない理由で鵠間様を巻き込むのはおやめください。それでは」
 そう言い残してリズットが列車に戻る。
 「大変!急がなくちゃ!希更ちゃんも戻ろう!!」
 「う、うん!」
 少女と共に、希更が列車に乗り込む。
 「あっ、そうだ!希更ちゃん、あたしがハムちゃんなの、皆には絶対内緒にしててね!」
 思い出したかの様に少女がそう告げた。
 「わ、わかった……
 「何度もごめんね!それじゃあ、また後で逢おう!」
 「うん!また後でね!」
 二人が列車に乗り込むと、ドアが静かに閉まった
 


 それからしばらくして、食堂車である。
 「ティータイムにしましょう」と言って、リズットが搭乗人物達にフルーツティーとパンケーキを振る舞う。パンケーキは、ふわふわの生クリームと砕いたアーモンドを乗せて、メープルシロップをかけた一品である。
 希更の向かいの席に座る白髪の少女をみて、面々は不思議そうな顔をする。
 それもそのはず。なぜなら少女は
 どうしてそうなったのかは全くわからないが、リズットが作ったパンケーキを喉に詰まらせていたのである。
 「なにやってるんですかもう
 「ぐっ………!!!」
 搭乗人物達が心配する中、リズットが手加減なしに、バシバシと少女の背中を叩く。
 少女は咳き込むと、その拍子に喉につまっていたパンケーキを、口からぽろっと吐き出した。それを見なかったことにしようと、リズットが口から出てきたパンケーキの上に、そっとハンカチを乗せた。
 この少女は一体誰なのだろうか。それにしても、リズットはやけに彼女の扱いに手慣れているように見える。それを察したのか、リズットが告げようとする。
 「あぁ、申し訳ございません。ご紹介が遅れました。彼女は
 「ちょっと待ったぁ~!」
 リズットが言おうとするのを、少女が遮った。
 「皆の前で自己紹介するの、あたしの夢なの。あたしにやらせてくれる?」
 少女が「お願い!」とリズットに頼むと、リズットがため息をついた。それから「貴女の好きにしてください」と言わんばかりに、無言で頷く。
 それみると、少女はスカートの裾をつまんで、深々とお辞儀をした。そして。
 
 「はろー搭乗人物の皆!恋人、できることなら彼女募集中の“らんちゃん”だよ!堅苦しいこと抜きで、仲良くしてね!よろしくっ☆」
 
 顔をあげるなり、アイドルポーズをキメた。
 
 「彼女募集中!!です!!」
 
 大事なことなのか、ドヤ顔で同じ言葉を二回言った。
 
 それをみて呆然としたり、困惑したり、興味を抱く搭乗人物達。アイドルポーズのままドヤ顔で静止する『らんちゃん』に、リズットが頭を抱えていた。
 「ふふふっ、よろしくねっ!ねぇねぇどうかな?どうかな?!うまくできてた?」
 『らんちゃん』は全員に同意を求める。
 そんな中リズットは「センスがないですね」と吐き捨てた。
 「センスがないかぁ~。リズットくんはスーパードライだなぁ。じゃあリズットくん、あたしの他己紹介してくれる?」
 『らんちゃん』が問うと、リズットまたため息をついた。
 「全く貴女って人は自分で自分を腐らせるのがお好きなのですね」
 リズットが呆れた目で少女を見つめる。一方で少女は、搭乗人物達に期待の眼差しをむけた。
 「ふふふっ。やだなぁリズットくん。あたしは自分の花を咲かせるのより、誰かに花を添えたい派なだけだよ。こーんなに素敵な皆がいるんだもん、あたしは皆が幸せになれる花を、いつかこの手で贈れるといいなぁ」
 少女の言葉にリズットは少し考えたが、静かに首を横に振った。
 搭乗人物達が見守る中、リズットが告げた。
 「改めましてご紹介致しましょう。彼女は小説家見習いをやっている、わたくしの知人でございます。そして
 一呼吸置く。
 「……はぁ」
 リズットが少女の名を、告げる。
 
 「守崎、怤藍(ふらん)様。彼女はこの物語の、新たな『搭乗人物』でございます。以後お見知りおきを」
 
 リズットが一礼すると、少女守崎怤藍と呼ばれた少女が笑った。
 
 「改めまして、あたしは守崎怤藍。好きなものは猫と温かいココア!好みのタイプは『優しくてあったかい、ちょっとダメなところがまたかわいい、程よく歳上』の人!お部屋はパピィちゃんのお部屋のお隣にある14号室!しばらく皆と一緒にこの列車にいることにしたから、敬語抜きで!仲良くしてねっ!」

 『新たな搭乗人物』と呼ばれた怤藍を乗せて、搭乗人物達がさまざまなリアクションをみせる中、ブーケエクスプレスは緩やかに発車した。
 ブーケエクスプレスは、まだ見ぬ次の駅へと向かう。
 窓から見える景色が、目まぐるしく変わっていく。
 
 


 
 彼女は一体何をしてるんだ?
 おい、そんなとこにいて大丈夫なのか?
 彼女がいなければ、この物語は誰が進行するんだ?
 観客席が野次を飛ばしているのを、青年がじっとみていた。
 青年は手に汗を握りながら、少女がかつていたステージを見下ろすと、そっとその身をどこかにひっこめた。
 「どうか彼女が、全てを背負って無理をしませんように」と、そっと祈りながら。


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