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【あるとねTRPG】退勤際の一幕

全体公開 1999文字
2019-04-23 21:55:08

萌える滾りをぶちかませ(これをアレキャメと言い張る勇気)

Posted by @KLEAM_SAN


 【退勤際の一幕】

「常々思うのだが」

 少ない指で真新しいシーツをつまみ、ベッドにかける作業をしながら、カムパネルラが口を開く。机の上に広げられたカルテを分類しつつ、キャメラはその言葉に目配せした。

「何かお気付きのことが?」
「興味が無ければ聞かなくて良いが……先輩の魔法はムラが大きいな、と」

 ばさっ、とまた新しいシーツが広げられる。僅かな石鹸の匂い。カムパネルラの言わんとするところがわからず首を傾げると、彼はこちらをシーツのシワを伸し広げながら言葉を続けた。

「先日の試合でも見せてもらったが、先輩の魔法のポテンシャルは素晴らしいよ。だが僕が思うに、出力が安定していないように見える」
……詩魔法って、そういうものじゃないですか?」

 "想い"なんて不確かなものを力にするのだから、結果も不安定になるのは当然だろう。少なくとも、キャメラはずっとそういう認識だった。怒りに駆られれば青魔法を引き出すのには苦労するし、強い決意が漲れば奇跡を手繰り寄せることもある。そして狂気に陥れば、I.P.D.である自分は暴走する。
 その考えを否定するように、カムパネルラはかぶりを振った。綺麗にシーツの貼り付けられた寝台に、洗いたての毛布と枕が並べられていく。

「確かに、詩とは人の感情を素にするものだ、そこは変わらない。だが、感情の方を安定させることは出来るんだ」
「やろうと思って出来たら苦労しませんよ、それは……
「だが苦労を忍んででも、感情の制御を習得する価値はあるだろうさ。もっと強くなりたいならね」

 少し悩んで、頷いた。力というものはいくら有っても足りない。まだまだ奪い返せていないものは、山のように残っているのだ。

「でも、制御といっても、どうやれば良いのか想像もつきませんわ」
「それはそうだろうな。僕とて、完璧に出来ていたわけではないし……だが、先輩はいつも複雑な想いを乗りこなしているじゃないか。集中を途切れさせないまま複数の詩を織り込むのは、それなりの修練の成果と見えるが」
「あれは気づいたら出来ていたといいますか……
……なるほど、君は割と天才型か」

 天才型、というのは単なる褒め言葉でないことを、キャメラはよく知っている。自分の出来ることを、他人にうまく説明することが出来ないというのは、短所に他ならない。顔が翳るのを見られたのか、カムパネルラはすぐにこう続けた。

「なら、きっと安定した詩の謳い方も、すぐに直感出来るかもしれないね。僕も、教えるのは苦手なりに考えて来よう」
「カムパネルラさんの実演を聴いたら、何か分かりそうな気もしますが……
「なら、今度お見せしよう。……とはいえ、こっちのレーヴァテイルたちは言語が違うようだからな、参考に出来るかわからないが」

 I.P.D.の言葉は、暴走しないレーヴァテイルとは違う──そんな事実が脳裏を過ぎり、内心どきりとした。誤魔化すようにカルテをフォルダの中に差し込んで、カムパネルラの方に歩み寄る。

「先輩の方は終わったのかい?」
「ええ、ですから残りの仕事は私にお任せください。ここの所連勤続きで、カムパネルラさんもお疲れでしょうから」
「それは良いのだが……連勤続きなのは先輩も同じじゃないか」
「私は動いてた方が休めますから、大丈夫です。でも、貴方はそうじゃないでしょうし」

 仕事のことを考えて、目の前の怪我人の治療に集中する限り、余計なことを考えずに済む。それはキャメラにとって、酩酊の次に心を安定させられる方法だった。カムパネルラはしばらく怪訝げに隻眼を細めていたが、やがてやれやれといったふうに頷く。

「それじゃあ、今日のところは先輩に甘えて、僕は早上がりさせてもらおう。……とはいえ、くれぐれも居残り仕事なんてしてはいけないよ」
「そこまではしませんよ、医者が不養生しては、お笑い種ですもの」

 手早く荷をまとめて、カムパネルラは医務室を去っていく。そうするとキャメラは一人きりになって、今日の静けさが際立った。熱を出した者もなく、怪我をした者も少なく、ここ最近の中でも平和な一日だったと思う。
 はぁ、とため息を吐いていた自分に気づき、キャメラは口元を押さえた。平和ということは暇な時間が多かったということで、そうなるとやはり将来の不安やらに気が行ってしまう。連勤で積み重なる身体的な疲労も相俟っているかもしれない。いつにも増して、沈んだ気分になってしまった。

(いい加減にお休みをとらないと……

 気は進まないが、このままでは悪循環に陥りそうだ。最後の枕を並べ終えて、どこかに休暇を申請しようと決意する。窓の鍵をチェックして、カーテンを閉めて、照明を落とそうと壁際に向かって──医務室のドアがノックされたのは、丁度その時だった。


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