@akirenge
【一つ一つの積み重ね】
特務司書というのは文豪を転生させて、文豪達のサポートをする職業だ。それに加えて図書館の管理もある。
文豪達に謎の敵である侵蝕者と戦って貰い、文学を護って貰うのだ。守らせるではなく、守って貰うの気持ちで行くべきではあるが、
遠慮しすぎも良くは無いと話されていた。付き合いというのは難しいものである。
「出来た、と」
とある国定図書館の特務司書はキッチンでお茶の準備をしていた。今日のお茶は友人の図書館から送られてきたキャンディだ。
キャンディという地名が着いた紅茶葉である。薬缶に大量のお湯を沸かして、ティーポットの準備をしていた。
白い皿にはスコーンを二つ載せている。その皿が二つ、皿には送られてきたストロベリージャムを添えているし、クロテッドクリームも添えた。
クロテッドクリーム風ではなく、本物のクロテッドクリームだ。これも贈り物である。
薬缶がお湯が沸いたことを知らせるために勢いよく煙を噴いた。特務司書は火を止める。彼女は外見は十代後半ぐらいの柔らかな雰囲気をした少女だ。
あらかじめ暖めておいたキャンディの葉を入れたガラスのポットに勢いよくお湯を入れるとポットを伏せた。中身が見えているので、
紅茶葉が踊る様子がよく見える。今日は成功だ。紅茶葉は飛び出すように浮き上がってはくるくると回っている。
彼女はすぐにタイマーをセットして、その時間まで紅茶葉を蒸らす。まずは紅茶をしっかりと淹れることが重要だ。
待っていると、タイマーが音を立てて蒸らし時間が終わったことを知らせてくれた。
「これを越して」
別のガラスのティーポットに紅茶を移す。大きい茶こしで紅茶をこしながら中身を移動させた。キャンディのストレートティーがティーポットに入る。
使っていたティーポットや茶こしを洗い終えてから、彼女は冷蔵庫から牛乳を取り出すと小鍋に移して沸騰させることにした。
牛乳を沸騰させると、彼女は鍋にミルククリーマーを入れた。ミルククリーマーは泡立ちミルクを作るための機械で細い泡立て器だ。
入れてスイッチを押すと中の乾電池によってモーターが動いて自動的にミルクを泡立ててくれる。中に突っ込んで三十秒ほど回した。
泡だったミルクが出来上がる。彼女はティーカップの中にキャンディのストレートティーを注いでから、ティーカップの上に泡立てたミルクをそっと乗せた。
さらにその上から切って砂糖漬けにしたイチゴも載せる。これで完成だ。
出来たストロベリーミルクティーとスコーンを持ち、彼女は司書室へと向かった。
小川未明は今日の特務司書の助手だ。助手は日替わりである。助手業は誰もが一通り出来るようになればいいと言うこともあり、
各文豪が持ち回りで、担当をしている。本日分の潜書も終わり、浄化作業も終えている。図書館の方も問題なく、動いている。
「未明。これから司書室か」
「そうだよ。白鳥。明日は白鳥が助手だよね」
「ああ。助手なんてほぼしていなかったからな」
「前に助手になった逍遙せ……逍遙さんは司書さんはお茶会をしてくれるって言うから、楽しみ」
未明に話しかけてきたのは正宗白鳥だ。白鳥の方は散策をしていたらしい。未明の方は助手として司書の手伝いを今日一日していた。
助手になれば、給料が上乗せされるため、金欠状態である石川啄木辺りは好んでやりたがっている。
「楽しみにしているのか」
「美味しいって言っていたのと未明君も是非、って言っていたから、そっちも明日は出されると想うよ」
文豪達の人数は多い。全員分振る舞うと予算の問題も、準備の問題もあるから人数は絞っているのだろう。
正宗と話してから未明は彼と別れてノックをしてから、司書室に入る。
「未明君。お疲れ様です」
「司書さんも、お疲れ様」
「お茶にしましょう」
司書は朗らかに笑うとテーブルに案内する。きちんと整頓された司書室だ。テーブルにはスコーンとミルクティーが準備されている。
テーブルには花瓶が置いてあり、ピンク色のヒヤシンスと白い百合の花がいけられていた。
「今日も平穏に終わったみたいで良かった」
「騒がしいのも平穏になるのかなって。特に問題が起きなければ平穏かな」
「起きなかったからいいんだよ。南吉が悪戯をして三好さんが驚いて、騒動になったりとかあったし」
新美南吉は未明を慕ってくれる文豪だ。イタズラ好きである。三好達治がイタズラで驚く顔が楽しいからと良く悪戯を仕掛けたりするのだ。
二人で向かい合って、お茶にする。
「これ、ミルクティーだね」
「混ぜてから飲んでね。お砂糖は好みで」
砂糖入れを司書は差しだしてくれる。未明はミルクティーをティースプーンでかき混ぜてから、一口飲んだ。飾りのイチゴの甘い味と
泡立てられたミルクと紅茶は混ざり合っていて、ほどよい甘さがして未明の口を満たしてくれる。
「美味しい。疲れたから、甘いものはいい」
「休むことは大事だし、わたしもみんなと話したいから」
スコーンは二つあり、そのうちの一つの未明は手で割った。作法は色々あるらしいが、手で割るのが一つのマナーらしい。
一口大に割ってから添えてあるジャムとクロテッドクリームをスコーンに着けて食べた。さくさくしすぎていなくて、食べやすい。
シンプルな料理であるスコーンは作る者によって、味も変わってくる。
「お茶もスコーンも美味しい。逍遙さんも美味しいよって話していたから」
「良かった。気に入って貰えるか不安だったの。手作りのお菓子って、好まない人も居るし」
そうなんだ、と未明は想うがそれも人の好みだろう。司書はあらかじめ、手作りの菓子は食べられるかと聞いていた。
「場合によっては、買ってきた方がいいとかあるけど、司書さんのは美味しいから
「作られるときは作るし。買うときは買うようにするけど、お茶会は大事にしたいの」
「今度は南吉とかも誘いたいかな……みんな、喜ぶよ」
特務司書はしっかりと文豪達を見て、本人なりに距離を模索しながら付き合ってくれている。文豪と司書の関係はそれぞれの図書館で、
違うのだろうけど、未明はこの距離感が嫌いではなかった。
「時間を合わせて、大きめのお茶会をするのも良いかも。スケジュールの調整は時間がかかるけど」
「やるなら、みんな、合わせてくれるだろうから」
「試してみる。お酒は、無しかな。好きな文豪が居るのは知ってるけど、お茶で」
「お昼からお酒は……飲んでる人は飲んでるけどね」
酒は飲んでも飲まれるなと言うが、飲まれている文豪もたまにいる。特務司書もスコーンを食べながら、未明と話した。
「未明君の話も、童話は読んでるの。小説はまだだけど、寂しいところがあるけど、素敵な童話だなって」
「読んでくれて嬉しいよ」
未明は童話作家ではあるが、小説も書いている。生前は評価されていなかったところがあるが、現在は評価されている。
特務司書は仕事の傍ら、著作を読んでくれていた。
「能力で特務司書になったけれど、今までそんなに文学に触れることとかなかったから、みんなの著作が新鮮で面白くて」
「それは、司書さんが興味を持って読んでくれてるからだよ。読まれることは大事だけれども、読まれることは難しいから」
本を読んでくれるというのは行動だ。読まなくても特務司書は出来るけれども、彼女は著作を読んでくれている。
スコーンは食べ終わってしまった。二個だけでは足りない。美味しかったのですぐに食べきってしまっていた。
「送られてきたクッキーならあるから、それも食べようか」
「……ありがとう」
「甘いものって、美味しいもの。ミルクティーのおかわりはいる?」
未明は頷いた。
休憩時間はまだある。特務司書が追加分を用意する中、未明はソファーで休んでいた。助手として取り仕切ることになって、
苛々することもあったけれども、苛々はお茶とスコーンで消えている。
(お茶会、出来て良かった)
お茶会があるならば助手をしても悪くはない。未明は追加給料分に関してはそこまでこだわりはない。お茶会は楽しい。
――僕の童話の感想も、後で聴いてみよう。
未明が決意していると彼女が缶に入ったクッキーを出してくる。美味しそうなクッキーで、未明はとても、嬉しくなった。
【Fin】