@toasdm
春の午後の陽だまりは、優しい温もりをあちこちに広げる。例えば窓際だとか、その床に広げられたラグマットだとか、そこで寛ぐ類の膝だとか。
「ん~……」
語尾にハートマークか八分音符でもつけていそうなくらいにウキウキとした類の声は彼女の耳元で、陽だまりとはまた少し違った人肌の温もりは彼女の背中で、彼女を柔らかく優しく包んでいた。
「ふふ、類さん」
「ん? なぁに?」
類の膝にすっぽりと抱え込まれて、彼女は真上を見るように顔をぐいっと上げる。窓を背にした二人はのんびりと、一緒にいる時間を過ごせる喜びで笑いあった。
「呼んだだけでしたー」
「んー」
悪戯っぽく笑う彼女の額にちゅっと軽くキスをして、類は目尻を下げる。にこにこと笑う笑顔の温度は、ちょうど陽光に透ける類の明るい髪の毛のような、ふんわりとした優しさが感じられるようで、もうそろそろじめじめとした梅雨時期がやってくるのだ、という憂いさえも取り払うような明るさがあった。
「プロデューサーちゃんはHappy?」
「んぇ?」
輝く笑顔はそのままに、類は突然そんなことを彼女に尋ねる。意図はよくわからなかったが、幸せかそうでないかと聞かれれば、こんな幸せな時間はない、と思える程度には幸せだった。うん、と彼女は頷いて、前に回された類の腕にぎゅっと抱きついた。
「幸せですよ」
「よかった」
すりすりと、甘えるように腕に頬をすり寄せて、彼女は目を細める。甘えん坊さんだね、とその彼女の頬を優しく撫でながら、類も同じように目を細めていた。
「類さんは?」
撫でられた頬の感触に、くすぐったいよと文句を垂れながら、彼女は今度は横を向くようにして類を振り返る。先ほどよりも少しだけ上にある類の顔、その表情は甘やかで優しくて、少しだけドキッとするような妖艶さすらはらんでいるように見えた。
「んー……」
幸せかどうかと尋ねられて、類は少し考える。もしかして幸せじゃないのかな、と表情を曇らせた彼女を抱きしめる腕がそっと離れて、彼女は不安げな顔で類の言葉を待つ。
ぱちん。
「?!」
彼女から離れた腕は類の目の前で手を叩き、乾いた音を立てている。きょとんとする彼女ににっこりと微笑みかけて、類は優しい声で歌い始めた。
「If you're happy and you know it, clap your hands.」
ぱちん、ぱちん。
リズムに合わせて、聴き馴染みのある歌を聞きなれない言葉で歌う類は手を叩く。
「If you're happy and you know it, clap your hands.」
ぱちん、ぱちん。
弾ける音と類の笑顔が、彼女の笑いを自然と誘う。
「っふふふ」
「If you're happy and you know it, and you really want to show it!」
「わ、わっ!」
確か日本語だと、幸せなら態度でしめそうよ、と歌っていたところだろうか。流暢な英語歌に合わせて、類はぎゅうっと彼女を抱きしめて、つまりそれが、類なりの、態度で示した幸せなのだろう。ちゅ、と頬にキスを落として、類は満面の笑みで歌った。
「If you're happy and you know it, clap your hands!」
ぱちん、ぱちん。
手を叩き終えると、類はぎゅっとまた彼女を抱きしめて、すりすりと、首筋に頬を擦り付けた。
「俺の幸せ、伝わった?」
こくこくと、ただ頷くばかりの彼女の真っ赤になった頬を指摘して、類はまた頬にキスをする。
「Happy?」
「は、はっぴー、です……」
二人の幸せは、春の午後の陽だまりでふんわりと広がっていった。