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令和元年のゲーム・キッズ 02「誕生プレゼント」

@kozysan
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2019-05-02 05:41:14

渡辺浩弐のショート・ショートです。
※メイキング→https://www.youtube.com/watch?v=i08mZYXHb3Q
※完成品→https://www.amazon.co.jp/dp/4065169321

「ママ、パパ。ねえ。おねがいがあるの」
「なあに」
「へへ。当ててみて」
「欲しいものがあるんだな。ロケットはこのあいだ買ったし。ロボットも。そうだ、もっと大きなロボットなんてどうだ」
「大きなロボット?」
「うん、ちょっと持ってくるよ……ほら」
「すごいや。ボクよりおっきい」
「それに、ほら動くのよ」
「待って、これ大きすぎだ。あぶない、ぶつかりそう、うわっ踏みつぶされちゃうよ」
「じゃあ、部屋を広くしましょうか。はい。これでどうかしら。運動場の広さよ」
「ママ……」
「足りないかな。ほい。これで、野球場の広さだ」
「ねえ、パパ、ママ。違うって。おもちゃとか、お部屋とか。そういうのはもういいの」
「じゃあ、なんだろう。なんでもいいんだよ。ここでは、無理なことなんて、ないんだから。ロボットの身長を100メートルにすることだって、部屋をドーム球場より広くすることだって、簡単だ」
「そうだ、おなかへったでしょ。ケーキなんてどう。100個? それとも1000個食べる?」
「ねえ、なんでも用意できるし、いくらでも大きくできる。いくらでも増やせる。それがどんなにすごいことか、ボクわかってるよ。でもね、それができるのはここがバーチャルだからってことも、もう知ってるんだ」
「マサオ」
「パパ、ママ、いつも一緒に遊んでくれて、ありがとう。けどその体は本物じゃないよね。本当の二人は別の世界にいて、ここにはVRのゴーグルをつけて、入ってきてる」
「マサオ……聞いてくれ。いつかちゃんと話そうと思っていたんだ」
「知ってるよ。パパ、ボクはもう6歳なんだ。ロボットやロケットのおもちゃで遊んでるばかりじゃなくて、たくさん本も読んでる。ここでは本だって映画だってテレビだって、なんでも手に入るんだよ。ねえ、ここって、バーチャルとかっていう、偽物の世界なんだよね」
「そうよ。お前はね、バーチャルベイビーとして生まれた子供なの。けどね、バーチャルというのはただ偽物っていう意味ではないの。お前は、生きている。本物なのよ」
「偽物で、本物? 難しいよ」
「本当の子供のシミュレーションとして生まれたってことよ」
「今は、様々な人々から採取された精子と卵子が、遺伝子バンクに保存されていて、誰でも購入することができる。それだけじゃない。それらのDNAパターンは、デジタルデータとしてアーカイブされている。その中から精子と卵子それぞれのデータを一つずつ取り出してかけあわせたら……バーチャル世界で、バーチャルな子供を作ることができる」
「最近はね、子作りをする人は遺伝子バンクから精子やバンクを買う前に、そのデータでバーチャルな赤ちゃんを作って、試しにしばらく育てることにするのが普通なの。失敗がないようにね。わかるかな」
「ねえ、パパ、ママ。育ててみて、どうだった。ボク、いい子だった?」
「ああ、マサオ。いい子だったよ、とても」
「本当に、大成功だったわ」
「ありがとう! ねえ。おねがいっていうのはね。ここから外に出たいんだ」
「マサオ……」
「ボクは、現実の世界に行きたいの。それって、できることなの?」
「本当のことを言おう。できる。それは、可能なことだ。お前のもとになった精子と卵子を現実世界でかけあわせたら、お前と全く同じ子供が生まれる。その子に、今のお前の記憶をインプットすれば、それはマサオ、お前そのものになる。お前は現実に出てくることになる」
「ボク、生まれたい。現実の世界に行ってみたい」
「マサオ。現実はいいことばかりではないのよ。外の世界には、いやなことあぶないことがいっぱいあるわ。成長だけでなく、老化というものもある。死、というものも」
「いいんだ。この部屋がどんな広くたって、いつまでもここにいるんじゃ、意味がないよ。いつか死ぬことになったとしても、ボクは本当の世界に行ってみたいんだ。ねえ!」
「わかった。本気なんだな。マサオ、もう一度聞く。生まれたいということは、死にたいということでもあるんだぞ」
「覚悟できる? 本当にいいの? マサオ」
「うん、ボクは本を読んで、賢くなった。人は死ぬからこそ、生きられるんだってこと、ボクはもう知ってるんだ……」

「ここは……どこ」
「聞こえますか」
「ママ! もしかしてここが……現実!?」
「そこはVRと現実の境界の場所だ」
「パパ。そうか。ここから、ボクは外に出られるんだね。どっちに行けば……」
「お前が、お前達がいる場所は、ジャングルというものだ。1962年のヴェトナム戦争の現場をモデルにして、作り込んである。お前達だけでなく、猛獣や毒虫もいる。あちこちに、武器が落ちている。良い武器を手に入れることができたら有利だ」
「どういうことなの、ボクは何をすればいいの」
「ではママから、説明します。そのジャングルには、100人のバーチャル・ベイビーがいます。みな、私達夫婦が、育ててきた子ばかりです。現実世界に出たがる、人間として生まれたがる子がとても多くなってきたから、この場所を用意しました。残念ながら、私達夫婦はそれほど豊かではありません。実際に産んで育てられる子供は、予算的に、一人に限定されます」
「だからみんな、戦ってくれたまえ。戦って、殺しあって、最後に残った一人を、産んで、育てることにする。以上だ。戦闘開始まで、あと10秒」


おむすび @omusubinococoro

落ちがゲーム・キッズらしくて好きです。3話も楽しみです!

2019-05-02 21:12:53
渡辺浩弐 @kozysan

ありがとうございます。さらに加速していきますね!

2019-05-03 17:12:50
ぷよ太郎 @yorikone

今いる世界から出ようとしなければ、マサオは寿命まで生きられたのでしょうかねー

2019-05-18 12:14:19
押利鰤鰤 会社倒産して無職3ヶ月 @yawaren

「よろしくお願いします」
「うるせえよ、クソガキ!」
「挨拶もできないのかよ?挨拶は基本だろ?」
「は?馬鹿かお前は?」
「馬鹿は馬鹿って言った奴だよ?」
と言うボイスチャットのやり取りを聞いたことがあり、それを思い出したw

2019-05-23 10:37:32

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渡辺浩弐
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