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[冬馬P♀]呼び捨て

全体公開 2 1511文字
2019-05-03 21:56:18

……冬馬、って、呼べよ」

あまとうとPさんの、お互いの呼び方のお話です。

Posted by @toasdm

「と、冬馬君……
……
 むすっとしてはいるが、よく見ると頬は赤い。ついでに耳も。上から包み込むように抱きしめられて、腕の中、彼女は「そういえばこの子背が高かったっけ」とこの期に及んでどうでもいいようなことを思っていた。
 冬馬が返事をしない理由はわかっていた。拗ねていたり、怒っていたりするわけではないことも。それは先ほど、彼女が風呂上がりの冬馬にアイスを食べるかどうか聞いた時にはっきりと、わかってしまったことだった。

「冬馬君、アイス食べる?」
「ん、食う」
 久しぶりのお泊まりデート、バスタオルでがしがしと頭を拭きながら冬馬は彼女の待つリビングへと戻ってきた。一緒に食べようか、と少しだけお高いアイスのフタをぺりぺりと剥がし、二人はソファに腰掛けてその高級な味を堪能していた。
……あんたはさ」
 ぽつりと言い出したそれが、きっかけだった。まだ濡れた髪は雫が垂れるほどではなかったが、冬馬の頭の形を浮き彫りにするようにぺったりと張り付いていて、見慣れているのか見慣れていないのかよくわからないまま、彼女は隣を見上げた。ありていに言うと、格好良かった。
「あんた、いつまで俺のこと、冬馬君、って呼ぶつもりなんだよ」
「え……?」
 その格好良い顔は前を向いたまま、ちらりと視線だけを隣に寄越して、何か彼女に処理できなくなりそうな事を言い出した。なに?と動揺の色が濃く出た台詞を受け止めて、冬馬は今度は顔ごと彼女の方を向いた。
「かっ、彼女だろ?」
「う、うん……
 そうでなきゃ家に呼ばないよ!と叫ぶ心とは裏腹に、口から出たのはあまりにもそっけない返事だった。味気ねー、と苦笑して、冬馬はアイスのスプーンを口に咥えたまま、ぽつりと漏らした。
……なんで、冬馬って呼び捨てにしねーんだよ」
………………はっ!?」
 やっぱりそうくるの!?と当然の如く処理しきれない問いかけに、彼女は思わずうろたえた。え、だって、呼び捨てってどういうこと!?と混乱する彼女の隣、冬馬はアイスを食べ終えて空っぽになった容器をテーブルに置いた。
「なんか……俺も、あんたのこと呼び捨てにするからさ」
「う、わっ」
 ぎゅ、と肩を抱き寄せるついでに彼女の手からアイスを取り上げ、冬馬は耳元でぼそぼそと、恥ずかしそうに囁いた。
……冬馬、って、呼べよ」
「うわぁ」
 なんだよその反応、と苦笑する冬馬はそのまま、耳元で彼女の下の名前を囁く。
「ひぃぃ!!」
「だからなんなんだよその反応!」
「う、だ、だって……
 真っ赤になった二人の間、彼女のアイスはゆっくりと溶け出していく。早く食えよ、と彼女を解放して、冬馬はふい、っとそっぽを向いた。
「冬馬君……
「と、う、ま!」
「あぅっ」
 恥ずかしさは二人同じで、誤魔化し方はそれぞれ違った。冬馬はもう一度彼女を抱きしめて、照れ隠しに包み込む。彼女は固まって、おろおろとするばかりだった。
「と、冬馬君……
……
 むすっとしてはいるが、よく見ると頬は赤い。ついでに耳も。上から包み込むように抱きしめられて、腕の中、彼女は「そういえばこの子背が高かったっけ」とこの期に及んでどうでもいいようなことを思っていた。
 ――これ、名前呼ぶまでこのままだ。
 観念した彼女は意を決して、少し冬馬から離れて、しっかりと顔を見る。
「冬馬……
……な、なんだよ」
 呼ばせておいてそれ!?急に顔見て呼ぶなよ!とキレ悶えする二人は半ば自棄になりながら、しばらく互いの名前を呼び捨てにしあう。
 それでも、慣れない二人はやはり、次の日の朝も互いの名前に敬称をつけて呼んでいた。


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