@corona_moca1111
正午過ぎ、ひと段落と決められた「休憩」のためにもとのテリトリーに戻った蝶野は、結局カロリーメイトをぽそぽそかじりながら、本を読んでいた。スープくらいちゃんと飲んだほうがいいな、と思いつつ、手帳を開くとなんとなく挟んでおいた割引券が落ちてくる。駅前のお店が書いてある券に少しの期待をしつつ、ひっくり返すと期限が切れている。まあ、そうだよね、とつぶやいた彼女は、本の内容を含めた考えをまた少しメモに書き記していた。
分類
24なので「早期犯罪」
いろいろ含めると5年以下なので「犯罪持続」
犯罪方向は性的なものと殺人・暴力なので「異種方向」
犯罪初発……データの限りだと「突発」
逮捕歴は無し
・お金がらみのものはない→多種ではない。爆発性の性格障害のみ
・逮捕歴がないが、研究所では冷静に働いていて、長続きしている→素行はよく、反省すると思われるが、推測でしかない(要調査)
ここまで書いて蝶野は思う。哲学人が相手だから浮き彫りにされていなかったが、これは「れっきとした素質性犯罪者」の道筋をたどってしまいかねない人だ。これでこのまま放っておいたら、もしこれ以上悪いことが起きてしまった時に収集がつかなくなってしまう。さて、どうするか。
彼女は液晶を見据えて考えを綴っていく。
ラベリング理論→研究所× 今までの家庭環境や住居環境も踏まえたい(調査)
「持続しないような対策が必要。」 定期カウンセリング等(面談)
「爆発性」の治療を行いたいが、本人の自覚次第になるかも……
研究所がダメ→学術研究の場に行けなくなる可能性
また、その立場不安定による「同一性拡散」の危険性
なるべく環境要因を増やしたくないので、場合によっては再就職の方も流したい。(調査)
動機
職場・趣味ができる・今まで目立っていない→功利的なものはそんなにない?
感情要因なら「復讐」か「被害妄想」かが妥当
日常の「直接的な要因」とそうではない「病的な動機」の解明
直接……同僚への聞き込み、被害者への聞き込み、など(面談・要相談)
原因……経歴・健康診断結果・カウンセリング・家庭環境・性質等(調査・面談)
調査を進めつつだが、クライアントとの信頼関係は早めに築く必要がある。
ここまで書き終えて蝶野は食べていたカロリーメイトの粉がキーボードの隙間にこぼれていることに気が付いた。手で払うとともにまた時間を確認する。意外と、脳内を整理するのには時間がかかるものだ。でも、別の業務の前に先に目を通しておきたいし。……まだなんか食べといたほうがいいな、と、適当に持っているチョコレートを包からだし、口に含む。甘ったるく、口を焼くそれはこの場には合わなかったが、確かにその感情の揺らぎ自体は安定するのを感じる。
安定、安心、それは、どんな人物にもどこかになくてはいけないもの。
蝶野は今まで椅子に掛けていた白衣を羽織る。白衣にかけてある「肩書」が揺れて彼女にまとわれる。かつて、彼女がここに来る前に知った哲学の言葉は確かに少なかった。しかし、心理学者ならうなずくだろうその言葉の近くにいた哲学人は、この研究所にちゃんと存在する。もしも死に至る病のことが絶望であるなら、それを治療し、手当し、予防するのは医者の仕事だ。心の医者の、内科が精神科医に相当するなら、外科はカウンセラーである。
「……あかねさん、じゃあ、なにかあったらよろしくね」
ぬいぐるみに話しかける彼女のそれは、空虚ではなく、決意表明だった。