@corona_moca1111
「いいですか、では……ページを開いて…今日は…………に……」
不意に蘇ってきた記憶だ。
「……私たちは………つながり……社会…………基本…」
大学の時の授業だったか、学んでいた頃の記憶。……景色に色がきらめく…
「私たちは人に期待し、失望し、自分を表現しようとし、それぞれにそのやり方が違うわけです。それは均一でない不完全のように見えますが、しかしながら、人間は多様性に富んでいます。世界には、日本にも、本当に沢山の人がいて別のことを考え生きています。」
「考え方は子供時代や脳の発達過程で決められてしまいがちでした。過去、私たちにはコミュニティを選べませんでしたから、その場にあるものでなんとかしなきゃいけないので、どんな人でも関わらざるを得ないという社会がありました。今も田舎ではそういうところも多いです。」
蘇った大学の教室は、どこか白黒に見えた。が、その先生の声はどこまでも力強く響いていた。確か心理学ではあると思うけど……どれだったか。
「しかし、現代はコミュニティも幅が広くなりました。私たちはいろんな場所に勝手に行き、そこで勝手に繋がることができるようになりました。」
「……コミュニティに参加するのが能動的になったこと……つまり、私たちは自分で繋がらないといけなくなったのです。そして……で生まれるのは」
コミュニティ、繋がり、人、人、人。そういえばこの授業だけ惹きつけられるように起きていたっけ。ご飯後の授業は眠いけど、妙に起きていた、そんな日。
「無関心です。」
そうだ、答えにびっくりしたのだ、どうしてそう繋がるのかわからなかったのだ、人が勝手に選んでいろんな場所に繋がるのに、無関心が生まれる。確か、そこでグッと掴まれたのだ。なにかを。翅を。
今ならわかる。どこかで聞いた言葉がよぎる。好きの反対は無関心ですよ。人は、勝手に場所を選んで勝手にそこの人と繋がる、コミュニティを選んで繋がれる、選ぶのはその人。その中で繋がる人も、個人が決める。そこで、生まれるのは、特定の人への興味と、その他の人への無関心なんだ、と。
……コミュニティに、入れる人、入れない人、入ったあと、興味を持たれる人、持たれない人。
……心は。
『〇〇駅、〇〇駅。』
あ、降りるところだ。やば。
急いで荷物をまとめ、立ち上がって確認し、焦ってドアを抜けた。
スカートの裾がひらめき、翻ったころには、その記憶自体はどこかへと飛び去った。
夕暮れ時になってしまうのは、仕事の都合だから仕方がない。偶然にもいつも行く手芸屋さんが、ちょっと遠いけどあることがわかって、ほっとした。手芸屋さんに行った後に寄れるなら、そこまでおかしくもないか、と。あかねさんとしろちゃんもいつも持ち帰るのだから、何も違和感はなかった。
時間が経っても大丈夫な個包装入りのお菓子と、ペットボトルの当たり障りのないお茶とを持って、知らない住宅地を歩く。地味だけどドキドキするのは緊張してるのか、それとも町の冷たさのせいだろうか。少し冷えるので、自販機の前で立ち止まり、ココアのボタンを押した。
ふと、思って、もういっこ、甘いあったかいミルクティーを買った。
会えない方が8割なのに、とは思った。
でも、別に持って帰ってもいいし、それはそれでいいのだ。
どっちかは好きだといいなぁ、なんてのんきなことを考える。
光は蛍光灯からLEDに変わって、もっと冷たくなる。信号の赤がかろうじて空気にしみる。……オレンジ色の光がどこからの家から漏れている。冷たいと思った光も温もりに溢れて。
ちょっとして、スマートフォンを開いて、打ち込んだ住所と地図を照らし合わせた。
このあたりみたい。
暗くて見えにくいけど、なんとなくうろちょろした。すると、もっと闇に見える古めの建物が目に入った。近づいて確認する。
目的地に着いてしまった。
ここまでやり過ごしてきた色んな感情が急に押し寄せた。
どうしよ。そうよね、下手したらファーストコンタクトだ。でも引くわけにもいかないし。
えっちゃんさんのいうとおり私はそこそこ馬鹿なんだなと思う。
バックの中からしろちゃんが私のことを見ている。本当に行けるのか、わたしにもわかんないよ。すごいおかしいことしてるよ。でも。でも。でも、さ。
いくしかないし、わたしはカウンセラーだし。なんとかなる。
ふぅー、とわざと息を吹く。
標識を確認する。
あってる。
ここだ。
光は見えないから出ないかな。
そんなことを思う。
いつも通りにすればいい。
そう言うと、頭の中のまたたきも穏やかになった気がした。
息を吸い込む、その分、冷たさが身を引き締めた。
そして、私は、祖久世と書いてあるインターホンを押した。