@toasdm
ああああああああ!と絶叫する龍の前、無情にもコーヒーは上から下へと落ちていく。カップ式のベンダーマシンに張り付いた龍は、今にも泣き出しそうな表情で抽出口を見つめている。
「あーーーー……」
隣で見ていた英雄は、アンラッキーなミラクルの一部始終を見届けながら、龍らしいな、と苦笑している。見ていられない、と背中を向けている誠司の背後、ベンダーマシンはピー、と鳴って、ご丁寧に「飲み物をお取りください」と告げている。
「今じゃないってー!」
扉は自動で開いたが、虚無の空間にカタン、と紙コップが落ちてきて、龍は泣き崩れそうな勢いでがっくりと膝をついた。扉の中、空っぽの紙コップは少しだけ、申し訳なさそうに傾いている。
「まぁ……元気出せよ」
ぽんぽん、と龍の肩を叩いて慰める誠司の隣、英雄はひょい、と百円玉を取り出して自販機に投入する。
「ほら、おごってやるからさ」
「うっ……英雄さん……ボタン押してください……」
俺が押したらまたカップが出てこないかもしれません、とすっかり気落ちした龍の代わりに、英雄はよし、と気合を入れてボタンを押した。
「……んっ!?」
「えぇぇ……えーーーー……」
空っぽの紙コップを手に固唾をのんで見守る龍の目の前で、ミラクルはまた起きる。誠司も目を丸くして覗き込む扉の中、アツアツのコーヒーを注がれているカップは二つ重なった状態で落ちてきたのだ。
「ほ、ほら、龍が悪いんじゃなくて、機械の調子が悪いんだって! な!」
「そうだぞ龍、お前のせいじゃない」
慰めになっているのかなっていないのか、二人は微妙な表情で龍の肩をばしばしと叩く。ピー、飲み物をお取りください、の合図の後、今度は紙コップは誇らしげに胸を張っているようにすら見えた。
「……よし」
誠司は何かを思いついたようにベンダーマシンの前に立ち、百円玉を投入する。二人が押したものと同じコーヒーのボタンを押すと、祈るような姿勢で扉の前にしゃがみこみ、誠司はじっと見つめている。
「頼む……そろそろ普通に出てきてくれ……」
「信玄……」
「誠司さん……」
二人もそれに倣って扉の前にしゃがみこんで、龍などは、両手をパンパン!と打ち鳴らして祈り始めた。
「お」
カコン、と紙コップがひとつ、滑り落ちてくる。第一段階クリア、と安心しながら、いやいやまだ油断は出来ないぞ、と誠司はじっと、監視するように見つめる。
「おお」
思わず感動したような声を上げた英雄の前で、アツアツのコーヒーが注がれ始める。
「途中で止まったりしませんように……!」
龍の祈りは天に通じたのか、コーヒーは適量が注がれて、ピー、お取りくださいのアナウンスに三人は立ち上がり、互いの肩をばしばしと叩きながらなんでもない幸運を喜び合った。
「やったー!」
「ふーーー……スリルあったな!」
「ああ、だがこれで」
誠司はコーヒーを取り出して、龍の空っぽの紙コップをひょいと取り上げて、休憩室のテーブルに置く。
「英雄、ちょっと貸してくれ」
「ん?」
どうすんだよ、と大人しくコーヒーを手渡した英雄からも受け取ると、誠司は重なった紙コップをばらけさせ、それもテーブルに置いた。
「不運も幸運も」
空の紙コップの半分を、コーヒー入りの紙コップから移したコーヒーで満たしつつ、誠司は言った。
「分け合えば、なんとかなる」
「おお……!」
「うわぁ……!」
半分だけのコーヒーが四つ、三人の目の前に並んだ。目減りしたように見えるが残りの半分には、絆や優しさ、思いやりの混ざった見えないコーヒーが満たされているようだと三人は思った。
「お疲れ様で――あれ?」
四つもどうしたんですか、と顔を出したプロデューサーに、三人は顔を見合わせて笑った。
「お疲れ、プロデューサー」
「ちょうどいいところにきたな」
ちょっと少ないけど、と四つ目のコーヒーを手に、龍は満面の笑みでプロデューサーに差し出した。
「俺達の幸運、プロデューサーさんにもお裾分け!」
首を捻りながらそれを受け取ったプロデューサーと彼らは、午後のコーヒーブレイクにしばし談笑していた。