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「交錯する夢」

全体公開 5669文字
2019-05-12 22:20:56

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入った瞬間に強制力の強さに阻まれた。
僕は仕方がないからその表面の力に合わせて溶け込んだ。
すごい圧力が、僕じゃなくて別のところに向かっている。僕中心にかかる分には問題はないのだが、あまりにも緩和できていないのか歪んでいる。
ひどい歪だ。よく生きてるなこの人と思ったが、今回の被害者はある意味人間離れはしていた。
このまま戻らないのも頷けるな、と超自我は納得する。
それでも、解決のためにはこの癌を切除しなくてはならない。
圧力の表面に自身を、切り込んだ。

あみさんが僕に教えてくれたのは今日の午後だ。事件の被害者が目覚めない。ケアしないといけない第1の人が眠ったままなのにはきっと理由があるだろう。と、彼女は続けていた。閉じ込め症候群でもなく、大脳小脳等異常もないらしい。そりゃ、そうか。お腹の出血性ショックだけだもんな。
僕は事件資料を読みながらその言葉を聞いていた。あみさんは加害者のことについて考えつつ、内容の穴埋めを図っているみたいだった。相変わらず肩入れしまくりだなぁと言葉を変えて諭す。肝心の本人は、お小言くらいにしかおもってないし。はー。まぁ、そこが女神たらしめてるのは、言わなくても分かるけどさ。
だから僕は、別の方法で労力を緩和しようとかつ、本人も良くなればいいと、こうして、現実世界、病院のとある病室まで赴いて計画を実行したのだが。
これは予想以上に大変かもしれない。

ガー。ピー。ノイズの音。文字通りの砂嵐。3DCGのようなポリゴンのブレ。複数に分裂する映像、RGBズレ。圧力に入り込むとまとわりついてくるバグの数々が、僕の概念を異物から混合物へ、混合物からその夢のものへと変えていく、と、上から一階層落ちて、空から下に向けてダイブする。随分と早い底抜けだ。圧力が下に送ろうとしているのか。僕でさえ逆らえない圧力の波は、強制力、だろう。存在に対しての教えでもない規則。僕とは違うものだ。
ぽん、と飛び出して、空の上。
下に広がっていたのは、無数の赤、だった。……なんだろ。高さ的には、花かな。まだまだノイズと画面ブレとが激しすぎて赤い何かにしか見えない。随分と荒くて下層近辺みたいな錯覚を覚える。これはきっと夢すら見れていないに違いない。僕は散策を始める。
どこまでも続く赤いノイズと他のブレ。たまに来るホワイトノイズ。頭の上に広がるのも清々しい迄のブルースクリーン。僕のポリゴンごとズレるのはやめていただきたいんだけど、と思いながらも周りに違うものがないか辺りを見渡す。と、影が見えた。黒く大きめの四角い箱。あれのところまで行かなければ、と僕はまっすぐ赤を横切ろうとして、ブレている空間に阻まれる。なんて迷路だ。
ポリゴンの凸凹に足を引っ掛けて体重を乗せ、そのまま蹴って手を引っ掛け、壁を乗り越える。羽を使うと多分世界にバレてしまうから、こうするしかない。バレたらこの圧力だと追い出されて終わる。あーあ。上司が羨ましい。それにしても本人がいないな。
「パラダイムさーん?」
そよ風は吹けど返事も反応も世界変動もなし。バクっているものもそのまんま。プラマイゼロ。
結局、地道にポリゴンの塞がれてない部分と、欠けてないところを探って黒いものの側まで向かった。黒いもの。それはテレビだった。………だからノイズとかが入るのかもな、なんて思いながら僕はとりあえずその画面に触れる。デジタルテレビにしては大きいし、映っているのはバラバラのパーツを次合わせたかのような目のカット、別のパーツのカットの組み合わせ。こういうの芸術とか評価しそうだなー、とぼんやり考えていると、そのパーツになにか見覚えがあることに気がついた。首のところにある特徴的な矢印。
「中ですか。」
画面の中に入るのは夢の中では簡単だ、ただその画面を壁だと思わずに入り込めばいい。僕はコツンと液晶に頭をぶつけて、そのまま突き進もうとすると画面は激しく揺れつつへこみ、プラスチックになりスクリーンになって、ラップになった。強く押し続けると、表面張力が切れて、
僕は気泡のように浮かんだ。
黒い水だ、液晶の液体か、分からないけれど、まわりを満たしている。と、何故か浮力もなく流されていく、流れると押しつぶされる、水の中。どれだけ下に押す力が強いんだ、これ。下向きに流れていく流れは見えないようでいて強固で、浮力をかけても、羽を羽ばたいても全然効果がない。奥に入りすぎたから引き返すか、と流されながらまわりを見渡して視点が止まる。
変な圧力の中心が見えた。
そこに居たのは彼ではなく、かつていた、昔の「パラダイム」だった。流れるような黒く長い髪がそれを物語っていた。水の流れに沿って揺蕩うそれが黒い水に溶けて繋がりが見えなくなる、それが少し「かみさま」に似ていて、領域を曖昧にしていることを示していた。しかし、それでは自我が不安定になってしまう。過去のものは奥に送らないと精神構造が保てないのではないか、と、超自我は彼女に近づこうと必死に力を込めて泳ぐ。圧力の中心に近づくこと事態はそこまで難しくなかった。少し羽の根元から嫌な音がしたのは、気になったけど。
……パラダイム、さん?」
と、地鳴りのような音が聞こえた。急な濁流が一気に押し寄せてくる。横からこちらに向かって来るそれに巻き込まれたら僕らは一溜りもない。それは掌にも見えた。掴みかかってくる両手、圧力、押しつぶし。
「?!」
僕はとりあえず彼女の肩を持ってその圧力のぶつかる範囲から押し上げる。そのまま方を両手で掴んで上に向かって泳ぐ。泳いでいる途中下を見る。圧倒的にスピードが足りない。と、よこに管があった。黒い液体を吸い上げてそれを暖めて燃料にする。これに入れば。
急いでくだの始まりまで滑り込んだ。一気に上に上がっていく。と、その管ごと巻き込む流れが周りを触手のようについてまわっている。狙いを定めた。避ける。僕の頬をかすった鈍い痛みが走る。まずい、まずい、まずい。 管でスピードを上げたままその中で羽を動かして脚をばたつかせる。周りの激流がまた彼女を狙ってる。翻す。羽の先が当たった気がするが気にできない。しみて行く痛み、黒い、液体が冷たく体温を奪っていく。
……っっっ!!!」
一回転して中心狙いを避けると僕らは地上に飛び出して飛びたした先の鉄骨のあたりを羽を動かして勢いで飛ぶ。痛いけど我慢だ、我慢だ、我慢。今落ちたらパラダイムさんごと巻き添いだぞ???鉄骨の間を飛んでいく、鉄骨のあいだから、上に飛んでいるのが徐々に、歪んで、

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僕らは狭いどっかから二人分一気に飛び出して僕は咄嗟に彼女の頭を庇ったら僕自身は全てを床にぶつけることになる訳で。豪快な音がして背中を打ち付けて転がる。衝撃で彼女もはっ、と息を吐いたのが分かる。目を覚ましたか。僕が下になってるから痛くないはずなんだけど、
「大丈夫です?」
…………へっ?」
どうして僕が追い込んだことになってんだってか僕があいつと同じになってんの。
そう思った時すでに視界の横に来る津波を見て僕は彼女の手を引っ張った。
「とにかく逃げますよ!」
「えっ、えっ」
僕はダッシュする。僕が入っている身体はそんなに運動神経がいいわけじゃないらしい。ちんたらしやがって。着いてくる彼女は夢なのか現実なのかわかっていないから受動的だし。なんとなく惚れてんだか抑圧してんのか複雑すぎる感情を垂れ流しにしてるし。
ああ!もう!
そばにある(多分モニカさんのであろう)台車に乗って、彼女も引っ張って乗せて前に寄せて、僕は床を蹴っ飛ばして壁を蹴っ飛ばす。すごいスピードだこれすげぇな。1回曲がり角に差し掛かって壁に足をつけて蹴っ飛ばす。急カーブで曲がった台車はスピードを落とさない。そのまま勢いよく蹴り続ける。津波は曲り角で折れ曲がって砕け、それでもこっち側に猛烈なスピードで来る。
「前!前!」
急にパラダイムさんが叫んだ。僕は前に向けて両足を反射で出した。足が直に衝撃を受けて悲鳴をあげた。台車はぎりぎり衝撃を受けて止まって曲がる。スピードは少し落ちたがまだいける。
「負けてたまるかぁっ!」
そのまま勢いを保って研究所内を滑走する。窓がある大きな廊下にさしかかって、僕らは窓の外を見た。全ての時が緩やかになって、ゆっくりと光が全てを埋めて。そのまま、僕らを、その、光が、白く染めあげて、

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桜の花びらが白い染みとなって地面に落ちている。横に咲く別のピンクの鮮やかな花も落ちると茶色い跡を残していた。
彼女が倒れていた。僕は座り込んでいた。なぜだか床は柔らかさを持っていた。あー。はいはい。まだ僕は分離できないんですねあーあこればっかりは親を憎みますよ。
まるで親みたいな生涯を送りそうな僕もね。
彼女の目線を感じる。怯え切ってるしやっぱりそうなんだろうなぁ。でも
「僕は、僕だ」
僕がなんとなく言った言葉に違和感を覚えたのか彼女の顔つきが変わった。これはただの記憶再生ではない。事実と虚構は分けられないし、ぼくときみとその人も曖昧だった。
「もっとちゃんと、僕を見てよ」
あれ、これって僕だったっけ。違うか、この子が、パラ自体の認識が分けられてないのか。……ややこしいな、重なりすぎだし、あれ、

制御が効かない?

ガー、というノイズの音、いつの間にかやってきたであろう大きな大きな僕じゃない抑圧。それでも、抑圧は、僕で?

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僕は僕を見つめている。僕はその場面を覚えている。僕がさっきまで演じていた僕はそこで彼女の首を締めている。僕はパラダイムを地面に押さえつけている。僕は僕ではない。僕は首に力を込めている。僕は見ていられない。僕は僕に対して止めろと声を荒らげた。僕は聞いたが僕は動けなかった。僕は身の危険すら感じていた。僕は動いて、僕は叫ぶ、僕は叫んだ、叫んだ声を聞いた。
「いい加減にしろ!目を覚ませ!それは僕じゃない!僕は別物だ!」
瞬間、先程の黒い液体が部屋の隙間から漏れだした。勢いのあるそれは壁をぶち壊した。そして僕らは流された。

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ぶつかる、ぶつかった。瓦礫が頭をうった。クラクラする。首が締まる。首?
目を開けると僕は僕に首を絞められていた。キリキリとした痛みが僕の首を襲う。そのまま壁に打ち付けられる。
……っ!」
僕は首のあたりの手をとっぱらおうと意志を込めてその手を引き離す。と、僕は僕に対して冷たい目線を向けながら
「抵抗するなよ。」
ほざきやがって。
僕は僕の首をもっと激しく締めてくる。頭が朦朧とする。意識が途切れそうだ。
でもここで手放したら終わる。
「うるせえ!僕の意思だ!」
僕は途切れ途切れにになりつつも言い切り、足を蹴りあげ、思いっきり股下を狙って突き上げた。
クリーンヒット。
瞬間、痛みに対して意識が吹っ飛んだ。

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桜の花びらがひらひらと舞っていて、そこに僕と彼女がいた。僕は問うと彼女はこう言った。
「ひらひらしていたので、ついー」
携帯を取り出し、窓から桜の映像を取り始める。
桜は相変わらず、量こそは変わるものの、ずっと散り続けていた。それはまあ、綺麗ではあった。ただ、どこか名残惜しい気持ちが沸き上がってきてやまない。春とはそういう季節だった。

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目の前に出された紙に書いてある不許可のハンコと突っ返される努力の数が僕の体に張り付いて離れない。

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僕に対して怒鳴り散らす様々な人はみんな自分に対して刃を突き上げて自分を殺している。

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どうしてみんな置いていくの。

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哲学人であるということは哲学人の範囲内であるということ。

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誰か助けて。

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自分が自分でないような感覚。

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いつの間にか随分流されてしまったらしい。
これは誰の夢なんだろうかもう僕にはわからない。そもそも僕は、誰だっけ?
ただ、分かるのは、「僕」は「僕」のことを考えて動いていたって事だけだ。
なんだか輪郭を感じない。少しずつ溶けている。そう言えば、僕がいなければみんなが幸せになれるなんて考えた時期があったっけ。随分破壊的だなぁ、僕らしくもない。僕らしさってなんだよ。ははは、
「僕のことなんて、みんなのことなんて、どうでも良ければ、いいんだよなぁ。」
そう思いながら僕は僕の身体……がないや。ははは。
とりあえず沈んでいく。
僕はどこに行くんだろう。
僕は死ぬのだろうか。
死にたくないな、僕はトーデスじゃないからな。
……
なんとなく見た先に、蝶が飛んでいた。
僕は、蝶野さんのことを思い出した。
あみさんに、会いたいなぁ。

だから僕は手を伸ばした。


伸ばした先でパソコンに向かう彼女が、キーボードのシフトキーを押した。



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