@toasdm
これはもう、付き合っているのと変わらないのではないか。
そんな考えが頭に浮かんで、誠司は頭を振った。これはただの協定、利害が一致したから協力体制をとっているだけで、誠司が期待するような甘いものはないはずだ。
――期待、しているのか、自分は。
そこに思い至って、誠司はまた頭を振る。今日の彼女の服装も、誠司の胸を躍らせた。お待たせしました、と誠司の隣に並ぶ彼女は、シンプルな千鳥格子のワンピース姿だった。ふわりと広がる裾は女性らしく、丈感もやり過ぎ感のない、清楚な印象だった。ゴクリ、と喉を鳴らしてから、誠司は咳払いをして、ちら、と彼女を見てからぼそぼそと言った。
「その、よく似合――」
「あああああああああああありがとうございま、ござっ」
「落ち着いてくれ」
男性から褒められるだけでなく、声をかけられることすら慣れていない彼女は、誠司が昨晩から用意してきた褒め言葉にすら動揺してヒールの足をコキッとくじきそうになる。ぐらりと揺れた彼女の腰を、誠司は大きな手でサッと支えて姿勢を保持させた。
「っわ」
「気をつけてくれ、プロデューサーさん」
「は、はぇ……」
真っ赤になっているのは、支えられた彼女と、支えた誠司の二人だ。
かたや女子校育ちで男性に免疫のないプロデューサー、かたや女性に免疫のないアイドル。付き合っているわけではない彼らがこうして休みの日に、デートらしきものを繰り返している理由はただひとつ。
彼らは、協定を結んでいるからだ。
利害は完全に一致していた。お互い異性が苦手だから、一致団結して互いの苦手を克服しよう、と協定を結んだのは、半年ほど前になる。
「信玄さん、あの、もう少し自然な雰囲気というか」
「……す、すまん」
よそよそしさはビジネスライクというよりは、近付いたら終わり、といった雰囲気だった。女子校育ちで男性に免疫のない彼女と、昔から女性に対してはどう扱っていいのかわからない誠司とでは仕方がないことか、と当人たちだけでなく周囲の誰もがそう思っていた程に、ごくごく普通の、当たり前の光景だった。しかし仕事となると話は変わってくる。女性の肩を抱き寄せての雑誌の撮影で、誠司はどうしても、カメラを意識することができない程に不自然な表情になってしまうのだ。
「こんなことではいかんな……」
「う……」
しっかりとした体躯の誠司を、彼女はまだ「怖い」と思って身構えてしまう。誠司の方も誠司の方で、一定以上より距離を詰められてしまうと硬直するより他になくなってしまう。このままではいけない、というのは二人の同じ思いで、だからこそ、彼女は思い切って誠司に提案をしたのだ。
「…………っあの!」
予想以上に大きな声が出てしまったことに二人とも驚いて、一瞬(というにはあまりにも長かった)の間が空いてしまう。ばくばくとうるさい心臓を服の上からぎゅっと押さえて、彼女は意を決して、できるだけ誠司から距離を置いて言った。
「このまままままま」
「落ち着いてくれ」
すみません、と動揺が全身から迸る彼女を、一瞬でも可愛いと思ってしまった自分はすぐにどこかへ消え去って、誠司は正座でもしそうな勢いで彼女の言葉を待った。
「このま、このままでは、仕事に支障があります、お互いに」
「あ、ああ、お互いに、お互いにか」
こくんと頷いて、彼女はぎゅっと手を握り締めて真っ赤になって言う。
「だから、だからお互いなんとかどうにかこうにかするために! わたっ、私と、毎週末デーー、と……みたいなことをして、慣れてみませんかっ!?」
彼女の決意はしっかり固まっているようだ、と語調から誠司は読み取った。こんなにも自分の事を考えてくれる人が親兄弟の他にいるだろうか、という熱い思いは、誠司の胸を打つのに十分すぎるほどだった。
「……わかった」
自分も努力する、と彼女の提案を受け入れたのが、二人の協定の始まりだった。それが後悔になるのかどうかは、現時点では当人たちだけでなく周囲の誰にもわからなかった。