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[信玄P♀]協定(後編)

全体公開 1 1761文字
2019-05-17 12:50:36

…………自分の方から、言わせて欲しい」

女慣れしてない信玄さんと男慣れしてないPさんとの協定のお話、後編です。

Posted by @toasdm

 これ、端から見たら付き合ってるようにしか見えないんじゃないかな……?私が?信玄さんと?付き合ってる?え?無理無理無理、だって信玄さん男の人だよ!?
 彼女の自問自答は彼女の中で、彼女の中に次々と、細かな引っかき傷をつけていく。これは協定、これは協定、と彼女は呪文のように繰り返した。
 誠司と結んだ協定とはいえ、誰かと出かけるのは気分が上がった。最近では着ていく服を選ぶ段階から楽しかったし、正直なところ、誠司が褒めてくれるとそれだけでふわふわとした気分になった。今日の服はどうかな、とワクワクしている自分がいることを自覚しながら、彼女は待ち合わせ場所に向かった。
「お待たせしました」
 遠くに見えるしっかりとした体つき、精悍な顔立ちの青年を見て心臓がぎゅっとなるのは、まだ緊張感が取れていないせいなのか、と彼女は思っていたのだが。
「その、よく似合――
「あああああああああああありがとうございま、ござっ」
「落ち着いてくれ」
 褒められてテンパって自分でも何を言っているのかわからなくなる。もう何回も重ねてきた(誠司いわく)訓練の成果も空しく、彼女は未だに慣れていなかった。さらに今日も慌てた彼女は、ヒールの足首をコキッとひねってバランスを崩す始末だ。
「っわ」
「気をつけてくれ、プロデューサーさん」
「は、はぇ……
 心臓は早鐘を打ち、顔は恐らく真っ赤になっているのだろう、と熱を感じて彼女はうろたえる。誠司が支えてくれた腰に手のひらの存在を感じて、もうこれはもう、どうしたらいいのかわからない、と硬直した彼女を立たせ、誠司はもう一度、まじまじと彼女の服装を見つめた。
……可愛い」
「ふひゃえっ!?」
「あー、いや、はは……
 こんなに可愛い女性を隣にどうしていいかわからん、と素直に言った誠司の方は幾分か慣れたように見えるが、慣れたというよりももっと別な気持ちが自分の中にあることを、誠司はそれとなく自覚していた。ただそれを言うべきか言わざるべきか、という迷いがあって、困った事に最近では、その迷いがなくなってきているというのが、誠司の反応の原因だった。
 ――自分は、きっとプロデューサーさんのことを普通に好きなんだろう。
 その思いを自覚してからの「訓練」は、誠司の中に苦く甘い味を広げていた。仕事に支障が出るから、協定という形をとって重ねたデートは、誠司の中に、しっかりと根を張った恋愛感情を育ててしまっていたのだ。
 こんな不純な動機でプロデューサーさんとのデートを楽しんではいかん、と何度も何度も自分に言い聞かせたが、言い聞かせれば言い聞かせるだけ、誠司に思いを自覚させていた。
「あの……
 おずおずと誠司を見上げる彼女とは、万が一を考えて手は繋いでいなかった。なんだ、と口から出た自分の声の優しい雰囲気に、ああこれは本格的にやられたな、と苦笑しながら、誠司は続きを待った。
「もしかして、信玄さん結構慣れました……?」
「う、うむ……おかげさまだ」
 そうですか、と嬉しそうにした彼女の口から、慣れたならもう無理に訓練を重ねる必要はない、と言われたらどうしようか、と考えただけでチクリと胸の奥が痛む。やはり期待しているのか、と溜め息をついた誠司の袖口を、彼女は急に、ぎゅ、っと掴んだ。
…………だったら、もう」
 やはりか、と引き止める手立てのない彼女からの提案を、聞きたくないという気持ちが誠司の顔を彼女から背けさせる。

「もう、私とはデート、してもらえないんでしょうか?」

 立ち止まる彼女に引き止められるように、誠司はぐい、と腕を引かれる。そんな都合のいい聞き間違いがあってたまるか、と恐る恐る振り返ると、彼女は真っ赤になって俯いたまま、誠司を上目遣いに見上げていた。
「あの、かわいいって言ってもらえるのも、こうして一緒に時間を過ごすのも、私、楽しくて、終わってしまうのが、いやで、だからあの」
「待ってくれ」
 ふわりと彼女の香りを腕の中に感じて、誠司は小声で囁いた。
…………自分の方から、言わせて欲しい」
 新たな約束を宿した唇を交わして、その日を最後に、二人の協定は破棄された。あとはただ、二人らしく慣れていこう、と笑う誠司と、彼女はその日初めて手を繋いだ。


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