「こらっ、ダメだろ、危ないって、っふは、あはははは、なんだよもうー!」
苦手だった黒猫と戯れてる龍君と、今すぐ撮影機材もってこい!ってなってるPさんのお話です。
@toasdm
珍しいと思ったのは、取り合わせではなくて龍の表情の方だった。コンビニから帰ってきたプロデューサーは事務所の入り口で、しゃがみこんで黒猫を撫でる龍を見て思わず「珍しい」と口走ってしまっていた。
「あ、おかえり、プロデューサーさん!」
「ただ、いま……」
確か以前は黒猫が前を横切っただけで、うわぁ、黒猫だ、と自分の不運体質に動揺していたはずだったのだが――今の龍はどこからどう見ても、可愛い生き物と戯れる可愛い生き物だ。黒猫の方も黒猫の方で、龍の手に撫でられて目を細め、膝にゴンゴンと頭をすりつけて目一杯甘えているようだ。
「木村さん、黒猫、大丈夫になったんですか?」
「え? アレルギーとかじゃないけど」
そうじゃなく、と膝から力が抜けそうになりながら、彼女は甘える黒猫と甘やかす龍とを見比べる。まるで最初からペットと飼い主のセットです、といわんばかりの相性のよさは見ていてほほえましかったし、なんなら今すぐ機材を運び込んでファンクラブ用のカレンダーに使いたい、と思ったくらいだった。
「前は黒猫、嫌がってたじゃないですか」
もっと甘えさせてくれ、と龍の膝頭を執拗に狙う黒猫の遠慮のない頭突きにバランスを崩されそうになって、龍はますます、アイドルじみた笑顔で黒猫を撫でる。
「こらっ、ダメだろ、危ないって、っふは、あはははは、なんだよもうー!」
「滅茶苦茶アイドルですね……」
素直にもれた彼女の感想に、アイドルだからね、とニッと歯を見せて笑う龍は、とうとう黒猫に肩を占拠される。飛び乗った黒猫はここが定位置ですが何か?といった顔で彼女を見上げている。
「くすぐったいって、ほら、降りろよ」
黒猫を二度、三度と優しく撫でて、龍はそれを肩から下ろす。地面に下ろされた黒猫は不服げにまた龍にすりよって甘えて、龍もそれをよしよし、と撫でてやった。
「前は黒猫っていうと、ああ、またなんかあるのかーって落ち込んだりもしたけどさ」
よいしょ、と黒猫の両脇に手を差し入れて、龍はそのまま立ち上がり持ち上げて見上げる。
「不運もさ、味方につけたら結構かわいいや」
陽光と青空に透ける笑顔はきらきらと眩しく、彼女はじんわりと、胸の奥が熱くなる様な気がした。
「う、わっ」
「?!」
そのまま黒猫と一緒にくるりと回った龍のもつれた足元、スニーカーの靴紐はぷつりと音を立てて切れてしまった。天性のバランス感覚と不運体質を同時に発揮して、転びこそはしなかったものの、龍はいつものように眉を八の字にしながら彼女を振り返った。
「あんまり味方につけられなかったかも……」
「……っふふ」
むぅ、と頬を膨らませ、お前のせいかよー、と龍に文句をつけられた黒猫は、はてなんのことでしょう?と宙ぶらりんのまま暢気にあくびなどをしている。しょうがないなー、と黒猫をまた地面に下ろして、龍は溜め息をついたが表情はそこまで暗くなかった。
「でもさ」
ニッと輝く笑顔の龍は、言葉ほど落ち込んでいないように見えて彼女はほっとする。はい、と返事をした彼女をまっすぐ見つめて、屈託のない笑顔で龍は言った。
「プロデューサーさんは俺の味方でいてくれるから、いいや!」
やっぱりこの笑顔も今すぐ機材運び込んで残したい、発信したい、世界中に知らしめたい!
色々な意味で悶絶する彼女と、えっ、プロデューサーさんどうしたの!?とおろおろする龍の足元で、切れた靴紐にいつまでも、味方につけた不運はじゃれついていた。