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「皐月」

全体公開 567文字
2019-05-18 13:37:43

春の次に夏が来るのは結果論で、実際は荒れて濡れてたどり着いた先にあるものが夏なのだ。

この日、蝶野あみはとある病室の中で、眠っているその人のことを見ていた。面会時間はそこまで長くもないなか、ただ、横にいる医者の解説を聞きながらそこに立っていた。
「腹部の傷はほぼ、完治しました。脱糸してからもだいぶ経ってますが、何故か意識だけは戻りません。大脳・小脳・その他臓器等全て問題ありません。」
「脳波は?」
「睡眠状態と同じです。レム睡眠の時に揺さぶっても起きませんでしたが。」
蝶野は首を傾げた。……そのまま真剣そうに考えたあと、ふっ、と笑って言う。
「起きたくないんですか、ね?」
医者もその言葉にはてなを浮かべる。
「と言うと」
「ほら、心因性、というか。なにかまとまってないことを片付けているのかも。」
「なるほど。睡眠の基本機能ですか。……必要なんでしょうかね。」
体の医者は当たらずとも遠からずではなかろうか、と付け足し、彼を見た。
蝶野もつられて彼の方を向く。白い肌には仄かにだが赤みすらかかっている。本当に起きてもおかしく無さそうだ。
「起きてお話出来れば、もう少しわかるんですけどねー」
「そうですね。」
風が吹き込んで白いカーテンが踊った。桜はもう落ち切って、緑の葉を付けていた。もう落ちるものも何も無く、ただ、光を集めているその葉が強い光を通さずにいた。

今年も、夏が来る。巨大な入道雲を引き連れて。


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