遊馬「すりー、うちにくればいいじゃん!」
ベク「は???」(バキィ)
ベクターとⅢによる遊馬を巡る仁義なき闘い
男による男を巡る男同士のデュエルないつもの遊戯王
@fu_re_re_ra
フェイカーとカイトの異世界研究。
彼らの海外行きが決定し、トロンとⅤが着いていくことが決まって。
ⅢとⅣの新しい生活は、幕を開けた。
「イラッとするぜ! んなグタグタ悩むなら、てめえ、うちに来ちまえ!」
ハッピーエンドのその影で。
ひとり、まったくもって
ハッピーと程遠い男が一人。
「ひとりじゃ寂しいだろ? すりー、うちにくればいいじゃん!」
「は?」
バキッ、と手の中で
ベクターのシャーペンが折れた。
【地獄鮫同居話のその裏で
〜とりあえずナッシュは死ね〜】
「ちびっこパパの三男坊が遊馬んちで暮らすぅ? しかも、誘ったのは遊馬くんからって、ホントですかァ…?」
にこやかな語尾で、久しい真月モードで遊馬に迫ったベクターの、完全にブチギレた瞳孔に。遊馬は冷や汗をかきながら、カエルのように背中で壁に貼り付いた。
「ベ、ベクター…?」
「遊馬くん気の迷いですよねえ? ボク誘われてないですもんねぇ?」
「ちょ、ベクター、」
「こンの浮気性! 無自覚ホイホイ! 俺の手ぇ握って責任取るっつったクセに!!」
「何のはなし!?」
真っ昼間の教室で身に覚えのない浮気をなじられた遊馬は、ぶんぶん首を横に振って必死に釈明した。
「す、すりーは! 父ちゃんも兄ちゃんもみんな海外行くって! 聞いて! 独り暮らしは寂しいよなって!」
「ボクだって独り暮らしですけどォ!?」
「だ、だってお前、一人が性に合ってるって、シャークとかドルベとかの誘いも断ったじゃんか!」
「だぁれがエセ偽善クソナッシュの施しなんざ受けるかァ! テメエが誘うべきはⅢのヤツじゃなく俺だろうがァ!?」
「なんでだよー!! だいたい、おれが最初に誘ったとき鼻で笑って断ったじゃんかー!!!」
「ソレとコレとは話が別だァッ!」
フン、と鼻で笑うような煽り顔で、Ⅲが勝ち誇ったように言った。
「あいにくだったねベクター。遊馬の優しさに甘えてるからこうなるんだよ。ふふん、春さんにご挨拶は済みました! 僕は明日から九十九家でご厄介になります! 残念でした!」
「テメエは兄貴ンとこ帰れ女顔クソ貴族!」
「トーマス兄さまなら凌牙が自分ちに連れていきましたぁー!」
「あンのクソナッシュぅぅう!」
いらぬところでベクターから恨みを買った凌牙は、一人クシュンとくしゃみをした。
「? 凌牙、風邪か?」
「いや、いま一瞬、来世まで追ってきそうな悪寒が…」
「???」
Ⅲは手のひらを上に向けて、ニッコリと笑顔で煽った。
「分かるよベクター、遊馬が自分以外を誘ったのが悔しいんでしょ? 考えてもみなかったって顔してるよ? ふふん、残念でした!」
「恩知らずのボンボンが!テメエの親父を生きて帰したの誰だと思ってんだ!」
「フェイカーとのマッチポンプまでバッチリ仕込んどいてよく言うね! 男の嫉妬は醜いよ?」
「男か女かわかんねえ顔して抜かすんじゃねえ!」
「ねえベクター、キミって遊馬のことになるとビックリするくらい動揺するし心狭いよね」
「ちょ、ベクター、喧嘩すんなって! すりーも!」
「ウザいんだよ、目障りなんだよ、当たり前の顔で遊馬の隣でウロチョロしてるキミのいちいちが! 残念でした! 誰がなんと言おうと、遊馬が選んだのは僕です! あいにく僕は、キミみたいにたった一人の友達を裏切ったりしないもの!」
ブチッ、と血管の切れる音が
誰の耳にも聞こえた。
「いい度胸してんじゃねえかァ! 表出ろや!」
「望むところだよ! 一度決着つけないとと思ってたんだ!」
「ちょ!ベクター! すりー!」
重ねて言おう。
真っ昼間の教室である。
「遊馬を巡る男同士のデュエルが始まったにゃ…」
キャッシーが箸片手にぼそりと呟いた一言は、真っ昼間の教室の総意だった。
◇ ◇ ◇
「ジャンジャジャーン! そんなわけで、よかれと思って僕もご厄介になることになりました!」
「なあお前どうやってばあちゃんの許可取ったの!?」
自宅に帰るとキッチリ荷物を引き上げたベクターが、制服姿でニコニコ正座していた。
Ⅲはどんよりと影を背負って、片手で顔を覆った。
「ごめん遊馬……ベクターってば、トロンを通して一馬さんから許可をもぎ取ったらしくて…」
「えっ、父ちゃんと連絡ついたの!? 今どこにいんの!?」
「あン? 宇宙ステーションっつってたけど?」
「何やってんの父ちゃん!」
アストラル世界から帰っても割と音信不通気味の自由すぎる両親に、遊馬が叫んだ。
「物凄く不本意だけど一応ベクターって父さまの命の恩人だから…父さまに今朝『ごめんねぇミハエル、がんばって』って凄く生温い目で見送られたよ…」
「俺サマが本気を出せばザッとこんなもんよ」
「なあ、前から思ってたけど、バリアン警察といいお前って本気の出しかた割と間違ってね…?」
「ホッホッホ、男の子は元気が一番。賑やかになるねぇ」
「賑やかってレベルじゃない気もするけどね…もう決まっちゃったんだから仕方ないじゃない」
茶を啜った祖母と、眉間を抑えた姉を前に、遊馬はあぜんと目をパチクリした。
「にっぶいなぁ遊馬くん。まぁだ状況呑み込めてないわけぇ? プププ」
そんな遊馬に、ベクターがニタァと口許を抑えた。
「今日からボクとクソ貴族と遊馬クン、三人揃って同じ屋根の下ってコトですよー!」
ベクターは中指を立てて、大変楽しそうに口角を思いっきり引き上げた。
「元のアパートはすっかり引き上げて来たんですぅ、今さら見捨てませんよね、遊馬君?」
to be continued
ベクターに押し切られるように始まった、遊馬、Ⅲ、ベクター三人の同居生活。
九十九家に同居人が増え、案外あっさり馴染んだのは、ベクターが先だった。
「春さん、よかれと思ってお茶をお入れしました!肩もお揉みしますよ!よかれと思って!」
「ほっほっほ。ありがとうねえ零くんや。お菓子ちょっとだけおまけしようかねえ」
九十九家での評価は上々。真月モードをくるくる使いこなし、祖母の春のお手伝いポジションをきっちり確保。抜かりない。
余談だが、祖母と姉には本名が真月零、ベクターはあだ名ということで通っている。
「ばあちゃんの前でくるっくる態度変わって、オレ目回るんだけど。態度違いすぎね?」
「ばっか、この家を握ってんのは婆さんだ。だったら話は簡単。内政の基本だぜ」
「うーん?どっちかっていうと姉ちゃんの方が怖いけどなあ。ばあちゃんは普通だろ?」
「普通の婆さんは中学生男子をぶん投げねえよ…遊馬テメー感覚麻痺してんな…?」
「えーっと、ようするに、ばあちゃん怖いんだなベクター…?」
「ちっげーよこのボケナス!あの婆さんは敵に回しちゃなんねえ。オレの勘がそう言って」
「零くんやー、庭掃除も手伝ってくれんかね」
「はい喜んで!ちっ面倒だが仕方ねえ」
「……オレ、お前のそういう、目標のためなら何でもする根性、嫌いじゃないぜ……」
ドヤァと効果音のつきそうな調子で、もう一人の同居人を流し見るベクターに。
さて、面白くなさそうな顔で膨れる、可愛らしい男子が一人。
「明里さん、茶葉を変えてみたんです。どうですか?」
「んんー!おいしい!ミハエルくんの淹れる紅茶って、本当に美味しいわ!」
「そんなに喜んでもらえると淹れる甲斐があります。なんだが嬉しくなっちゃうな、僕、姉さまが欲しかったんです」
「可愛いこと言ってくれちゃうわね!もー!こんな甲斐甲斐しくて可愛い弟なら大歓迎!遊馬にも爪の垢を飲ませたいわほんと!」
「そんな、遊馬は元気いっぱいで、そんな遊馬だからみんな大好きなんです。お仕事頑張って下さいね。おかわりいかがですか?」
「なーにが『僕、姉さまが欲しかったんですぅ〜』だ。やり口があざといんだよ女顔クソ貴族」
「なあ、ベクターもⅢもケンカすんなよお」
「ねえ君にだけは言われたくないんだけど?だいたい、一馬さん不在中は明里さんが大黒柱なんだから、気遣うのは当然でしょう。良からぬ動機しかないキ・ミ・と・ちがって」
「へえへえ御大層なこった。実にお似合いだぜお坊ちゃん。貴族辞めてメイド服でも着てみたらどうだ?」
「……うざいんだよ、めざわりなんだよ!」
「わぁぁぁ!すりーその剣いまどっから出したの!?」
お茶煎れ合戦は白熱し、本筋を逸れて二人してプロ顔負けの腕前となっていくのだが。
最終的に祖母と姉の両方から「遊馬もお茶くらい淹れられるようになったらねえ」とこの先十年も言われ続ける羽目になった遊馬は「うわーん!納得いかねー!!」と半泣きで叫んだ。ところで遊馬は不器用につき茶器を2セット割った時点で諦めた。かっとビングは繊細な作業に向かない。
何かあれば始まる口喧嘩、デュエル、大騒ぎ。
毎日が騒がしくて、遊馬は振り回されてばかりだった。
巻き込まれて、呆れて、笑っていた。
「遊馬、眠っちゃってた」
梯子を登ったⅢの手にあった毛布は、降りてきた時には消えていた。
騒がしい毎日。屋根裏でデッキ調整に夢中の遊馬は、どうやら今は文字通り夢の中でデュエル続行中のようだった。
むにゃむにゃと寝言で「…るせー、オレに……スフィンクスが……」と話していた。
ベクターは、そんなⅢにチラリと視線を寄越しただけで、屋根裏部屋の真下の机に陣取って、難しい顔で何か作ってた。
「近道だって連れ回すから。とっくに真月ネタはバレてるのに、なんで遊馬も付き合うかなあ」
「馬鹿だからだろ」
屋根裏の真下は遊馬の部屋。隣の空室に、ベクターとⅢは共用の部屋を充てがわれているのだが、あいにく一室しかないその部屋に二人きりなど御免だし、結局こうして遊馬の部屋で過ごすのが常だった。
宿題にはあまり使われた試しのない遊馬の勉強机に陣取って、ベクターは何やら工作中だった。
「今度は何を作ってるの?ベクターも懲りないよねえ」
プライベート空間など有って無いに等しい共同生活、ベクターの企みなど可愛らしいものだ。
Ⅲが覗いた印象だと、びっくり箱の類いのようだった。この前は家中にネズミ捕りを仕掛けるわ、その前は爆竹騒ぎだわ、手を変え品を変え、遊馬をおちょくることに余念がない。
「構ってほしいならそう言えば?」
「そっくりそのまま返すわクソ貴族。邪魔すんな」
「天邪鬼。同居だって、いちばん最初に遊馬に誘われてた癖に。かと思えば無理やりねじ込んでくるし」
Ⅲは、器用にビックリ箱を製造し続けるベクターの背後で首を捻った。
「キミって、ほんと何したいのかよく分からないなあ」
「てめえに理解されてえとも思わねえよ女顔ボンボン。邪魔」
「素直に一緒に居たいって言えばいいのに」
それは、からかいの類いの言葉だった。
一言返せば百も憎まれ口が返ってくるのが常の中で、けれどベクターはドライバーを弄る手をふと、静かに止めた。
頬杖をついて。
口調だけは軽薄に、けれど瞳は苦めの色をたたえながら、ベクターはこぼした。
「生憎、アストラルの身代わりなんざ、する気無かったんでぇー」
Ⅲは途端に押し黙って、やがてゆるゆるとゆっくり唇を噛んだ。
「……そう、気付いてたんだ」
「気付かねえ方がおかしいだろ。遊馬は元々他人との距離感がおかしいくれえ近かったが、最近は輪をかけておかしい」
────なあベクター、お前さえよかったら、おれと一緒に……
「手当たり次第に抱き込もうとするほどじゃあ、なかった」
静かに見渡した遊馬の部屋は、彼に似つかわしくないくらい、意外に綺麗に整頓されている。整頓された静かすぎる下の部屋と、何もかも詰め込んだ屋根裏部屋。
「この部屋、静かだよね。びっくりするくらい」
この部屋には、遊馬の精神性がよく出ている。
「支えられたら、と思ったんだけど」
「できるわけねえだろうが。埋め合わせなんざ、どうよかれと思ったって歪なだけに決まってんだろうがよ」
ドライバーを投げ出して、肩をこきりと鳴らしたベクターが、達観したようにぼやいた。
「オレだろうとテメエだろうと、この部屋で二人っきりっつーのは塩梅が良くねえ。どうしたって重ねちまうだろうがよ、アイツが無自覚なだけ余計にな」
アストラルが居なくなったスキマを埋めるように。
遊馬は、いつも騒がしく過ごしている。けれど、ふとした時にいつも左上を探している。
「てめえら兄弟は二人で過ごしゃあ良かったんだ。あそこでバランスが崩れた。様子見してたってのに、クソナッシュはとりあえず死ね」
ベクターはぼやいた。
Ⅲは、話題に出た仲間の存在と、いま一緒にいるはずの兄を想った。
「どうして凌牙は、兄さまを誘ったのかな」
「焦ったんだろうよ。遊馬がてめえを誘うのを見てな。アレが〝 アリ 〟なら自分も、ってな」
周りの意見でコロコロ主義を変えるクソナッシュらしいこった。
寝転がりながら頬杖をついて、ベクターは心底嫌気がさした顔をした。
「これだからクソナッシュの王様気取りには嫌気が差すぜ。とりあえず死ね。マジ死ね。ヤツのせいで計算が狂った。ああなっちまったら遊馬がてめえを独りにするわけねえからな。後はなし崩しだ」
作りかけのビックリ箱とドライバーを放り出して、ベクターは遊馬のベッドに我が物顔で寝転んだ。
振り返れば。ベクターが起こす騒ぎは、いつもこの部屋の静寂を掻き消していたようにも思えた。
「まだ早え。アイツの寂しさが埋まるまでは」
◇ ◇ ◇