「どうやら獣になったのは見てくれだけじゃないらしい」
雨彦さんが「ちょっとしたアクシデント」で狐耳と狐尻尾が生えてしまったすけべ一歩手前のお話です。
@toasdm
ああ、そこもちゃんと落ち込むんだ、と電話を終えた彼女は苦笑しながら雨彦に近付いた。申し訳なさにしおれた耳と垂れた尻尾は、普通の人間であるはずの雨彦には本来備わっていないものだ。もこもこの尻尾は時折ぱたりと力なく床を叩き、しおれたように下がった耳からは獣皮の柔らかそうな質感を感じる。終わったのかい、と眉尻を下げた雨彦は今、雨彦の姿のままで白い狐の耳と尻尾を生やした状態になっていた。
「一週間くらいならなんとかなりますよ」
「すまないな……」
気落ちしたような声と態度は仕方ないとはいえ、彼女の庇護欲を上手にくすぐった。雨彦いわく「ちょっとしたアクシデント」で耳と尻尾が生えてしまったこの状況は、彼女にとっては「珍しいものが見られた」というお得感があったのだが、同時に「仕事どうしよう」という悩みの種ともなった。それは雨彦にとっても同じで、彼女が手腕を発揮して一週間という時間を作ってくれたのは幸いだった。この姿になるくらいなら怪我でもした方がマシだったぜ、と落ち込む雨彦の頭をよしよしと撫でながら、彼女はそっと、頭の上に生えた狐の耳を撫でてみた。
「わ、本物だ……」
「んっ、こら、お前さん止せ」
人間としての耳もあるせいか、飾りのように見える頭の上の狐の耳は、撫でるとほんのり温かく、血が通っているのがよくわかった。神経も通っているのだろうか、指先でさわさわとなぞってみるとくすぐったそうに肩を竦めて、ぴるぴると耳は忙しなく動いた。
「はぁ……情けねぇな」
「怪我されるよりはずっといいです」
「すまないな……」
しょげた雨彦の尻尾を、彼女は好奇心に負けてそっと握ってみた。
「んんっ!?」
「うわ、ふっかふか……!」
これはたまらないです、と大きな尻尾をぎゅうっと抱きしめた彼女に、そんなことをされちゃたまったもんじゃねぇよ、と雨彦は抗議する。
「血も神経も通ってるんだぜ、びっくりするだろう」
「ご、ごめんなさい……」
離してくれよ、と雨彦は尻尾を大きく振り回す。大きさもかなりのものだからだろうか、彼女の体はそこそこの力でぐらぐらと揺さぶられて振りほどかれる。尻尾ってすごいんだ、と感心する彼女は、もう完全に、雨彦の憂鬱などどうでもいいといった様子で、雨彦の耳と尻尾を堪能していた。
「これ、狐ですよね」
「そうだろうな……状況的にも」
雨彦は彼女の魔手から逃れることをあきらめて、不承不承ではあったが彼女の好きにさせている。耳の中に指を突っ込んでは、中身は普段の髪の毛だ、と喜んでみたり、尻尾を優しく撫でては痛くないですか、と聞いてみたり。女子供はふわふわしたもんが好きだな、と自在に動かせるそれらの扱いを若干理解してきた雨彦は、はぁ、とまた特大の溜め息をついた。
「あ。もしかして」
その、油断した一瞬の隙を狙って、彼女は徐に、雨彦の尻尾の付け根をトントントン、と軽く叩いてくすぐり始めた。
「これ、気持ちよかったりします?」
「ぅあ、あ、あ、は……んっ」
突然の、未知の快楽に身を震わせながら、雨彦はびくびくと全身を痙攣させた。なんだこいつは、聞いてないぜ、と今にもこみ上げて爆発しそうな感覚に口を押さえて、雨彦の手は彼女の手をパシンと払って撥ね退けた。
「ちゃんと、感覚同じなの……んんっ!?」
ダンッ、と乱暴に、雨彦は彼女を床に押し倒した。待って、何、と慌てふためく彼女の唇を乱暴に塞いで奪って、雨彦は切れ長の瞳をぎらつかせて彼女を見下ろした。
「どうやら獣になったのは見てくれだけじゃないらしい」
「な、なっ、待ってちょっと雨ひ――」
がぶりと噛みつくようなキスをして、雨彦の手はするすると、彼女の服の裾から素肌へ侵略を開始する。
「理性も獣のそれだな。収まるまで付き合ってくれ」
「や、あっ!!」
お前さんも道連れだ、と破り捨てるように彼女の衣服を剥ぎ取って、雨彦は彼女の膝裏を抱えて自身を添えて、ニヤリと笑った。
「一緒に獣になっちまおうぜ、お前さん」
ピン、と狐の耳を立てた雨彦の舌なめずりから、彼女は逃げる術を持っていなかった。