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令和元年のゲーム・キッズ 21「人生大逆転」

@kozysan
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2019-05-21 07:15:45

渡辺浩弐のショート・ショートです。
※メイキング→https://youtu.be/kldwnpmCacM
※完成品→https://www.amazon.co.jp/dp/4065169321

 45歳になったその日、日下太郎は会社から早期退職制度の活用を推奨すると言い渡された。すなわち辞めてしまえということだ。
 二十余年を勤めたが、失敗ばかりで、会社にとってはマイナスの人材だった。あと5年の余命期間中に仕事で成果を出すことも不可能だとみなされたのだ。タイムアップというわけだ。
 素直に従うしかない。日下太郎は納得し、会社を辞めた。社会に貢献しなくてもせめて邪魔をしないように生きていくべきだろう。となれば引きこもってこそこそ暮らしていくしかない。
 ただしそんな日々でも、希望は消えていなかった。彼は小説を書きはじめた。何者にもなれなかった彼が、死ぬ前にもしかしたら輝くことができる。名を残すことができる。その唯一の可能性が、これだった。小説ならパソコンのキーボードを叩いているだけで書ける。何の準備も訓練もいらない。経歴も関係ない。それでいて、名作が書ければ一夜にして有名人になれる。大金持ちにも。
 ただし、名作が書ければ、だが。
 彼は延々と書き続けた。小説というよりは一人ごとのような、日記のようなものを書いては、読み直すのももどかしく、様々なコンテストに応募した。
 1年、2年。続けていたが一次審査を通ることもなかった。彼は首をひねりながら、めげることはなかった。才能という形の見えないものだったら、ある日突然獲得できると思っていた。
 大逆転は、あった。ある日一人の男が訪ねてきた。
「小説家になりたいそうですね」
 なぜそれを。と、聞き返そうとして、日下太郎は背筋が寒くなった。その黒ずくめの男の顔が真っ白で、毛穴が全くないことに気づいたからだ。
「その夢をかなえましょう」
「あ、あなたは」
「悪魔だ、と思っているのではないですか。まあ、そのようなものです。魔法のようなことを行うことができます。つまり傑作小説を書いて頂きます。すぐに世界を震撼させ、ベストセラーとなり、”日下太郎”その名を歴史に刻み付けるほどの」
「どういうことですか。完成した作品を売ってくれるってことですか。僕お金ないですよ」
「あなたが貧乏なのは知っています。傑作も、まだできていません。しかしご自身でこれから新しい作品を書いて頂きます。それが傑作になります。代償はお金ではありません。まず一つ目は秘密を守って頂くことです。あなたは身寄りも友達もいない孤独な男ですから、それは簡単なことのはずです。そしてもう一つ。私が悪魔だとわかっていますよね。そうです。あなたの、魂を頂きたい」
「教えてほしい。なぜ僕なのですか」
「あなたはね、われわれにとってはとても魅力的な人間なんですよ。あなたは小説を書いている。しかし良い小説を書きたいわけではなく、小説家になりたいだけだ。そうですね」
 日下太郎はしばらく考えた。そして、その通りだと思った。
 自分の魂というものにもそんなに執着心はなかった。日下太郎は取引に応じた。
 魂と引き替えに作家になるのだ。
 翌年、日下太郎は公募のコンテストで入賞し、その受賞作品でデビューを飾った。すぐにベストセラーとなり、第二作はさらに注目され、大きな文学賞を獲得した。
 望み通り彼はあっというまに人気作家となった。
 文壇でも、マスコミでも、日下太郎の正体は秘密のベールに包まれていた。会社を辞める前の写真しか出回っていなかったし、インタビューにも応じなかった。どんなふうに育ち、どうやって傑作を書けるようになったのか、世間は知りたがったが、そのことについて彼は一切発言することがなかった。
 そんな彼に人生のタイムリミットがやってきた。50歳の誕生日だ。

 その翌日。黒ずくめの男は、最も重要な人物を訪ねていた。
「先生、日下太郎が寿命定年を迎え処分されました」
「ああ、ニュースで見たよ。つまりあの名前は、もう使えない。私はまた名無しの権兵衛に戻ったということだね」
「ご心配はいりません。ちゃんと準備してありますから」
「そうか、もう決まっているのか」
「はい。次に先生が成り代わるのは、二宮雄治という名の男です」
「その男は、今はどうしているのかな」
「死にました。先生が使用していた日下太郎の名前で。つまり昨日死んだのは日下太郎ではなく二宮雄治。本物の日下太郎は三年前に別人名義で死んでますからね。これで二宮雄治という空席ができました」
「よろしい。ところで彼は……二宮雄治は、何歳なのだね」
「47歳です」
「その身元を使えるのは3年か」
「大丈夫です。その間に、次の誰かを見つけておきますから」
「すまないね」
「いえ。我々は先生の才能を守りたいのです。名前が変わっても、確実にベストセラーになる傑作を書き続ける才能を。そしてその収益で我々も十分に儲けさせて頂いています」
「しかしよく見つかるものだね。私の代わりに死んでくれる人達が、次から次へと」
「それは簡単です。彼らは皆、納得して引き受け、満足して死んでいきます。何の努力もせずに名声だけはほしい。小説を書きたくもないのに小説家にはなりたい。先生の考え方とは真逆ですけどね、世の中にはそういうバカの方が多いのです」


ぷよ太郎 @yorikone

50年で死ななければいけない世の中、具体的な死刑の方法についての小説も書きますか・・・

2019-05-21 07:32:15
渡辺浩弐 @kozysan

死刑(というより安楽死)の方法は既に詳しく書いているのですが、小説の中では多分使わないと思います。

2019-05-21 07:52:21
押利鰤鰤 会社倒産して無職3ヶ月 @yawaren

名を残すこと以外にメリットがあるように思えないですけど、そこに重きを置く人は一定数いるのでしょう

2019-05-30 16:55:39

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