@mary_hitman
トランプのタワーを積み上げる手を止め、人のドミノを勝手に持ち出した男を盗み見る。少し並べては倒し、倒してはまた並べ直しを繰り返しているようだ。
「今日はやけに静かですね」
声をかけられ、憂い顔がこちらを見る。
「そんな日もあるよ。リップサービスばかりするのも疲れるからね」
「リップサービスですか」
「わかってるだろう?」
調子に乗った男が近付いたことにより、築き上げた塔が崩れ落ちる。
静かにしているからと構ってやれば、喜んで絡んでくる。まるで単純な生き物のように。犬か何かであればかわいくもあるが、相手は何処をどう見ても間違いなく成人男性だ。
しかし、いつからだろう。この頭の悪い関係の始まりには、煩わしく思っていたはずのこの手を特別そうも思わなくなったのは。本来ならば気分を害すのには十分すぎる相手の行動を、今も自分は認めてしまっている。
だが、思い返してみようにも、この男の言葉によって緩やかに奪われた正常な判断能力は戻って来ない。
「好きだよ、かわいい方の《L》」
「リップサービスですか」
「さあ、どうだろう」
憂い顔は消え去り、ただ愉快そうな顔が笑う。
この不愉快な感情への自問自答は、堂々巡りのまま終わりがない。