Ad setting

【独立者】ギャンパラ二次創作小説

Publish to anyone 5999
2019-05-23 12:28:50

5/26のゲームマーケットから配布芸をするオリカ「独立者」です。ギャンパラの世界とどこか似ているようで、if的な世界線。

Posted by @bng3j


 いくら秩序の無い街だとしても、根っこがしゃんとしている奴は、礼儀もなっているものだ。その辺のゴロツキをやっているくらいじゃ、礼儀の「れ」の字も知らないだろう。誰かの上に立つ者、愛し忠誠を誓った者、己の道を突き進む者。それこそ独自のルールであれ、彼らは彼らなりの方法で、人を信じて人を敬う。
 嗚咽混じりに、すすり泣く声。
 その声がかき消されるようにして、1台のワゴン車が到着した。
「中に運んじまうぞ」
「どうもありがとうございます。よろしくお願いします」
 今夜の葬儀は派手だ。
 この街のボスが、死んだ。
「ぼーっとしてないで、お前も手伝え。ただでさえ数が多いんだ」
 自分が話しかけられていると気付いたのに、2秒ほどかかった。ワゴン車を運転してきたガタイのいい花屋は、ツーブロックの頭に似合わぬ赤薔薇を抱えている。
 彼は顎で荷台を指す。ため息を吐きながらワゴンの荷台を覗くと、一面の真紅の世界が広がっていた。
 赤薔薇、赤薔薇、赤薔薇。バケツにいっぱいの赤薔薇は、息を呑むほどの艶やかさだ。あのツーブロック男が花屋をしているというのも違和感だが、それ以上にこの薔薇の美しさに、気味の悪さを感じた。
「突っ立ってねぇで、さっさと運ぶんだよ」
 特別な声色を出していたわけではないように思う。しかしこの花屋の声は、何故か俺の背を震わせた。この人に、逆らってはいけない。ただの花屋なのか、はたまた花屋は仮の職なのか。知る由もないことだが、只者の言い草でないことは確かだった。
 言われるがままに教会の中へとバケツを運ぶ。黒いエプロンに身を包んだ花屋の背中は、すっと背筋が伸びている。もたもたしていたら、今度は舌打ちでもされそうだ。2度ほど往復をすると、車の中はからっぽになっていた。どうやらこれで終わりらしい。
 いや、正確にはからっぽではなかった。荷台の隅に、細長い新聞紙が置いてあるのだ。ちょうど、一輪の花が包まれていてもおかしくない大きさに見える。
「邪魔」
 ずんと、黒い影が荷台に伸びる。またも、花屋の声だ。俺はすみませんと小さな声を出して、後ずさった。すると花屋はそのまま荷台を閉め、施錠してしまう。まだ中に、花のようなものが残っていたが、それは運ばなくていいのだろうか。
 花屋は俺に不可解な顔を残して、教会へと歩いて行った。
 ボスが死んだ──。その訃報が駆け回ったのは昨夜のことだった。それにしては、葬儀までの事の運びが早すぎる。この街を蔓延るギャング団のボス。その葬儀を、ぽんぽんと執り行っていいものなのだろうか。以前から準備をしていたかのようなスピード感、とそこまで考えて、そんなまさかという結論に至った。そんな、まさか。
 喪明けから跡目争いが始まることは明白だった。幹部の間でも、大きくふたつの派閥に分かれ始めているという話だ。ボスの意志を継ぐのか、組織を改革するのか。混乱に乗じる輩も出てくるに違いない。
 今の俺は、跡目争いに口を出すべきではないと判断した。ボスに敬意を払い、ボスへ哀悼の意を示す。己のことしか考えないギャングの幹部とは違う。俺は俺なりの方法で、ボスを見送るべきなのだ。

***

 薔薇の花言葉は愛だ。献花といえばカーネーションなどを捧ぐべきところだろうが、あのボスのことだ。薔薇が最も、相応しい。
 献花を捧げる参列者の中には、泣き崩れる者もいた。俺が昼間に運んだ花を持ったまま。
 気付けば花屋は姿を消して、ワゴン車もどこかへ去ったあとだった。俺はボスの遺影に背を向けて、教会の集会室へと向かう。そろそろ騒ぎの準備も終わる頃だろう。
 ずらりと、酒瓶を並べる男がいた。
 彼は俺が入ってきたことに驚きもせず、黙々とグラスを拭いている。
「生前、これだけのボトルを預けられたものです」
 俺の方に、彼は冷たい眼差しを向けた。
「葬儀屋の方が仰っていました。人生最後のお祭り、派手にどうです、と」
 ボスのキープボトルを葬儀の夜に飲みあさるなんて、全くもって馬鹿馬鹿しい。一周まわって、面白くなってきた。何もそこまで「派手」にやらなくとも。
「ひとつ、聞いてもいいか」
「私に答えられる範囲でしたら」
 バーテンダーは柔らかな口調で答える。冷たい視線とは、裏腹に。
「ボスのこと、どう思っていた?」
 俺の質問にバーテンダーは、グラスを拭く手を止める。
「お金を払ってお酒を飲みにくる、一人のお客様です」
 淡々とした口調にも関わらず、事務的な会話のようには思えなかった。物悲しさと、寂しさと。ボスの死がもたらした変化。それは街角の、小さなバーテンダーの心にも。
「ボスの居ない、街」
 反芻していた言葉は、思いがけず声帯を通って発される。
 ちらりとこちらを見たバーテンダーが、俺の言葉を拾うことはなかった。
 確かにボスに忠誠を誓った。だがしかし、それは組織への忠誠心かと問われるとまた違う。あのボスの組織だからこそ、俺は忠誠を誓えていた。
 こんな組織を壊滅してしまう?いや、違う。それはボスへの忠誠とは異なる。
「なあ、もし──」
「ギブアンドテイク、でございます」
 呟くように言ったとも、遮るようにわざと言ったとも捉えられる。そんな、流れるような言葉だ。
 返報性という人間の心理性質がある。何かを差し出されてしまったら、お返しをしなければならない。まさに、ギブアンドテイク。ここのギャングは、どうだ。安定している奴ほどきちんと対価を払い、恩を仇で返す奴はすぐ消える。
 ああ、違う。淘汰されているんだ。
 バーテンダーはすっと俺の前にグラスを出した。琥珀色の液体で満たされたロックグラス。
 自分に差し出されたものだということは、すぐに理解できた。ギブアンドテイク。これを受け取ったら、俺は何を差し出さねばならないのだろう。
 グラスを持ち上げて、口の中へと流し込む。喉を焦がすような、辛いウイスキーだった。得意じゃない味わいがいっぱいに広がって、唇を噛む。音を立てないように小指を添えて、そのくらいの俺でもできるマナーを意識しながら、グラスを置いた。
 ──なんだろう。小指に、触れる。グラスとはまた違う質感の、これは、紙切れだ。
 グラスの底に、ふたつに折った紙切れがくっついていた。そっと、バーテンダーにばれないように外してみる。きっと彼は知っているのだろうけど、それでも、ばれないように。そっとポケットに入れて、「ご馳走様」と告げて。
「その言葉は、ボスに仰ってください」
 死んだボスの酒。普段なら口をつけることの無かった酒。ボスが死ななければ飲まなかった酒。
 嫌味か、このバーテンダー。

***

 ボスの葬儀が終わり、酒飲みのどんちゃん騒ぎは教会から場所を移したようだった。さっきまでの人の多さが嘘のように、誰もいない教会。時計のてっぺんで重なろうとする、長針と短針。
 昼間に出会った花屋がいた。
 教会の真ん中に、佇むのが見える。
「懺悔室なら、ご案内しましょうか」
「告解ならしに来てないね、第一、神様はお腹が痛い時にしか信じない」
 くすくすと嗤う赤い髪の男は、教会前方の席に座っている。花屋と対話をしている形だ。
 ただ俺が知っているに、この赤髪の男は葬儀屋だったはずだが。
「フェラリィス、いま私が話しているのは貴方ではありませんよ」
 ねぇ、とばかりに振り向く、葬儀屋。目が合った。懺悔、俺が?
 フェラリィスと呼ばれた花屋は、俺の姿を見るなり目を細める。少しだけ考えたようで、思い出したように顔を上げた。手には昼間に運んだ薔薇、ではない。あれは赤い薔薇だった。彼が持つのは、黒い一輪の薔薇──。
「誰の差し金だ」
 ぴしゃり。
 そんな音がするような、気の張った一声。自らかが上だと言わんばかりの、アイスピックのような眼差しが向けられる。
 昼間の花屋の顔では、ない。
 その場から動けなくなってしまった俺は、えらい恐怖心と闘っていた。間違いない。このひとは、ただの花屋などではない。血の煮えたぎる音が鼓膜の奥を滑走し、消えることの無い鳥肌が皮膚にへばりつく。足の裏には汗が滲み始めて今にも大きく転んでしまいそうなのに、杭を打ち付けられたように地にかろうじて立てている。
「誰の、差し金だ?」
 熱帯魚のようにパクパクとさせることしかできない口。声帯がうまく動かず、脳が状況に追い付くはずもなかった。
「神聖な教会で、血を流すとかやめてくださいよ」
 悪いまじないが解けたような感覚がした。葬儀屋の言葉で、あの張りつめた拘束空間から抜け出せたところで、俺はやっと一枚の紙切れをポケットから取り出すことができた。
 グラスの底にあった、紙切れだ。
「ここで、待つようにと」
 メモにはこう書かれていた。Wait until finished.(終わるまで待機せよ)、それだけだ。花屋は不可解な顔をして、指でこっちに来いとジェスチャーを送る。それに応えて、彼らの元へ歩み寄った。
 俺が手渡したメモを見た葬儀屋の回答は「ジェームス」であり、花屋もそれに同意した。ジェームスとは誰かと訊ねるより先に、葬儀屋はバーテンダーをやっている男だと教えてくれる。ウイスキーを渡してきた彼のことで、間違いないだろう。
「筆跡が彼のものです。しかも、自分が書いたものであるということを、人に見せるために書いてある。とりわけ、我々にでしょう」
 花屋はまたしても、じろりと俺を見る。まだ俺が何かを隠していないか、頭のてっぺんから爪の先まで舐め回すようにして、情報を探しているように見えた。
 生憎だが、何も無い。これ以上は、俺も何も知らない。
「いつ、どこで渡された?」
「夕方の集会室」
 今度はすっと言葉が出た。尋問を受けているようで、決して気分のいいものではないが、話さねばならない気持ちになっていた。
「ボスの死をどう思う」
 ちょっと意外な質問に思えた。俺が何をしたか、何を見たか、そういう質問が飛んでくるものだとばかり考えていた。そしたら俺の感情を問う質問だ。
 俺はボスの死に、何を思っていたか。
 正確な射撃で撃ち殺されたボス。確か、2発。右の二の腕と、首の後ろだ。
「プロの手じゃない、んじゃ、ないですかね」
「聞きましょう」
「確実に殺すなら、遠距離で行う射撃において、首から上は狙わない……。当てるのは、プロでも難しいって話です。そしてボスが殺された翌日に、もう葬儀が出せる準備が整っていた。あまりにも、事が上手く運びすぎている……
 何をべらべらと話しているのだろうか。葬儀が出せる準備が整っていたならば、この葬儀屋はボスの死に一枚噛んでいるじゃないか。
 ゾッとした、どころではない。穏やかではない死が視界を横切る。
 花屋が体を震わせた。一秒か、二秒か、時間が長い。もう理解している。この花屋は、拷問が本職だ。
 フェラリィスといったか。この街の拷問人は、酷くサディスティックだそうだ。名前こそ知られていないが、噂くらいは聞いたことがある。
 組織の一応の幹部が、彼の何を知っているというのだろう。幹部といえど、下っ端の駒を動かす仕事だ。上にはまだ上がいて、板挟みの中間管理職。何も知らない。誰がどこに、何を依頼しているか。どんな人間が使い捨てられ、いつ事は行われているのか。だからこの拷問人の存在も、俺の中では噂の上の人間でしかなかった。今、目の前にいる花屋は、そう。その、彼だ。
「意外とハッキリ、物をおっしゃる」
 手が出るより先に、葬儀屋が口を開く。途端に拷問人は笑い始め、もう堪えきれないといった様子だった。
「単刀直入にお伺いします。ボスの座を手にするおつもりはございませんか?」

***

 ボスへの忠誠。花言葉は愛。
 街は跡目争いで忙しい。路地では毎日銃が鳴り、誰も彼もが騙される。誰よりもボスの意志を継ごうとしているマイケルが、ゴロツキ共を集めているって話を聞いた。裏ではあの、二枚舌のトンマーゾが動いているらしい。騙し騙され、まったく上手くやるものだ。
「毎週毎週、あなたくらいのものです」
 教会の隣の墓場で、献花に来るのが恒例となってしまっていた。決まって、赤い薔薇の花。
「儲かってるんだろ、この状況」
「さあ。お金を出す方さえ居れば、祭りは行えるのですが」
 ああ、死んでいるのは、ゴロツキか。礼儀を知らぬ者たちは、自分の死にすら礼儀を払われない。
「そういえば、ジェームスが皿洗いを探しているようです。お心当たりはございませんか?」
「生憎だが、無いね」
 葬儀の夜。ボスになる気は無いかと、この葬儀屋に問い詰められた俺は、その返事を保留にしていた。喪明けと共に、始まった殺し合い。そこに便乗してきた潜入捜査官もいたらしい。俺は関わることなく過ごしたいのだが、やはり派閥を問われる。この組織を、お前はどうしたいのかと。
 ボスへの忠誠は、組織への忠誠とは違う。
「死者は何も語りませんよ。それが、いいのですが」
「ボスは、死んだ」
「ええ、亡くなられました」
「それを、知っていた」
「さて、どうでしょうか」
「貴方は、一体」
「死者を祝う者、といったところです。誕生と等しく、死もまた美しい」
「殺してください」
「葬ることはすれど、生憎人の生を終わらせる職ではございません故」
「あの花屋でも呼んで」
「彼の仕事は殺しではございません。情報を聞き出すことでしょう」
「俺は」
「己の手で、己の死を決めればよいのではございませんか」
 一輪の薔薇。死者は黙して語らず。花言葉は愛。ボスへの忠誠。今は亡き、ボスへの忠誠。
 ボスと別れたこの街に、もう用が無いのなら。
「盛大に、美しい身引きを頼む。金なら、あるだろう?」
 どこか、葬儀屋の表情が嬉しそうに見えた。
「仰せのままに」
 あのバーテンダーのところに行こう。皿洗いの紹介はできないが、きっと色々と知っているはずだ。違う街の酒のこととか、新しい場所のことだとか。あの花屋は都合がいい。欲しい情報をかっぱらって来てもらって、上手く行けばなにかの騒ぎに乗って抜け出せる。
 そういえば、先日の潜入捜査官騒ぎ──。それを吐かせたのも、あの花屋じゃないだろうか。とすると、彼の元にはやはり情報が集まる。大物が死ねば葬儀が挙がる。資金繰りは十分行くはずだ。
 花屋に注文した花を持って、またボスの墓へと繰り出した。ボスとの別れ。この街との別れ。
「あの酒は、俺にはまだ早すぎる」
 さようなら、ボス。黒い薔薇の花言葉もまた、愛だという。


Press the Nice button to this post.


© 2022 Privatter All Rights Reserved.