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令和元年のゲーム・キッズ 25「一新星」

@kozysan
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2019-05-25 06:18:49

渡辺浩弐のショート・ショートです。
※メイキング→https://youtu.be/U9aU7ldGhtk
※完成品→https://www.amazon.co.jp/dp/4065169321

 コンピュータによる未来予測は、前世紀から行われていたことだ。文明はどう進歩するのか、社会はどんなふうに変化していくのか、最先端の研究や、人口や教育水準の推移などさまざまなデータを緻密に入力した上でのシミュレーションが行われ、投資や行政の指針として活用されてきた。
 ただし、かつては大きなノイズが予知の的中率をいちじるしく下げていた。全ての物事が美しく計画通りに進められ、スーパーコンピュータにより気象までが99.9%の正確さで予測される時代になっても、唯一最大の不確定要素として残っていたのが「人間の寿命」だった。
 寿命が50年までと決められたおかげで、そのノイズが取りのぞかれ、予想の精度が劇的に向上した。年齢別人口の変化が見通せるだけでなく、生産や消費についても正確にわかるのである。
 1年後の野菜価格。2年後に流行する音楽のジャンル。3年後に登場するゲーム機のスペック。5年後の平均株価。10年後の政権。そういったことが予想というより予定として発表されるようになり、そのスケジュールに従って様々な準備をすることが、すなわち社会人の仕事ということになっていった。
 誰もが、自分の未来を正確に予知してもらうことによって、ハズレのない人生を歩めるようになった。
 人間一人一人の能力や生産性は、DNAつまり生まれつきの才能をベースに、その人間が選んだ教育や仕事によって測られる。就業した業界の動向も予測できている。その人材がその現場でどれくらい活躍できるかというシミュレーションが行われる。
 逆に、生涯にわたって最も活躍できる、最も収入を得られる進路を選ぶことが当然のことになる。
 つまりどういうことか。
 僕の場合、生まれてすぐ受けた遺伝子診断によって、社会人としての可能性を詳細にわたり告知された。
 運動神経はどのスポーツを選んでもプロになれるレベルには達しない。例として挙げられた数値では、0歳から完璧に理想的なトレーニングを一切なまけずに続けたとして、100メートル走のベストタイムは11.02秒。マラソンに絞ってチャレンジした場合、ベストタイムは2時間41分09秒。
 知能指数は成人時点で「85±2」になるであろうことがわかった。平均をかなり下回るレベルだ。生まれる前、親は研究者か医師にしたいと夢を持っていたらしいがそれは無理だということがはっきり示された。高度な知能と判断力が問われる職業には向かないのだ。
 健康と手先の器用さについては平均値を上回るという予想が出ていた。20年後の産業動向と合わせてのシミュレーションから、AIは僕の両親に対して、子供に伝統工芸の職人を目指させるよう推めた。
 従わないわけにはいかなかった。僕は実技学校に進学して実践的な技術を学んだ。
 AIの判断は正しかった。20年後、20歳になった僕が就職先を探す頃、製造業のほとんどの現場はロボットに独占され、人間の労働者は不要となっていた。ところが伝統工芸だけは、人間の手作りのものを喜ぶ富裕層のマーケットがあり、熟練職人が求められていた。こんな僕でも、どうやら一生食いっぱぐれない仕事を得られそうだった。
 本格的に就職活動を始めるにあたって、AIの決めた通りに人生を進んだ場合つまり最高効率での人生を確保した場合の人生設計図が送られてきた。
 その時点で就職先の候補は1社に絞られており、生涯賃金までがほぼ確定的に予想できていた。
 共働きを承諾してくれる相手とのマッチングにより、25歳の時点で結婚できる。35歳までにローンで小さな一軒家を、地価が平均値を下回る地域で、所有することができる。自家用車は低価格低燃費の軽自動車を買うこと。
 子供は1人まで。ただしマイホームを諦めることにより、2人目も不可能ではない。
 趣味はゲームやアニメなど、それも著作権の切れた古い作品を愛好することが必須。釣りやゴルフは、道具に凝らなければOK。海外旅行やギャンブルなど出費の大きい趣味は断念のこと。
 20歳、30歳、40歳と、年代ごとにどのレベルの生活水準で生きるか、事細かく予想、いや指示されていた。いつどんな病気になるかまで、詳しく記されており、それに備えて必要な毎日の貯金額も明示されていた。
 それに目を通していて、僕はとうとうぶち切れたのだ。行くだけで受かる予定だった入社試験をすっぽかした。半狂乱になった両親を無視し、翌日からニートになった。
 そして本を読み続けた。ずっとやりたいことだった。実用書ではなく古今東西の小説を、電子書籍になっていないような作品も、つまり高額の物理本を入手してまで、ひたすら読んだ。
 本当は、僕は小説家になりたかった。決められたコースからスピンアウトして、予想できない人生を生きたかった。
 ずいぶん前に僕は密かに調べたことがあった。完璧な予知能力を持つAIは、僕が小説家になれる可能性はゼロだと言った。0.1%でも0.001%でもなく、完全にゼロ%だと。
 しかし僕には考えがあった。AIには絶対に思いつけないアイデアを思いついていたのだ。
 今この世界はすみずみまでコンピュータネットワークによって監視され、AIによって管理されている。社会の全てのことはきちんときれいに予定通りに進行している。
 その中で僕の限界は決められている。
 しかし、その枠の外に出ることができるとしたら。
 全人類が、それだけでなくコンピュータまでもが、絶対に知ることのできない要素があれば、それを掴むことによって、僕は枠の外に出られるかもしれない。
 そして自由になれば、コンピュータの予想とは違う未来を切り開けるかもしれないのだ。
 僕には自信があった。そんな武器を、もう持っていたからだ。
 ニュース番組で知った。夜空を飾る星座の中でも特に有名なオリオン座。その中でひときわ明るい星ベテルギウスが、もうすぐなくなってしまうという情報だ。
 ベテルギウスは太陽の900倍もの大きさの恒星だが、これがまもなく星としての一生を終えるというのである。
 その兆候は明確で、現在は、燃えながらものすごい勢いで膨張し続けている様子が観測されている。最後は重力バランスが崩れた瞬間、一気に爆発する。それを超新星爆発という。
 重要なのは、それが「いつ」かということだ。ベテルギウスの寿命はすでに99.99%は終わっていることは間違いないという。断末魔の爆破が、すぐに起きることも。ただし、宇宙の世界でその「すぐ」とは「早ければ明日、遅ければ10万年後」というレベルのことらしい。それを確定することは、人間にも、コンピュータにも、絶対にできない。
 爆発の光が地球に降り注いではじめて、寿命が尽きたことを知るのだ。光より速いものは宇宙には存在しないから。ただしベテルギウスは地球から640光年の距離にあるため、爆発してからその様子が伝わるまで6百年以上もかかる。過去640年のうちに既に爆発している可能性もあるのだ。
 計算上、爆発したら太陽の数億倍のエネルギーが発散される。それが届いた時、地上は夜でも昼みたいになる。2週間くらいの間は、空に太陽が2つあるような状況になると言う。
 それで地球はどうなるのか。明るくなるだけで被害はないと言う説も、全生物は滅亡すると言っている説もあった。AIは、予想不能と答えたらしい。なにしろ歴史上前例のないことだし、判断材料もないのだ。
 ある宇宙物理学者が危機の一つを予想していた。その時、目に見える光だけではなく、ものすごい量の電磁波が降り注いでくる。それが、近年各国で最新兵器として開発されている「電磁バルス爆弾」と同様の打撃を広範囲に与えるというのだ。
 それは一瞬にして地球上のほとんど全ての電子機器に過負荷をかけ破壊する。コンピュータやネットは落ち、各種メモリー内のデータは消える。もちろん全ての通信は不能となる。
 パソコンやスマホだけでなく、CPUが搭載された家電製品は全て影響を受ける。コンピュータ制御されたライフラインは稼働不能となる。管理システムが落ちたら、電気やガスの供給も止まるのだ。
 飛行機の管制も、船のレーダー制御も、電車のダイヤ管理も不能となり、運航、運行不能となるだろう。そして道路では信号機が消える。運転を電子制御機能に預けている自動車は暴走するかもしれない。交通は、完全に麻痺すると考えてよい。
 この状況を「石器時代に戻る」と表現している学者もいた。
 いくつかのAIにアクセスしたり、過去の論文を漁ったりして、僕はこのベテルギウスの終焉についてだけは断定的なことを言っている予知が一切ないことを確認した。
 科学技術がいかに進んでも、光の速度にだけは勝てないということだ。
 僕が思いついたすごいアイデアとは何か、そろそろ教えてあげよう。この「ベテルギウス大爆発」をテーマに小説を書いたのだ。
 冒頭は、真夜中に突如として大空の全体が光り輝く美しい情景。そしてコンピュータ文明、機械文明の全てを失った人類がどう生き延びるか。ひとことで言えばそんな内容だった。
 これを出版社に送ったら、すぐに編集者から連絡が入った。絶賛だった。
 何もかもが緻密に正確に予想されてしまう時代に、小説それも特にSFというジャンルは絶滅しかかっていた。しかしこの小説は、現実の予想を飛び越えたアイデアの上に書かれている。夢を失い退屈さに苦しむ現代人に間違いなく受ける、と言われた。
 提案されたことは、まずその出版社が主催しているコンテストに応募して、大賞を……ただし出来レースで……取ることだった。大賞作品は映画化されることが決まっている。本として出版される前に、その話題だけで十分すぎるほどの宣伝が成されるというわけである。僕は承諾した。
 大賞の発表前夜、僕は寝られなかった。一夜明けたら、僕は有名人になる。誰も、AIですら、予測できなかった方向に、僕の人生は進み始めるのだ。ベッドの中でずっと目を開いていた。
 そして、窓の外の夜空が光ったことに気づいた。
 稲妻かなと思った。せいぜいそれくらいの短い小さな光だった。
 翌朝のテレビでその正体を知った。それがベテルギウスの超新星爆発だった。
「今夜からオリオン座の星が一個減ります。寂しいですね」
 その程度の報道だった。誰も予想できなかったほど、爆発は地味だったのだ。光も、磁気も弱く、被害は全世界から一件も報告されることはなかった。

 僕にはわかっている。もうすぐ電話が鳴ること。
 編集者からだ。彼は僕の書いた小説がゴミになってしまったことを残念がっている。そして、受賞も、映画化も、出版も、すべて白紙になったと伝えるだろう。
 電話が鳴った。僕の未来予想が、当たったようだ。


ぷよ太郎 @yorikone

ノストラダムスの大予言の本を書いた人がいましたね

2019-05-25 08:56:06
押利鰤鰤 会社倒産して無職3ヶ月 @yawaren

「宇宙のスティルビア」と言いアニメでは、みずへび座ベータ星と言う、24.5光年離れた恒星が予想外に爆発して、ガンマ線バーストなどで、壊滅的な被害を人類に与えたが、182年の時間をかけ復興し、やがて来る衝撃波から人類を守る為に主人公たちが立ち向かうと言う話がありました

2019-05-25 10:27:04
押利鰤鰤 会社倒産して無職3ヶ月 @yawaren

光速を超える事は出来ないと言う話の中で、ずいぶん昔に「人の思いは光の速さを超える」と言う風に考えた。自分という心の中から一瞬で宇宙の果てを予想できるので。

2019-05-25 10:33:15

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渡辺浩弐
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