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[硲P♀]H23

全体公開 1696文字
2019-05-31 09:26:54

「えっと、私がGで……

はざませんせと飛行機乗って旅行に出かけるPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 搭乗ゲート前の列に並んで、道夫は彼女の隣に立つ。預けた手荷物の他に、空港内で買いあさったお土産の袋を慎重に抱える彼女に手を差し出して、貸しなさい、と道夫は微笑みかけた。
「女性に重たいものを持たせるわけにもいかない」
「え、でも……
 道夫はそれが、ほとんど彼女が自分で食べる為に買ったものだと知っていた。お菓子、漬物、おにぎり、サンドイッチ、ゼリーやマカロンまでこれでもかと詰め込んだお土産袋は、手荷物として預けなかったところをみると、半分くらいは機内で楽しむ目的で購入したものであることは明白だった。
「君の背丈では上の手荷物棚に届かない」
 いずれ自分が持つことになる、と合理性を主張してみたが、それでは愛想がないかと思い直して、道夫は手荷物をスマートに彼女の手から攫って言い直した。
「君の手には、重い荷物を持つ仕事ではなく、私と手を繋ぐ仕事を与えよう」
……っふふ、なんですか、それ」
「む」
 面白くなかっただろうか、と聞かれて、彼女はくすくすと笑いながら道夫を見上げた。面白いから笑っちゃいました、の笑顔は、ずしりと道夫の手に食い込んだ荷物の重みをすっと軽やかにしてくれた。
 ゲートを抜けてボーディングブリッジを渡り、二人は機内へと通される。君と二人でゆっくりしたい、と温泉旅行を持ちかけた道夫に手を引かれて、彼女はうきうき気分で軽い足取りのままそれについて歩く。泊りがけでどこかに出かけることは初めてではなかったが、飛行機に乗って遠くまで一緒に出かけるのは、付き合ってから一度も経験がなかった。手元のチケットを確認すると、奥の方みたいですよ、と道夫の手を握り、それから少し考えて彼女はその手を離した。さすがに狭い機内で手を繋いで歩くわけにもいかない、という気持ちで離された手は、指先が僅かに名残惜しそうにしていた。座席についたらまた手を繋ごう、と心に秘めて、道夫は狭い通路を進んだ。
「えっと、私がGで……
「ふむ、私はHだ」
……!?」
「うん?」
 座席の位置を確認しながら歩く彼女の一瞬の反応に、道夫は振り返り首を傾げる。どうかしただろうか、と聞きなおしてみるが、目線を逸らして別に、と言うだけで、彼女は黙り込んでしまった。
「23、ここか」
…………は、い」
 少し考えて、座席番号をもう一度確認して、道夫はそれから、ああ、と合点がいく。なるほど、とにやりと笑ってから、今度は彼女の耳元で、強調するように少しだけ口調を変えて道夫は囁いた。

「私はエッチだ」

 道夫さん!と真っ赤になった彼女の頭をぽんぽんと叩いて、道夫は上の手荷物棚に自分の荷物をしまいこむ。必要なものがあれば出しなさい、と彼女の土産袋を軽く開いて、道夫は彼女を促がした。そそくさと、いくつかの袋を取り出した彼女を窓際の席に座らせて、幾分軽くなった土産袋も棚に収納すると、道夫は彼女の隣に腰掛ける。未だに先ほどの考えすぎを気にして真っ赤になったまま窓の外を見つめる彼女の手を握って、道夫はにんまりと、彼女に囁く。
「今度は君がエッチになったか」
「もうっ!!」
 窓側の席に表示されているH23の席番号を指差して笑う道夫のからかいに、忘れてください!と彼女は抗議する。君は存外考え方がいやらしい、とくつくつ笑う道夫の手をぎゅっと握って、彼女は真っ赤になったままやり場のない感情に足をばたつかせた。
「ふむ……と、なると」
 また何かくだらないことを考えているぞ、と彼女が身構えるよりも早く、道夫は機内アナウンスに紛れて彼女の耳元で甘い声で囁いた。
「私はG(じい)ということになるが」
「はいっ!?」
「はは」
 そんな空しいことをさせるつもりはないのだろう、とアルファベットを卑猥な漢字に変換させるような言い方をして、今度こそ黙り込むしかなくなってしまった彼女の手を優しく撫でて道夫は握った。
 夜が楽しみだ、とアナウンスに従ってシートベルトを締めた道夫とからかいを乗せて、飛行機はゆっくりと、滑走路を進む。
 通路を挟んだ向こうにI(愛)を連れて、二人の旅は空に向かって始まった。


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