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【帯刀課】課外秘資料第三架四段の一:『見るなのタブー』についてのとある事例」(2)

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2019-06-06 07:59:33

登場…千々輪カタリナ、吉部永友 @hakuso_ 、白樫イスミ @mutumu 、加藤吉常 @bbqch



 2.

「『見るなのタブー』か……」
「なんですかそれ」
 山道を歩きながらふと呟いた吉常に、カタリナは周囲に気を配りながら問うた。
「鶴の恩返しや青髭、イザナギとイザナミの黄泉帰りのような、『見てはいけない』とされるものを見てしまうことによって何らかの災いが起こる物語モチーフだ」
「そういえば唯一の帰還者は『見るな』って言ってたらしいですね」
 登山道沿いにゆるやかに山頂へ向かう四人にはまだ余裕がある。今のところ空の気配はかろうじてあるかないか程度で、位置まではわからない。
「見付けたら念のため正面からは見ないようにしろ」
 吉常の言葉に、イスミとカタリナは一瞬顔を見合わせた。それから困ったように眉を下げたカタリナが口を開く。
「努力はしますけど、難しいと思います……」
「お前そういう搦め手の戦い方苦手だからなあ……吉部、フォローできるか?」
「……ああ、私がやる」
 永友の返事が少し遅れたのは山全域の探知を試みていたからだが、どうにもうまくいかないようで眉間に皺が寄ったままだった。空の気配は妙に掴み難く、どこにもいないようでいて、そこここにいるようにも感じられる。
 しばらく進むと道が別れており、四人は地図を広げた。それぞれ景色や道のりに多少の差がある程度で、要する時間はそれほど違わないだろうと思われた。
「そちらは東回り、こちらは西回りで調査しよう。……ここで落ち合うか」
 二組は合流地点を決めてからそれぞれ別の方向へ向かった。山はそこまで大きくはなく、本来であれば遭難者が出るような規模ではない。夜までには十分再合流できる広さである。
 東回りのルートへ向かったカタリナと永友の二人は鳥の声ひとつしない山道を慎重に進んだが、獣にすら出くわすこともなく合流地点へと到着した。一方西回りのルートを通ったイスミと吉常の二人も特に異常が見当たらないまま進み、合流地点でカタリナたちに頭を振ってみせた。
「……獣の気配がない以外の異常は見受けられないな」
「時間帯変えてみます?」
「夜の山狩りは危険だが……やむを得ないか」
 一度戻って態勢を整えるべく山を下り始めた四人の周囲に、「突然夜が来た」。周囲は一気に暗くなり、空気がじっとりと湿ってゆく。
「……え?」
 頭上を見上げたカタリナは、枝々の隙間から見える夜空に困惑した。
「さっきまでまだ夕方でしたよね?」
「……違う、夕方だと誤認させられていたんだ」
 永友がそう言い捨て、忌々しげに目を細める。刀の柄に手を伸ばしながら周囲を見回す捜査官二人に庇われるような配置でそれぞれ術の触媒となる札などを構える監察官二人。
 彼らの頭上からじわじわと夜が広がっていく。……正確には、隠されていた夜が露になっているだけなのだが。生ぬるい夜の空気が肌にまとわりつき、しんとした山の不気味さが際立つ。
「でも、この規模の空ならどうして気配がほとんどしなかったんでしょう」
「山全域に『広がって』いたんだろう。泉に一滴だけ毒を垂らしたようなものだ、拡散して知覚が難しくなったんだ」
「……これに惑わされてみんな食われたんだろうな」
 ぽつりと呟いた永友に、カタリナがぴくりと眉を動かした。
「まだわかりません! どこかに隠れてるかもしれないじゃないですか!」
「千々輪、気持ちはわかるけど」
 宥めようとしたイスミの手を振り払い、カタリナは金色に燃えるような目で永友を見詰めた。希望的観測などではなく、心の底から奇跡を信じている目だ。……奇跡だと思っていないのかもしれない。この状況での民間人の生存者など、奇跡でも起こらなければ期待できないというのに。
「死体はみつかってないし、実際一人は生還してる。今もどこかで怯えて震えているのかもしれない!」
「思うのは自由だ、……ちゃんと尻は持ってやる」
 指で札を弾きながら、カタリナとは対照的に落ち着いた低い声で言う永友の本心は読みづらい。カタリナはぐっと言葉を飲み込んで、それ以上は食って掛からなかった。
 その様子を見ていたイスミと吉常は、顔を見合わせると小さく頷いた。


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