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[想楽P♀]さかさま

全体公開 1866文字
2019-06-06 13:09:45

「はぁーー……格好悪いところみせなくて済んだよー」

想楽君と公園で遊ぶPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 本格的な梅雨時期を前に獲得した連休のうち、一日だけは一緒に過ごしたいと提案があったのはつい三十分前だ。ちょうど一緒に過ごしたいと思っていたと彼女が告げれば、電話の向こう、弾んだ声がすぐ行くよ、と返ってきて、五分後にはドアチャイムが鳴った。
「ど、どこいたんですか」
「すぐ近くだよー」
 彼女の家の近くにあるコンビニ袋を掲げて見せて、想楽はにんまりと笑った。どこに行くかは決めていなかったし突然の訪問だったにも関わらず、動きやすそうな軽装で玄関に現れた彼女を、想楽はじっと見つめる。
「プロデューサーさんはどうしてわかっちゃったんだろうねー」
 それは彼女も不思議だった。想楽が突然訪ねてきて、行き先も告げないことはそこまで珍しくはなかったし、最近何か気になるものがあったという記憶はなかったにせよ、なんとなく、一緒にどこかへ出かけようと言われるような気がしただけだった。
「え、っと……お天気が、よかったので……?」
「っふふ、そっかー」
 本当に何も思い当たることはなかったが、気持ちが同じだという嬉しさはじりじりと照りつける日差しの鬱陶しさを拭い去るのには十分だった。
 懐かしさに足を止めたのは、近所の公園だった。行宛てのない散歩のようにぶらぶらと歩いていた想楽は公園のベンチを指差して、彼女の手を引いた。
「少し休憩しましょー」
 ベンチに並んで腰掛けて、想楽は手にしたコンビニ袋の中から筒状の容器に入ったポテトチップスを取り出す。ぱかっ、ぺりぺりと慣れた手つきでそれを開け、おひとつどうぞー、と彼女に差し出して自分も二枚を取り出して、反りの背中を合わせた二枚を唇で咥えておどけてみせた。
……っふふふふ」
 アヒルさんだよー、とご丁寧に両手を羽のように腰の辺りに添えている想楽の機嫌は、今ちょうど木陰から漏れてくる木漏れ日のようにご機嫌なのだろう。ぐゎ、ぐゎ、とそこそこ似ている鳴き声までつけるものだから彼女はおかしくてたまらない。
「想楽さん、ちょっと……っふふふふふ、ねぇ」
 ばりばりと豪快に一気に口の中に収納して、想楽は彼女と二人で半分ほどまで食べ進める。ちょっとしょっぱいねー、と袋の中から小さなウェットティッシュを取り出して指を拭き、ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲み干してから、想楽は空を見上げた。
「夏ー、って感じの雲だなぁー……
 遊ぶ子供のいない公園、二人の上には夏色の空が広がっている。その青を縁取る白はもこもこと膨らんだ入道雲の子供のようで、もうすぐ行くから待っていて、と夏の気配は声なく二人に季節を告げた。
「ブランコー、滑り台ー」
 パキッとした色合いが少しすすけたような公園の遊具を指差して、想楽はなにやら品定めのような雰囲気で公園を見渡す。
「うーん……プロデューサーさんは鉄棒って得意だったー?」
 よいしょ、と立ち上がり彼女の手を引いて、想楽は公園の隅にあった三つの高さの鉄棒に近付いた。私はダメでした、と恥ずかしそうな彼女の手を離すと、想楽はおもむろに、一番高い鉄棒をぐっと握った。
「できるかなー……?」
 逆手に握った鉄棒にぶら下がるように勢いをつけ、想楽はタンッ、と地面を蹴り上げた。半袖から覗く腕は一瞬で力こぶを盛り上げて、ぐるん、と想楽は逆上がりをきれいに決めた。
「わ、すご……
「はぁーー……格好悪いところみせなくて済んだよー」
 重力と遠心力に遊ばれた前髪を手ぐしでざっと整えて、想楽ははにかんだように笑う。いつぶりだろうー、ともう一度逆上がりの体勢になり、想楽の腕にまた力が込められる。
「あ」
 着地をせずに逆さまになったまま、想楽は彼女をじっと見る。重力に引かれた前髪が想楽の額を露出させ、見慣れないその顔に彼女は一瞬ドキリとした。
「さかさまのプロデューサーさんも可愛いねー」
 何その感想自由すぎる!と一瞬のドキリはしばらくのバクバクを産んで、彼女は真っ赤になって目線を逸らす。よっ、と回転して着地した想楽は硬直したままの彼女に近付いてちらりと辺りを確認してから、頬に軽く唇を押し当てた。
「さかさまも可愛かったけど」
 一歩下がってニッと笑って、想楽は満足気に彼女に言った。
「いつものプロデューサーさんが一番可愛いかもー」
 頭から陽炎でも立ちそうなほどに真っ赤になった彼女の手を引いてまた、想楽はベンチに座る。運動の後は水分補給ー、とお茶をゴクゴクと飲み干した想楽の笑顔と彼女の気恥ずかしさを溶かすように、陽光は容赦なく、初夏を降らせていた。


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