@mary_hitman
「眠いなら寝ればいいのに」
日付変わって数時間。俯せで舟を漕ぐ男を見兼ねた月が、そっと魅上の肩を押す。すると、何の抵抗もなく、相手はそのままごろんと仰向けになる。あまりの呆気なさに一体どんな顔をしているのかと顔を見れば、何のことはない、魅上の目蓋はすっかり開くことをやめていた。
「かみ……、まだ……わたしは、」
むにゃむにゃと不明瞭なうわごとが、眠りの淵に囚われた男の口からこぼれる。これでは幼子が必死に眠気に抗うのと全く同じだ。呆れた様子の月から自然と笑みがもれる。
「確かにどうやっても今日は過ぎてしまうけど、そんな状態で過ごしても寝不足になるだけで、全然意味がないだろ」
優しく髪を撫でられ、魅上がうっとりと全ての抵抗をやめる。少しでも長く今日という日を噛み締めていたいという慎ましやかな願いを、その優しい手で奪い取ってやることで安らかな眠りが与えられる。
「おやすみ、照」
慈しむように口づけを落とす。
「目が覚めたら、ちゃんと沢山祝ってやるよ」
手料理にケーキ、たったひとつのプレゼント、そして正面には愛しい人が穏やかに微笑んでいる。男の見るそんなささやかな夢は、日が沈む頃には恐らく現実となるだろう。
けれど、幸せそうに眠る男にはそれを知る由もなかった。