@mary_hitman
このまま手ぶらで帰ってしまっても良いものだろうか。家路を急いでいたはずの男にそんな疑問が沸き起こる。
今日は自分の誕生日なのだから、黙って祝われてもいいはずだ。そうは思いつつも、家で自分の為に様々な用意をしているその人のことを考えると、何かしないではいられない。
「家にないものは……、」
料理は用意されている。ケーキは勿論、花も飾ってあるに違いない。酒類も悪くはないが、二人ともあまり飲む方ではない。
どうしたものかと思いあぐね、立ち止まる男の視界に煌々と輝くガラス張りの店舗が入り込む。
「コンビニ……、そうか」
良い考えがひらめいたとばかりに魅上の顔が明るくなる。
そう頻繁に利用することはないが、商品の種類ならある程度は把握している。魅上は店内に足を踏み入れると、一直線にアイスのショーケースへと歩みを進めた。
カップの物を二つ見繕い、そのままレジに向かう。その様子を家で待つその人が見ていたなら、きっと声を上げて笑っただろう。余計なものには目もくれない男の買い物は、あまりにも業務的に見えた。
店を出てからは、先程よりもさらに家路を急いだ。溶けてしまってはどうしようもない。それは逸る心を抑える理由を奪い去ってくれる言い訳でもあった。
帰りたい。その気持ちに自然と歩調が速くなる。いっそ走ってしまっても良いのではないか。呼吸などはエレベーターの中で整えてしまえば何とでもなる。
頭の中で無意味な見栄を張る。その人との生活が始まってから、彼の毎日はこんなことの繰り返しだった。
そういう点では不自由になったとも言えなくはない。一人で生きていた頃と比べれば、余計な行動ばかりをしている自覚があった。しかし魅上はその不自由を愛していた。
幸せな想像で頭の中を満たして歩くうちに、くだらない見栄など忘れて自然と駆け足になる。
この幸福がいつまでも続いてほしいと、願わない夜はなかった。