@875108Express_
【某国にて】
「……それで?小娘は今何をしてる。……ほう、小賢しい真似を…。あの小僧はどうしてる?……いつもとかわらない、か…。まぁいい。あの小娘はどのみち俺には逆らえない。俺がそちらにいくまで、しばらく観察を頼む。それでは」
―――プツンッ。
電話を終えると、男は羽織を被って空を見上げた。ニヤリと笑うと、男はポケットから一枚のチケットを取り出して、それを眺めた。
【ブーケエクスプレス 】
怤藍が突然この列車に乗り込んできて、数日後の朝。ゴトンゴトンと列車が揺れる中、ふと、潮の香りがしたような気がした。
まずはカーテンでも開けて、朝日でも浴びよう。そう思って搭乗人物達は、各々の自室のカーテンを開けた。
カーテンを開けると、朝日に照らされてきらきらと輝く、水平線が窓越しに広がっていた。
それを眺めていると、自室の扉を軽くノックする音が聞こえた。ノックする音は隣の部屋からも聞こえ、さらにその隣の部屋からも聞こえた。
ドアを開けてみると、怤藍が各部屋のドアをノックして回っている姿が見えた。やがて全ての部屋のドアをノックし終えた怤藍は、そのまま流れるように食堂車へと駆け足で向かっていった。
怤藍についていくようにして、搭乗人物達がぞろぞろと食堂車へと入っていった。それをみた怤藍は、満足げにリズットを呼ぶ。リズットは、錆びたランタンとモーニングプレートをのせたワゴンを押してやって来た。今日のモーニングプレートは、トーストとサラダ、スクランブルエッグとコンソメスープのようだ。
リズットがてきぱきと配膳をしはじめると、怤藍が「皆おはよう!」と話を切り出してきた。
「ねぇ皆、もう外の景色はみた?すっごく綺麗な海!海だよ!」
イヴァン「凍らない海……」
希更「見た見た!ちょー綺麗だよね!!テンションアガる!!(きゃっきゃしながら)」
🍎「見たよ~すごく綺麗だった」
🐤『ナツカシイカオリガスルワ』
かちゃんっと、珈琲や紅茶が入ったティーカップが各々のテーブルに置かれる。
周「もやし以外の朝飯とか何年ぶりだろう……こんなおいしい飯いつまで食えるかわかんないですし…食える時に食っとかないと………」(めっちゃ食う)(すげえ食う)
「でしょでしょー?!次の駅はね~、海に囲まれた港町にあるの!新鮮なお魚が美味しいとこって聞いたよ!ねっ、リズットくん!」
周「海…」
希更「お魚!!!(嬉しそう)」
🍎「さかなさかなさかな~さかなーをー食べーるとー」
パピヨン「海…?」
カトラリーを配布しながら、リズットが「そのようですね」とだけ答えた。
「リズットくんリズットくん!次の駅の案内だけしてくれる?」
「…かしこまりました」
リズットは配膳する手を止めた。
「次の駅は『サテライナ駅』になります。皆様が朝食を召し上がられた後に、当列車はそこに到着する予定でございます。今回も下車なさる際は【ランタン】と【必要最低限のお荷物】を持っていってくださいませ」
配膳を終えたリズットは、一礼して食堂車を去ろうとした。
が、怤藍が彼の腕をガッと掴んでそれを阻止した。
「……なんですか」
リズットが問うと、怤藍が微妙に悪ぶった笑みを浮かべる。
「ふっふっふ……。リズットくん、今回はあなたにも『ひとはしゃぎ』してもらうよ」
「は、はぁ……?」
リズットが怤藍に、軽蔑の眼差しに似た何かを向けると、怤藍はポケットから一枚のチラシを取り出した。
チラシには『ランチ会のお知らせ』と書いてあった。
「皆…ここのご飯はリズットくんが作ってくれてるけど、たまにはわいわいしながら、皆で作ってみたくない…?」
🍎「うーん、ご飯つくるのかぁ」
🐤『ムシロワイラハザイリョウ二サレル……』
🍎「私は人間だから!!名前だけだから!!!」
イヴァン「やみなべってやつか……?(おめめキラキラ)」
マハト「おじさんの腕振るう時が来たかい?」
怤藍の提案に、身を乗り出したり、首を傾げたりする搭乗人物達。
「そんな難しいこともしないし、皆で簡単なお昼ご飯をつくるだけだよ!楽しくご飯を食べよう!ってことで!サテライナ駅で『ランチ会』という名前のパーティーをやりたいと思いまーーす!!!」
チラシを放り投げると、怤藍がドヤ顔でトーストをかじった。
勢いでかじったのか、またしても喉につまらせそうになった。
🐤『イエーイ!!』
🍎「ドンドンパフパフ」
杏助「やだ、中華料理頑張っちゃう時が来たかな?」
希更「おおー!楽しみ!!」
怤藍がコンソメスープでトーストを流し込むと、落ちたチラシをリズットが拾って眺めた。じっとながめていると、リズットが怪訝そうな顔をした。
「……守崎様」
「はーい?」
「……なんですかこの『ロシアンおにぎり』という、食べ物への冒涜丸だしの三流ワードは」
リズットに問われて、怤藍はそっと目をそらした。微妙に嫌な予感がよぎった搭乗人物達も、恐らく数人はいただろう。
「あと…何ですか?この串刺しにされた、茶色くて丸い群れは」
そう言ってリズットが指さしたのは、たこ焼きのイラストである。
「それはたこ焼きだね!天かすとねぎとたこを、卵と小麦粉で作った生地に入れて焼く、丸い食べ物だよ!上にはソースとかマヨネーズとかいろいろかけるんだよ!ランチ会では、おにぎりとたこ焼きをつくるの!」
怤藍が説明すると、リズットは頭を抱えた。
「……この列車に、そんな材料はありませんが?」
その一言に怤藍は。
「……へ?」と、間抜けな声を出した。
____
「ってことでお願い皆!たこ焼きの材料、買ってきて!!」
サテライナ駅に到着するやいな、両手をあわせて怤藍が搭乗人物達に頼み込んだ。
「おにぎりの材料調達はあたしがする!だからたこ焼きの材料を、この辺で買ってきて欲しいの!多分いろいろ売ってるとは思う!」
面々に頼み込む怤藍をみて、リズットが呆れ顔でため息をついた。
希更「いいよ!あたしちゃんに任せてよ!」
🍎「まかセロリ」
🐤『マカセロリ』
「ありがとう!!買ってきて欲しいものはメイズさんに伝えておくから!何を買うかわからなくなったら、ランタンをつけてメイズさんにきいてね!」
あまりにもお粗末な頼み方であったが、それだけ伝えると怤藍も紺色のランタンを片手に列車から降りていった。そしてそのまま、改札をぬけて何処かへと走っていった。
「申し訳ございません。守崎様の、勝手な頼みに付き合わせてしまって」
リズットが深々と頭を下げた。
🍎「何でリズット君が謝るのかな?さすがハイスペック仕事芸人」
「とにかく、彼女のことであれやこれや言うのは後にします。正午までに、材料を購入して頂けると助かります。購入が終わりましたら、広場までお集まりください。パーティーとやらはそこで行うそうです」
杏助「ここってタコ売ってるのかな?」
「必要な食材は、この駅周辺の店で購入できます。なので、その辺りの心配は必要ないです」
🍎「広場だね~、了解!」
🐤『ガンバッテソザイアツメヤ!』
🍎「アヒルチャン、それゲームだから」
「わたくしはパーティーの準備をするために、備品の調達をして参ります。それでは、よろしくお願いします」
リズットもそう言って列車から降りると、改札をぬけた。
ふと、面々のランタンが一斉に明かりを灯した。
『すまないね皆。まぁ、滅多にない体験だと思って、付き合ってやって欲しい。わからないことがあれば、私が手を貸そう』
メイズがそういうと、ランタンの明かりは静かに消えた。
正午までのタイムリミットは五時間。果たして、パーティーは無事に開催できるのか―――