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[次郎P♀]紫陽花パフェ

全体公開 1708文字
2019-06-13 12:35:02

「あれ、おじさんの言うこと信じられない?」

キラキラきれいな紫陽花パフェを作るじろちゃんとPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 混ぜて色の変化を楽しむ知育菓子の例を出して、次郎はムラサキキャベツを千切りにする。あれとおんなじ、と手元をじっと見守る隣の彼女は次郎に指示されたとおり生クリームを泡立てている。
「ブルーベリーなんかにもさ、含まれてるの」
 アントシアニンという言葉には聞き覚えがあった。紫陽花にもあるからねぇ、と刻んだキャベツをぐらぐらと沸騰した鍋に豪快に入れて、次郎は手際よくざるを取り出した。片手鍋にそのざるを乗せ、次郎は鍋を覗き込む。
「これだけでも指示薬になるのよ」
 鍋の中は徐々に鮮やかな紫色が広がって、そろそろかねぇ、と火を止めて、次郎は片手鍋の上のざるに鍋の中身を一気に移し変える。もうもうと湯気の立つキッチンで、キャベツと液体とがきれいに分かれて、これはあとで酢の物にでもしようか、とざるを避け、澄んだ紫の液体にふやかしたゼラチンを溶かして混ぜて、次郎は彼女の手元を覗き込んだ。
「おっ、そっちもいい感じだね。じゃあはい、これ。そっちにもゼラチン入れちゃおっか」
「はーい」
 滑らかな生クリームにゼラチンを混ぜ、言われたとおりに彼女はそれを二つのボウルに分ける。これもアントシアニンだ、と呟く彼女の頭を優しく撫でて、次郎は手渡したブルーベリージャムを片方のボウルへと混ぜ入れた。
「そーそ、じゃあアントシアニンの方をグラスに入れて、冷蔵庫に入れちゃって」
 茶化すような次郎の言い方にくすくす笑って、彼女はグラスにパステルパープルをそっと流し入れる。上手上手、と彼女を褒めながら、次郎はゼラチンを溶かした紫色を三つのバットに均等に分ける。
「これが、ほんとに紫陽花になるんですか?」
「あれ、おじさんの言うこと信じられない?」
 今日のおやつは紫陽花にしようか、とキッチンに誘われた彼女は、半信半疑で調理を手伝っていた。確かにこの紫色は紫陽花の色と似ているが、ただのゼリーが紫陽花になるかと聞かれると、それは少しだけ疑問だった。そういうわけじゃないですけど、と次郎の手元をじっと見つめる彼女の熱い視線を受けて、次郎の手はカットしたレモンを一つのバットにぎゅっと絞った。
「レモンは酸性だから、混ぜると」
「わ、ピンクだ……!」
 きれいでしょ、と自慢げな顔をして、次郎はほんのりピンク色になったバットの中身をよく混ぜて、これもお願いと彼女にそれを手渡した。そっとそれを冷蔵庫に運んだ彼女はすぐまた次郎の隣に並び、次郎は今度は重曹をほんのひとつまみ、バットに混ぜる。
「今度はアルカリ性だから、青くなるのよ」
「うわぁ……!」
 ぱっと鮮やかな青色が広がるバットを冷蔵庫にしまって、次郎は残りのバットには何も入れずにまた、冷蔵庫で冷やした。
「よし、冷やしてる間に洗っちゃおっか」
 鼻歌交じりのキッチンで、二人は仲良く洗い物を済ませる。そろそろかねぇ、と次郎はゼリーを取り出した。
「あ、白い方グラスに入れといて」
「はーい、ふふふ……
「何、どしたの?」
「んーん……私、なんか次郎さんとキッチンに立つの好きだな、って」
……そ」
 俺も、と彼女の頬に唇を触れさせて、次郎はしっかり固まったゼリーをひっくり返してまな板に取り出す。
「これがねぇ、紫陽花になるのよ」
「?」
 包丁でざくざくとカットして、次郎はそれをダイス状に崩す。あ、もしかして、と彼女が閃いたのと、二層に分かれたグラスにそれらを盛り付けるのとはほぼ同時だった。
「青と紫とピンク、きれいでしょ?」
「ほ、ほんとに紫陽花になったー!」
 グラスの上にキラキラと、四角いゼリーの紫陽花が咲く。歓喜の声を上げて次郎に抱きつく彼女に頬をすり寄せて、次郎はへらっと笑った。
「お、っと……たはは、今日は随分積極的だねぇ」
「だって、だってあれ! すごくキレイ!」
 食べるのもったいない、とはしゃぐ彼女を抱きしめて、次郎は窓の外を見る。しとしとと降る雨は憂鬱ながらも、雨露に濡れた紫陽花は瑞々しくて風流だ。
 紫陽花パフェは二つ、冷蔵庫で冷やされて、日常にその風流を添えてくれる。張り切るのも悪くないか、と次郎はしばらく、彼女を抱きしめていた。


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