ソーが話す実話怪談めいたもの
@syuu_29
ふうん。それならおれがとっておきを聞かせてやる。これは特別。お前にはずっと隠してた。
まあ、お前もちょっと覚えているかもしれないが――。
それはためらいがちな小さなノックからはじまった。
真夜中に扉を叩かれることなんて滅多にない。というか初めてのことだった。でもおれには誰なのかわかっていた。だから予想が当たって満足なのが顔に出ないように、おれなりに心を砕いてやりながら寝台を抜け出した。
もちろん予想通り、扉をたたいたのは弟だった。だがにやつくのをこらえると、まるでなんて言ったらいいのかわからなくて……黙っていると、弟がためらいがちに入っていいのかを聞いた。だめなわけはない。弟のために開けておいた毛布のスペースに、おれは予定どおり弟を誘った。
手を引けば弟はひんやりと冷たかった。驚いて毛布を羽織る肩を掴むと、毛布も冷たい。
「冷えてる。ノックするの、しばらく迷ってたのか?」
「……べつに、そういうんじゃないよ」
それに、私がつめたいんじゃなくて、兄上が熱いだけ。言い訳がましく弟は言った。
弟の手はいつも少しだけ冷たいが、その時はいつにも増して冷たいような気がした。でもはねのけられて言い返すべき言葉はやっぱりおれには思いあたらなかった。だからとりあえず毛布ごとぎゅっと抱きしめて「もう大丈夫だぞ、おれがいるからな」と言ってやった。弟は小さく笑った。「ご親切に」と、まあちょっと嫌みっぽかったが。
しかし二人して重ねた毛布に潜り込んだところですぐに眠れはしない。だからでたらめな話を作ってお互いの眠気が来るのを待った。
でたらめな話。うん、作り話だ。昼間にやったような。
その日の昼間にやったらなんでか怖い話になってな。だから夜になって一人で眠れず、弟はおれの部屋までやってきたわけだが――なにしろ、みっしり積まれた古い本や地図の匂いに満ちたロキの部屋は、本が日に焼けるのを防ぐように西側の窓はずっと雨戸を閉めている。窓も本棚も部屋を圧迫するようで、夜はどうも暗い。
でもそこはおれの部屋だし、おれもいる。 部屋も明るい。問題ないだろ?
で、話の続きを催促する弟の疑問に答える形で、おれは物語を作っていった。でも昼のときみたいに、なんでか話の方向がおかしくなってきたのに気づいた。
そしてふと、何の音も聞こえない事にも。
もちろん、静まりかえることはある。夜だからな。けれどまるで何者かが片っ端から音を食べてしまったみたいに静かだ。木々のざわめき、ミミズクの声もしない。
「兄上」と不安な声にはっとした。気持ちはよくわかる。だがおれは兄なので一緒に不安がってはいられない。それに既に大丈夫だとも言ってしまったからな。後には引けない。おれは隣で寝転ぶ弟の顔を見た。
「気のせいだ」
それから毛布を引っ張り、弟の頭をまるごと隠した。弟はたしか笑ったと思う。いや、笑ってたよ。くすぐったがるようなその笑い声に、おれは気が緩んで……それから、すぐに眠ってしまったんだ。
翌朝目覚めると、いつの間にか弟はいなくなっていた。まあ、毛布は残っていたから早起きでもしたのかと弟の部屋を覗けば――寝床ですやすや眠るお前がいてな。覚えてるか?
本を抱えて眠るお前にいつ戻ったと聞けば、お前はちっとも何の話だかわからない様子で、あくび混じりに「一度も起きてない」と答えたよな。
――ではおれが招き入れた弟は?
まあまて。話は終わりじゃないぞ。
お前に「夢でも見てたんだろ」と言われて部屋に戻っただろ?それで戻ったら――シーツには見たこともない羽根がたっぷり積もってた。残ってたはずのお前の毛布の代わりに。
母上に聞いたが、何の羽根だかはわからなかった。いろんな鳥の羽根と比べても、これといって断定しきれなくてな。
で、終わりだ。ようやくな。これ以上に話すことはないが……どうだ? 冷や汗なんてかいてないか?なに?その羽根はどうしたか?
ああ、それなら今お前が座ってるクッションに詰めてある。
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友達と出しあってる6月のお題から「冷汗なんてかいたことないと主張されたので」で書いたよ。
梅雨で暗くなってきたのでこの方向にしてみた。
おそまつさまでした!