@takonsm
万夢喰片はガイアの現代社会を生き抜く青年であり、機械の製作の業者として働いている。
しかし、彼は大多数の人間から『無能』『クズ』など評される男であり、
遂にはそれが正当な評価であるかのように仕事を失業することになってしまう。
だから彼は化物になりたかった。
どうやら世間では化物的な技術者、化物的な努力家など、化物という言葉は『優れている』という意味を持つらしい。
そういう意味では万夢喰片は化物になりたかった。理由は自分が『優れていない』からだ。
そんな彼はジバングのとある国に星1として召喚された。
最初は世界観に面食らったが、本質は結局はガイアと変わらないことに気が付いた。
"人の価値を格付けで決める"。ガイアでも劣った人物を煽り通し、優れた人物に媚を売る。
ジバングでは、星という表現を持ってそれが顕著に表現されているだけだ。
だからこそ、星1である彼自身は奴隷将等と蔑まれる。
……もし格付けがなければ、彼は誰にも煽られ、蔑まれることはないのだろうか?
そういう訳でもないだろう。本人の努力も重要だ。
もし、格付けを失くしてくれる方法と努力を同時に出来るのならば?
最高だ。
だから彼は淡海清十郎に懐いた。彼が格付けを失くしてくれると言ってくれたから、それを助けると決めた。
それはただ清十郎の約束の為に。
万夢喰片は地軍武将棟の休憩室の畳に座り、黙々と本を読んでいた。
その本は所謂戦術本だ。戦術についての基礎が詳細に記されている。
「……(分からん)」
彼は決して賢い方ではない。だから小難しい本を読んだ所で理解はできなかった。
それでも本を読み込む。読み込めば読み込むほど、頭が痛くなる。眼を細める。難しい表情をする。
「……(どういうことだ? 何でこれがこうなったら、こうなるんだ? ううーん、ちっとも分からないぞ!)」
彼は知らなかった。このような無意味にも見える行動の積み重ねが努力と評されるということを。
彼は気付いていなかった。このような無意味にも見える行動の積み重ねによって、自身が成長していくことを。
それはただ清十郎の約束の為に。
「……貴方はそうやって、星1なりに努力をしてきた。必死に喰らいついて来た。そしたら少しずつ皆が貴方を認めてくれた」
晴天の空は眩い光だけを照らし、路地で女は語る。それに対面するのは万夢喰片。
「さぞ嬉しかったでしょうね。ガイアでは誰も認めてくれなかったのに、努力して、頑張って、そしたら相応の評価を得られたんだから」
「何が言いたい?」
「何で努力したの?」
「清十郎の約束の為に」
くすくすと女は笑う。
「違う違う。貴方の努力してきた理由は、全て自分の為に。底辺である貴方は清十郎の横に立ちたくて仕方がないの」
同じように男は笑う。
「強くなければ、守り、助けるって約束を果たせないのでな。俺が無能では共に並ぶ清十郎の価値も下がると思った故に」
「それはつまり、清十郎の横にいれば自分が偉くなれると思ったのね」
「……だから、それは、つまり」
「貴方は清十郎の横に並んでいるつもりだけど、清十郎はそうは思ってないし、実は貴方もそう思っていない。貴方は今も底辺のまま」
「‥…違う!!」
彼自身の意識がぼんやりと薄くなっていくのが分かる。素面ならいくらでも反論は出来る。
しかし、女の言葉に耳を傾けてしまう。聞きたくない言葉のはずなのに。
「……貴方は、ただ化物になりたかった。誰かに認められたかった。羨望の目で見られたかった。
だから私が連れて行ってあげる。貴方が認められる世界に。貴方が化物になれる世界に」
男は拳を真っ直ぐと突き出す。
「俺は、清十郎と一緒に行く」
「おやすみなさい。万夢喰片」
――清十郎。俺は、馬鹿だ。素直に化物みたいに凄いお前に憧れているって言えば良かった。
俺は、お前みたいに、評価されたかっただけなんだ。
お前の隣にいれば、皆評価してくれると思っただけなんだ。
俺は、底辺なんかじゃないって、実感が欲しかっただけなんだ。
俺は、化物だって、実感が欲しかっただけなんだ。
ごめんな。
だけど清十郎。
何時の日か、俺が、必ず―――