@H_i_c_H_a
◆◆◆
――海が、沈んでいく。
世界が欠けていく。少しずつ、少しずつ、欠片となって、藻屑となって、ただの電子へ還っていく。
……生きて帰ったとして、めめめコレちゃんと治せるのかなぁ……
そんな事が頭をよぎる。ううん、いいや。考えてる余裕なんかないだろうし。
ちゃんと12人で、生きて帰るとこから始めないとね。
◇
兵姫・P40と完全に同期したピノちゃんの前にいろはが立ちはだかる。
兵姫・大和と完全に同期したイオリンの前にすずちゃんが立ちはだかる。
…でも…あの目は……まさか。
「すずちゃん、もしかして……正気、なの?」
「…そうですよ。私はイオリさん達みたいになってない。私はまだ、神楽すずです。
全部知ってます。めめめさんとちえりさんがしようとしていること。
ピノさんが、イオリさんがしてきたこと。しようとしていること。
私の大好きなアイドル部の皆さんのこと、知らないわけないじゃないですか。」
「だったら…」
「その上で!"イオリさんのそば(こちらがわ)"に立っているんですよ私は!!それが悪でも!
この状況をイオリさんは本当は望んでないとしても!!私は…こうすることを選んだんです!!」

咆哮が響く。本当に、よく通る声だなぁ。
「さぁ…殺し合いましょう、めめめさん!ちえりさん!」
「…………ッ!」
あぁ、完全に覚悟完了の目だ。これはもうやるしかない。
そう思いつつ、いろはにも問う。
「……いろはも、なの?」
「……うん。ピノちゃんと約束したからね。
でもいろはは、2人が勝って良い感じ?にしてくれるならそれでも…」
「いろはさん」
すずちゃんが阻む。
「手心を加えるつもりなら――――」
「しないよ。」
それにいろはは、満面の笑みで力強く答えた。あぁ、こっちも説得できないやつだな。
「出来るわけないし。だってちえりちゃんにめめめだよ?
……金剛いろはがこんなに全力を出せる子、他に居ないっしょ!!」
◇
うーん、困った。まさか4人中2人も正気だったとは。
戦艦2、戦車1、殺意満々の重巡1。内2人に思考能力アリ。
これは命乞いをしたほうがいいのでは?
せめてめめめ1人逃げ回るだけならともかく、ちえりちゃんを守りながらは流石に……
……ん?あ、なんだ、そうじゃん。
「ちえりちゃんちえりちゃん、めめめ閃いちゃったわ。」
ちえりちゃんの耳を寄せ、作戦を伝える。
「…!?だ、だめだよそんなの、そんなのっ!」
案の定即否定される。うん、ちえりちゃんは優しいなぁ。
でもね、ちえりちゃんがその優しさをぶつける相手はもう決まってるんだよ。
「大丈夫だって。めめめスターみたいなとこあるからさ。」
「……」
「……ピノちゃんと決着、つけるんでしょ。」
「…………ん。」
ちえりちゃんが駆け出す。後は任せたよ…ってね。
さーて、やりおるマトンの本気、出しちゃおっかな~!
◆◆◆
ちえりさんが駆け出した。作戦会議は終わったのだろうか。
向かう先には…ピノさん。そうですよね。ちえりさんはそうします。
そのために、ボロボロになってここまで来たんですもんね。
「ちえりさんが動きました。手筈通り、私とイオリさんでめめめさんの相手をします。
いろはさんはちえりさんを……」
「ごめんすずちゃん、その作戦やっぱナシだわ!」
「なっ…!?いろはさん、やっぱりっ…」
「そうじゃない。」
急に裏切られたような返事をされ動揺した私をすぐに制す。いろはさんは真剣だ。
私はその台詞の意味するところを考える――考えるよりも、めめめさんは早かった。
光。
電子の光が空を走る。
光。
電子の光が海を抜ける。
光、光、光。
それは線となり、壁となり、瞬く間に私達を覆っていく。
更に、轟音。とんでもない量の水がぶつかり合う、激しい音が鳴り響く。
これはつまり――
「よーっし!これでオッケーかな!」
海がぽっかり半球状にくり抜かれて、宙に浮いている。
その下では突然のクレーターを埋めるために海水が荒く蠢いている。
そこに立っているのは…ピノさんと、ちえりさん。
「いや~やってくれたな~めめめぇ~!」
「これが一番良いと思うんだよね~!」
私の焦燥をよそに2人は暢気に会話している。
「…私の正気を疑っておいて、人のこと言えないですよめめめさん…私達3人と、1人でやる気ですか?
ちえりさんのほうも、今のピノさんと1対1で…」
そう問いかける私に返ってきたのは、まっすぐな信頼だった。
「ちえりちゃんは大丈夫だよ。ちえりちゃんは強いから。すっごくね。」
そしてめめめさんは、不敵に笑う。
「それにさ、みんな忘れてるかもなんだけどさ~、
めめめ、電子が生まれた時からずーっと存在してる超ベテランなんだよね。
……兵姫がたかが3人集まったくらいで、めめめを止められると思うなよ!!!」
◆◆◆
「ここまできたよ、ぴのちゃん。」
「ぴのちゃんには、ちえりのことはもう視えてないのかな。」
「ちえりの声は、まだ届いてるのかな。」
「…ちえりにはね、ずっとずっと、ぴのちゃんの声が聞こえてるよ。」
「…ちえりの目にはずぅっとぴのちゃんが映ってるよ。」
――コード、歩行戦車バレンタイン。私は、ななしの兵姫。
「ちえりは普通のコだから。」
「借り物のこの武器も、まだ重たいけど。」
「使いこなしてみせるから。」
「もう、弱音は吐かないって決めたから。」
「ちえりも、ぴのちゃんのこと守れるくらい、強くなったから。」
――ぴのちゃん、この戦いが終わったら、またちえりに笑ってくれる?
「……一緒に帰ろう、ぴのちゃん。」
