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【帯刀課】課外秘資料第三架四段の一:『見るなのタブー』についてのとある事例」(3)(完結)

@sin_niya_b
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2019-06-22 13:08:34

登場…千々輪カタリナ、吉部永友 @hakuso_ 、白樫イスミ @mutumu 、加藤吉常 @bbqch





 3.

 広がりきった夜が山を支配した。空の気配はまだ遠いが、当初よりははっきりしており、方向もわかる。吉常が片手で合図をし、カタリナが先行する。最後尾はイスミが持ち、挟まれる位置に監察官たち。
 ……イスミ・吉常はカタリナと永友がまた対立しないようフォローするつもりではいたが、今のところ二人とも冷静なように見えた。切り替えが早いたちなのが幸いしたのだろう。
 少しずつ空の気配が近付くにつれ四人の足取りは慎重になり、進む速度は落ちる。そして、肌の一点が針で刺されるような感覚──これはカタリナの感じ方であり、個人差がある──をおぼえて足を止めた。
 前方、数メートル先に揺れる影。念のため真正面からは見ないようにしながら確認したそれは禍々しく、ゆっくり前後に揺れながら移動していた。まだこちらには気付いていないようだ。
 カタリナが吉常を確認すると軽く頷かれる。それから永友に目配せし、ゆっくりと距離を詰めてゆく。
 近付くにつれはっきりしてくる空の姿は、二足歩行ではあるものの人間とは違い、手が妙に長く地面に引きずりながら歩いていた。ちらりと永友の方を見たカタリナは、少し怪訝そうな顔をする。
 顔色が悪いように見えた。
 カタリナの視線に気付いた永友は、大丈夫だとでも言うように頭を振る。カタリナが刀を握って空の方へ目配せすると、頷いて札を構える。
 次の瞬間、カタリナが飛び出す。ざ、ざ、と茂みを踏み分けながら一気に空へと肉薄し刀を振るおうとしたそのとき、「真正面から空の顔を見た」。
 ぐら、と目眩がする。空の姿がぐにゃりと歪み、形を変える。二足から四足へ、巨大な狼に似たそのフォルムにカタリナは見覚えがあった。あの時見た恐ろしいものそのものの姿だ。頭がひどく痛む。「何か」を食い散らかしていた、違う、あれは……。
「千々輪!」
 呼び掛けに我に返ったカタリナの目の前に小柄な影が割って入り、空へ斬りかかって間合いを切り開く。
「なにやってる、こんな小型相手に!」
 ──小型? これは大型とまではいかないが、中型クラスに見える。
 困惑するカタリナの視界で、巨大な狼と切り結ぶイスミ。急いでフォローに入ったカタリナであったが、その動きに精彩は無い。何故か間合いがうまくはかれない。目測よりも手応えが浅かったり、逆に入りすぎたり。そのカタリナを支援する永友もどこか様子がおかしく、それらを見ていた吉常がぐっと眉を寄せると声を張り上げた。
「カタリナ、吉部! お前たち何を見ている! 『見るな』!」
 ひゅ、とカタリナの喉が鳴る。一旦空から距離を取り、思い切って目を閉じる。あれだけ巨大に感じられていた気配が、す、と小さくなるのを感じた。それからゆっくり目を開け、正面から見ないように注意しながら空の方を窺う。……二足歩行の、人間大の影。気付きを得てしまえば簡単なことで、つまりあれは、「見た者が恐ろしいと思っているもの」の姿を借りる空なのだろう。
「すみません、大丈夫です!」
 その後方で永友も立て直したらしく、戦線復帰したカタリナに自分の不利を悟ったのか空が跳躍し木の枝へと飛び移った。逃げるつもりだろう。イスミが舌打ちをする。
 その時、カタリナが空の方向へ駆け出してから振り向いてイスミの方に体を向け、腰を落とし、両手を前で揃え指を組んだ。……丁度バレーボールのレシーブの際の姿勢に似ている。
「イスミさん!」
 その意図をすぐに理解したイスミは迷わず駆け出し、カタリナの手に足を乗せ、その手を振り上げる勢いに合わせて跳躍した。その先にあった木の枝でもう一度踏み切り、空へと一気に距離を詰め体当たりするように刀で核を貫く。金切り声のような、笛の音のようなものを響き渡らせながら空の姿は霧散し、イスミは体勢を崩したまま落下する。
 その落下するコースに何枚かの小結界が浮かび、突き破りながら落ちることで勢いを殺し着地したイスミの元へ、カタリナが駆け寄った。
「大丈夫ですか」
「ああ。そっちの手は?」
「平気です」
 立ち上がり、スーツの汚れを払い落とすイスミに怪我をしている様子はない。
 ──逃がさず倒しきるべき状況だったし、体格的に踏み台は自分で跳ぶのはイスミであるべきだったし、着地のフォローは監察官二人がしてくれる。
 その発想はカタリナにとってはまったく無理のないもので、実際イスミもすぐその意図を理解して乗ったわけだが、この二人に比べれば比較的慎重派である監察官たちがどう判断するかについてはまた別の問題である。はたと気付いて振り返ったカタリナは、少しだけ眉を下げた。


 ……その後、山から空の気配が完全に消えたことを確認して、帯刀課の仕事は終わる。帰還してから数日後、行方不明者が全員死体で発見されたというニュースが流れることとなり、そのニュースにそれぞれ思うところはあるだろうが悼む暇は無い。
 また別の場所で空が人間を食らい、帯刀課が出動する。悲劇はやまず、それでも彼らは戦い続けるしかないのだ。


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新矢 晋@企画用
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