@corona_moca1111
帰ってきて。
ドアの鍵を閉めた。
荷物を投げたら壁にぶつかって全てがこぼれ落ちた。
はぁ、と一息。
かき集めて鞄に入れようとして途中でよろめいた。
つんのめって壁に手をついた。
滑りやすいからだ、と靴下をほおり投げた。
カゴに届かずに落ちた。
這うようにして布団にすすんだ。
蛍光灯が眩しい。
空気を見たら誇りが妖精の粉みたいだった。
すごく綺麗だ。
指を伸ばしたら避けるようにしてまってしまった。
影になったところにそれは無かった。
「……」
1人の部屋だ。何もない。
部屋の隅に転がっているぬいぐるみを引っ掴んで上に乗っける。
そこそこに大きいくまだ。
おかあさんが、くれた、くまだ。
触れると柔らかくて暖かくていい匂いがする。
「……おかあさん」
声に出したら余計悲しくなってきてしまった。
丸まっても全然マシにならない。
今日もたくさんのガラスを割った。
今日もたくさんの細胞を殺した。
今日もたくさんの人にため息をつかせた。
今日もたくさんの数字を赤にした。
……おかあさん。
心臓がずっとなりっぱなしで息ができない。ぎゅっと抱きしめても布と綿は何もくれない。
眼鏡がズレて世界がボケて見えるのか僕がおかしくなってるのかすらも分からない。あ、僕は元からおかしいのか。そうだったっけな。
前髪が落ちてきて僕の上に赤い線が引かれた。
赤い線は訂正箇所に引かれるんだ。どんな文であれ、データであれ。
出来損ないは
近くに棚があってその上にはいつものあれがあった。確かに他にもやり方はあるけど僕はなんとなくそれを選んだ。僕になら降ってきても大丈夫だけど一応棚の上に置いていた。なにより、足の裏とか手のひらとかは切りたくなかったから。
カチッ、カチッ、と無機質な音がして刃が光る。
なんだか何がどうだったかよくわかんなくなってきてしまった。
まあ、いっか
ベルトを外してうまい具合にズボンも下着もずらして見ると今までの痕が見える。まあ別に重なってもいいや大した問題でもない。というかこれカッターがなかったらシコってるようにしか見えないんだなぁー。
頭の中は勝手によく分からない言葉を並べあげている。それと共に後ろにある感情の渦。手が震えるから早めに当ててすっと、引いて
「痛……」
ぱっとそばにあるティッシュを当てる。涙が出てきた。でも、渦が引いた。痛い。意外と深くしてた。血が赤い。赤い。痛い。いたい。
息を吐いたら、すっと、頭が冴えた。
起き上がってとりあえず抑えたまま別の手で救急箱をとる。治まりかけのところに軽く消毒液を含ませてサッとふく。念の為、当てるガーゼを用意してティッシュを……ちょっと張り付いた。剥がれない……痛っ……。血がまた滲むところにガーゼを当てて固定。
さすがに何回かやってるだけあって何とかなった。ふぅ、と一息。
そこで、ようやく携帯が震えているのに気がついた。
「やばっ」
数本瓶を倒したが蓋が閉まっていたので平気だった。とりあえず倒れ込みつつ散らばったまんまの荷物から取り出して繋げる。
「もしもしー?」
少し声が掠れた。
「……田町さん?鈴城です。大丈夫ですか?」
何に対してだろうか。分からないけど。
「すずきさんですかーでるのおくれちゃってごめんなさい。ちょっと、どたばたしちゃって、へへ」
冷や汗が背筋を伝う。声が治らない。
「まあ驚きはしません。別にいいですよ。…」
「どうかしたんですか、その、えーと、せんぱいからでんわするなんて」
先輩がなにか言おうとしたのを遮ってしまった。
「あー、忘れ物があったので保管しとくって連絡です。メッセージだと見ないでしょう?」
「ああ!そですね。わざわざそのために?……ありがとうございます」
分からないのにまた涙が滲んできて困る。
そしたら、こんなこと言われちゃうし。
「大丈夫ですか?」
「だいじょぶ!です」
「…………分かりました。じゃあ、明日忘れ物も渡しますから。来てくださいね?」
「はぁい」
演技のセンスもないのはかなり困る。まるで引っかけてるみたいだ。
「…じゃ、また明日。」
「わざわざありがとうございましたー。へへ」
きれた。
そのまま僕のエネルギーも尽きる。
たくさんの物の上にまた寝転ぶとさすがに背中が痛かった。
あーあ。多分迷惑かけちゃうなぁ、あの通話じゃ。まだまだだめだめだ。
ほんとに、どうしようもない。
滲んた血は乾いて茶色くなっていた。
…………明日、どんな顔をすればいいのか、僕にはもう分からない。
「はぁ…………」
とりあえず鞄に荷物を戻し始めた。