@toasdm
おかえりと出迎えた雨彦は既にバスタオルを手にしていた。言いたいことは山ほどあったが、お小言と彼女の体とどちらが大事かなど愚問だった。天秤にかけるまでもない大事な大事な濡れ鼠をバスタオルで包んで、雨彦はがしがしと髪の毛を拭いてやった。
「連絡くらいしてくれよ」
「えへへ……」
何を笑ってるんだいとつられて半笑いになりながら、雨彦は雨に降られた彼女の水気をざっと拭う。風呂沸いてるぜ、と濡れたジャケットを受け取ってから、雨彦は彼女をバスルームへと促した。
お前さんのことだからな、と雨彦はため息をつく。こんな雨の中アイドルを足に使うなんてできません、などという謎の理論を振りかざして連絡もしないまま帰宅したのだろう。迎えを呼ぶのも申し訳ないが、心配をかけるのも不本意だった彼女の最大限の努力は、全力で走る、だったのか――ハンガーにかけたジャケットの裾、前側にはあまり濡れた染みが広がっていないのを見止めて、雨彦はくすりと笑った。雨の手に撫でられながら体を斜めにして全力疾走する彼女を想像してみたが、体さえ冷やさなければ面白い絵面だと思ったのだ。
「うわうわうわ、うわ、ちょっ、雨彦さん」
「お、っと」
今まさにスーツのパンツを脱ごうとしていた彼女は、突然の乱入者に脱衣所で慌てふためく。濡れて張り付いて脱ぎにくいところに慌てたものだから足はもつれて、よろけた体を抱きとめて雨彦は眉をひそめた。
「い、今脱いでる……」
「お前さん、冷えてるな」
「そ、そりゃ、雨に濡れましたから……」
かぁっと頬を赤らめて、離してください、と顔を背ける彼女の肩を震わせているのは、羞恥なのか、雨の冷えなのかはよくわからなかったが、どちらにせよ雨彦には捨て置くことはできなかった。
「なぁ、お前さん」
「ひぇ」
器用に足だけでスーツのパンツをするりと脱がせて、雨彦は彼女を支えたままぷちぷちと、ブラウスのボタンを外していく。
「お前さんを濡らす雨は、俺だけで十分だろう?」
それはどういう意味ですか、と尋ねる暇などどこにもなく、張り付いたブラウスも、下着も、全ては雨彦の手で取り払われる。待ってこれ滅茶苦茶恥ずかしい、と一糸纏わぬあられもない姿にさせられた彼女の素肌に、同じ姿の雨彦の素肌が触れるまではほんの数秒のことだった。
「せっかくだ、一緒に入ろうぜ。お前さんを優しく濡らしてやるから。な?」
「待っ――」
冷たい雨が濡らした体を抱き上げて、雨彦は湯気の立ちこめるバスルームへと彼女を運ぶ。ざぶん、と湯船に二人で身を沈め、彼女を膝の上に抱いてにんまりと雨彦は笑った。
「風邪だけは引かせないから安心してくれよ」
「そ、そうじゃない……んっ!」
すっかり冷えた体を這うのは、この上なく優しい雨の手だった。