@toasdm
面倒な女だと思われてしまったかもしれない、と一瞬の後悔が彼女の表情をワントーン暗くした。なんでもないです、と言いかけた彼女の手を取って、神妙な面持ちの道夫は両手でそっと、その手を包んだ。
「君のどこが好きなのかを、端的に表現するのはとても難しい」
真っ直ぐの瞳は思わず目線を逸らしたくなるほどに力強く、彼女は口篭り、やがて黙り込む。ゆったりと低く響くバリトンは、シルクのような心地よい手触りすら感じるような艶のある声で、もしかしたら私はこの声にやられたんじゃないのかな、と彼女はいつも思うのだ。道夫は続ける。
「指も、髪も、唇も、瞳も、全てが私にとっては愛おしい」
どストレートにも程があるのでは?!と恥ずかしさに軽くパニックになる彼女を余所に、道夫はあくまでも真摯に、なんなら握る手に力をこめて言葉を紡ぐ。
「……全てを説明するには膨大な時間が必要になりそうだ」
また今度、とはぐらかされるのかと少し残念な気持ちと、これで漸く解放されるのか、という安堵とが、彼女の気持ちを緩めたところに、それは突然やってくるのだ。
「だから私は、一生かけて君にそれを伝えようと思う」
はいっ!?の返事の大きさから、彼女の動揺は道夫にも、はっきりと伝わった。知りたいと言ったのは君だろう、と言いながらにやりと笑った口元は、彼女がよく知っている、タチの悪い、いたずら道夫の口元だ。
「か、からかってる!」
「はは、そんなつもりはない、私は本気なのだから」
いたずら道夫のどこが一番タチが悪いのかと聞かれれば、彼女は一切の迷いなくこう答えるだろう。
真顔で冗談を言うけれど、その冗談が本心から来るものだからタチが悪い、と。