「プロデューサーさんかわいいー!」
「今日もプロデューサーはパピカワだねっ!」
大きくなったら可愛い服着られなくなるかも、って落ち込むかのんくんと、そんなことないよって教えてあげる咲ちゃんと、シュシュひとつで上機嫌なPさんの「可愛い」のお話です。
@toasdm
昨日たまたま見つけた可愛らしいチャームのついたシュシュで束ねた髪は、彼女の機嫌の良さをそのまま表したようにつやつやとして肩で揺れていた。隠し切れない喜びが彼女の体をウキウキと揺らしていた、とも言えるのだが、そんな上機嫌な彼女の後ろ、ソファの上で次の仕事の写真を確認していたかのんは対照的に暗く沈んだ顔をしていた。
こんなかのん、かわいくないよね。ちらりと視線を上げた窓に映った自分の表情の暗さに、かのんはまたため息をついてしまった。衣装合わせの後からずっとかのんは気落ちしていたのだ。だから、お疲れさまー、と底抜けに明るい咲の声が事務所に響いても、かのんは笑顔もみせずに、おつかれさまぁ、の声を床の方へと落としてしまっていた。
「かのん、表情が暗いよー」
「うぅ、さきちゃん……」
そんなのかわいいが台無し、と真っ先にそれに気付いた咲はソファの上のかのんに目線を合わせて膝をついて、パピッとかわいく笑って、ね、とその柔らかなマシュマロのような両頬をむぎゅっと包んで上を向かせた。
「どしたの? 何か悩み事?」
「うん……あの、あのね」
ぎこちなく作った笑顔は咲の胸を軽く締め付けて、これは本格的に参っちゃってるのも、と咲の表情も少しだけ暗くなる。ぽつぽつと話しはじめたかのんの隣、咲は腰掛けて手元の資料へと目を落とした。
「わ、次のお仕事の衣装? すっごくカワイイ!」
「うん、でも……衣装さんがね」
写真を咲に手渡して、かのんは小さな膝の上でぎゅっと手を握りこむ。
「おおきくなったね、って」
「うんうん、成長期だもんね」
それはいいことだと、その時の咲は何の気なしに答えたのだが、かのんの表情はますます暗くなり、本降りの様相を呈しはじめて、咲はドキリとする。やば、あたしなんかマズっちゃった?とかのんの言葉を待つ咲に、かのんは涙目になりながら続けた。
「かのん、おおきくなったら、もうかわいいお洋服着られなくなっちゃうのかな」
こんなに胸を締め付ける言葉が他にあるだろうか、と咲は胸の痛みに眉尻を下げた。それと同時に、そんなことない!という強い意志が咲の中で一気に膨れて、気がつけば咲は、大きくなった小さなかのんの体をぎゅっと抱きしめて優しく頭を撫でていた。
「わ、さきちゃんっ」
「そんなことないよ! かのんはずっと、かわいいかのんのままなんだから!」
「うーーー……」
まだ納得しないのか、かのんは不安を口から零す。パパが新しい子供モデルをつれてきたこと、いつかは自分も大きくなって、かわいい子供モデルではいられなくなること、大人になった自分がかわいいままではいられないこと、そんな不安は、ちいさなかのんの中に閉じ込めておくにはあまりにも大きすぎたのだ。そっか、とひとしきり不安を吐き出させてから、咲はニコッと笑って、あたしを見て、とかのんから少し離れた。
「あたしはまだ、大人、って感じじゃないけど」
フリルやレース、リボンのあしらわれた可愛らしい服装は、いつもの咲のそのままだった。あたし、カワイイ?と微笑む表情も、髪型ひとつアクセサリーひとつとっても、完璧な可愛いがかのんの前にあり、こくん、と素直に頷くかのんに咲は続ける。
「あたしくらいになったって、カワイイでしょ?」
「うん、さきちゃんかわいい」
「それにね?」
分厚い不安の薄皮をゆっくり剥ぐように、咲はプロデューサーを指差した。
「見て、今日のプロデューサー、とってもカワイイでしょ?」
「あ……」
お気に入りのシュシュひとつで、二人のやり取りなど全く耳に入らないほどウキウキしながら仕事をしている彼女の姿は、確かにかわいいと言えた。
「ほんとだぁ……プロデューサーさん、かわいいね」
「うんうん。大人になっても、カワイイはカワイイのままなんだよ!」
そうかも、と思えるだけの純真な素直さが、かのんの考えと表情をぱぁっと明るくした。二人は顔を見合わせてにんまりと笑いあい、立ち上がりウキウキの彼女の両脇から、えいっ、と勢いよく抱きついた。
「うわぁ!? な、なん、なんですか二人とも!」
「プロデューサーさんかわいいー!」
「今日もプロデューサーはパピカワだねっ!」
状況の全く飲み込めていない彼女は、突然始まったかわいい二人の可愛いサンドイッチ攻撃に目を白黒させて、それもまた、二人にとってはかわいいの道標になった。暗く沈んでいたかのんは、かのんが一番大好きなかわいいがどこかへとやってしまったかのように、事務所の中はしばらく明るい笑い声が響き合っていた。